第11話 武器屋で脱出の支度をした
「こんばんは~」
そう言いながら武器屋の扉を開けるモモ。
俺はモモの肩に止まっており、ファングはシャルを背に乗せてモモの後ろに付いてきていた。明かりの下で分かったのは、ファングの左目の上下や顎に刀傷があることだ。店の奥に目を向けると、革の前掛けをしたマッチョな親父が武器類が並べられている棚の整理をしていた。
「いらっしゃ――、ってモモか。何だ? 今日は妙な連中を引き連れてるな」
振り返りざま、そう言った店主。ファングを見て顔がひきつっている。
「もうお客は来ないわよね? 少し相談があるんだけど良い?」
「ああ良いぞ。もちろん一悶着があるんだろうが、ここではなく他所でやってくれ」
肩を
「まずはシャルの身なりを何とかしなきゃな」
俺はモモに耳元でこっそり言った。
「フフフ。ねぇ、小さな女の子の服って持ってる?」
肩を小刻みに震わせながら問うモモ。
「残念ながらそんな趣味はないぞ。戦う漢の為の武装が俺の専門だしな」
太い腕を組みながら答えるアームストロング
「あんたの趣味なんてどうでも良いわよ! なにか無いの?」
「布とベルトがあるから適当に巻いたらどうだ?」
「分かった。じゃあ遠慮なく分けてもらうわ」
「こんな夜更けに街を出るんだから一般人じゃない、例えば冒険者風に仕立てた方が良いんじゃないか? 何か武器は持たせられないか?」
俺は再度モモに囁いた。
「フフフフ。あと、この子に武器を持たせるなら何が良い?」
「クロスボウはどうだ? 巻き上げ式なら非力でも弦が引けるぞ。お前の従者って言えばそれっぽいんじゃないか?」
「フフ。そうね。じゃあ体に合わせてみましょうか、え~っと」
モモがシャルに向かって言った。
「シャルって名前だ」
俺は道中聞き出したその名前を言った。
「フフフ。エコー、耳元でくすぐったいったら!」
「俺たちが会話している様に悟られないようにするためだろ。我慢しろよ」
「我慢にも限界が有るわよ」
「珍しいな、その鳥は喋れるんだな。しかも人と会話ができるときた」
アームストロングが俺たちの方をじっと見ながら言った。
「それにもう手遅れよ?」『手遅れみたいよ』
モモとパイラの声が重なった。
「あぁもう! もう良いから早く準備しろよ」
俺はモモの肩から飛び立ち店の入口近くに移動しながら行った。
「覗いちゃダメよ」
モモはシャルの手を取って店の奥の方に行った。俺はその後ろ姿を見送っていたが、シャルはカウンターの奥のやっとこばさみや金槌などの工具を指差しモモに何か言っている様だった。
……暫く待つとするか。
『なぁパイラ、話を戻していいか? お前の能力の話だ』
俺は外をぼんやりと眺めるでもなくパイラに聞いた。
『ええ、もちろん』
『魔法的なことを解明する事ができるって言ってたよな。こっちの世界はどんな魔法があるんだ? 傷を治す魔法とか、火の玉を飛ばすとかそんなのが有るのか?』
『ええ。それこそ数えないくらいの魔法があるわよ。兵士や冒険者が負った傷を治す時には、魔法使いが神聖魔法を使うか、神聖魔法を仕込んだ魔法羊皮紙を使うかよ。あとは治癒効果のある精霊魔法もあるはずよ』
『治癒効果のある精霊魔法が存在するかどうかをお前の能力で解明できるのか?』
『そう言うのは多分無理ね。私の能力の条件として対象を認識しておく必要があるわ。精霊魔法を使える誰かを前にして、「この人が使う精霊魔法に治癒効果の魔法がある」というのが正しいかどうかを問う感じね。その質問が的を射ていて正しければ正解。その質問が的を射ていて正しくなければ不正解というのが何となく分かるの。質問が的を射ていなければ何の反応も無いわ』
『じゃあ、「シャルには魔女の様な特殊能力がある」という問いはどうだ?』
店の奥でモモに布切れを巻きつけられているシャルを見ながら言った。
『ちょっと待って、集中するから……。その答えはノーね』
『お前が説明してくれた様に、仮に魔女の様な本人だけが持っている特殊な能力をギフト能力と呼ぶとするぞ。その場合「シャルはギフト能力を持っている」という問いはどうだ?』
『……その答えは、ノーよ』
なるほど、名称の定義もできるみたいだ。質問をするパイラが名称を納得できれていれば良いのか?
『じゃあ、「俺、エコーはギフト能力を持っている」という問いは?』
『……、あら? イエス。と言うことはあなた術師なの?』
ふむ。パイラの能力は本物の様だ。では、鳥の俺には剣技が使えない事を踏まえて……。
『次だ。「俺のギフト能力は武器を持っていないと効果が発揮されない」という問いは?』
『……、イエスでもノーでも無いわね』
ん? どう言うことだ?
そうか、俺の能力には、俺が観察している人の武術の技量を見極められるってのが有ったな。
『これはどうだ? 「俺のギフト能力は、武器を持っていて効果を発揮するものと、武器を持っていなくても効果を発揮するものがある」という問いだ』
『……、イエスね』
武器を持っていて効果を発揮するものは実際に戦ったときの効果だろう。
『「俺のギフト能力で武器を持っていなくても効果を発揮するものは、相手の武術の技量を見極められる物だ」という問いはどうだ?』
『……、イエスでもノーでも無いわね。イエスに近いみたいだけど』
なんだよそれ! イエスとノーの二値じゃないのかよ! まるで理系じゃない人間を相手にしているみたいだ。
いや、だが質問のパラメータが少なさそうだってのは分かった。二値じゃないってところがヒントをくれてる感じもするしな。しつこく質問をしていけば色々と解明できそうだ。
『じゃあ、「この世界の精霊魔法と神聖魔法は同じ仕組みで発動させる」という問いはどうだ?』
『あら? そうだったのね……。答えはイエスよ』
対象をこの世界にして当てずっぽうで問うてみたが、なるほどね。あのバグ女神が言ってた、ソフトエンジニアの俺とこの世界の魔法の親和性が高いという意味が、何となく分かってきたぞ。
「お待たせ」
シャルの支度を済ませた様子のモモが寄ってきた。
「これだと冒険者みたいでしょ?」
深めのフードを被り背にクロスボウを背負ったシャルを俺の方に押し出しながらモモが言った。腰に巻いたベルトにはたくさんのポーチや工具が付けられていた。
「さ、帰りましょ」
ファングの首にはスカーフの様に布が巻かれており、肩から前肢にかけて革のベストを着せられていた。まぁ、これなら野生の狼じゃないってことが分かりやすい訳だ。あるいはシャルがファングに乗るときの鞍代わりになる、のか?
「あ、そうそう、あんたにもこれあげるわ」
モモは指から外した指輪を、俺の右足を無理やり掴んでそこに通した。
「あんただけ何も身に付けてないからね。それに門の前で私に付いてきてくれるって言ってくれたし」
「あ、ありがとうござます……」
突然の贈り物に、変な感じで応えてしまった。
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