第10話 囚われの女の子を連れ出した
「ここに囚われている人はあなた一人?」
両膝をついて女の子を両肩に手を置きながらモモが言った。
「はい」
答える女の子。
「どうする?」
モモが俺に聞いてきた。懲らしめる前に確認してからだって言っておいたのが効いているのか?
「まずはその子を安全な所に連れ出すのが良いんじゃないか? そしてその子から詳しいことを聞き出すんだ」
「そうね。じゃあ、ここから逃げ出すわよ」
モモが女の子にそう言った。
「あの子も助けて欲しいです」
「あの子?」
「多分こっちです」
女の子は箱から出て周囲をちょっと見回した後、一つの布が被せられている檻に近づいた。そしておもむろにその布を取り払う。
そこには立派な犬が居た。いや狼か!? 暗くて良く見えない。
「危ないわよ!」
モモが素早く女の子をその狼から引き離した。
「ファングは襲ってこないのです。だから一緒に助けて欲しいのです」
視線に合わせてしゃがみ込むモモをじっと見つめて、その女の子は言った。それを黙って見ている狼。
「う~ん、分かったわ」
気乗りのしない様子で答えるモモ。どうするのか問いかける様な目で俺を見てきた。
「鉄格子の檻だし、立派な錠がかけられているぞ?」
俺はモモに言った。
「こっちです」
モモから離れた女の子は部屋の奥の方に駆け出し、先程俺が探った机に向かって行った。そしてその引き出しを開き、そこから鍵を取り出した。
ほらやっぱり! 鍵はそこに有っただろ? 俺は鳥だから開けることが出来なかっただけなんだ。
鍵を取り出した女の子はファングの入れられた檻に戻り、錠を開いた。
「おい、本当にその狼は襲って来ないんだろうな?」
俺の問いかけを無視する女の子。
「大人しく付いてきて欲しいのです」
女の子のその言葉に答える様に、ファングはブヮッフと応えた。
だ、大丈夫みたいだな。
『なぁパイラ、この街で人目につかない待ち合わせ可能な場所って知ってるか?』
『そうねぇ。アームストロングさんの武器屋はどうかしら。私達には貸しがたっぷりあるから協力してくれるはずよ』
『分かった』
『あとそれから、その狼、おそらく北方に住む凶暴なハイウルフよ』
『……、分かった』
解放する前に言えよ。
「モモ、お前はこの店に入ったのを目撃されている可能性がある、何もなかった様に振る舞ってこの店の表から出ていけ。そしてその後はアームストロングの武器屋で待ち合わせだ」
「え? この子達はどうするのよ?」
「モモとは別に、俺たちは裏口から出てその武器屋に向かうさ。パイラに誘導してもらうから大丈夫だ」
ファングはまるで背中に乗れと言う様に女の子の前にしゃがみ、顎で誘導している。
「乗せてくれるのですか?」
ブヮッフと応えるファング。
こいつ人の言葉を理解してるのか?
「分かった。じゃぁ後で」
モモがそう言って出口に向かう。
「客として入ったけど店員が居なかったふりをして出ていけよ」
モモは片手を肩の上で振りながら表から店を出ていった。
「もう! 誰も居ないなら、誰も居ないって最初に言ってよね!」
と言うわざとらしい独り言を残して……。
「名前を聞いてもいいか?」
モモが出ていった後、俺は女の子に尋ねた。
「シャルなのです」
そう言ったシャルの瞳の色は緋色で褐色の肌をしていた。耳の上の部分、
「俺はエイコウ、いやエコーと呼んでくれ。これから待ち合わせの武器屋に向かうから付いて来てくれ」
「分かったのです」
その後俺たちはパイラの誘導に従って待ち合わせ場所の武器屋に向かった。途中で通行人とも出会うことなく現地に行くことが出来た。というのも、ファングはシャルを背負ったまま軽やかに屋根を伝いながら駆けたからだ。もちろん俺もファングを誘導するために先導して飛んだ。
そんなこともあったので、ファングは完全に人の言葉を理解しているのだろうと思った。あるいはシャルとだけ意思疎通ができるのか……。ちょうど俺とパイラの様に。
『なぁパイラ、ハイウルフってのは人の言葉を理解する動物なのか?』
『そんなことは無いと思うわ。人に関係するよりむしろ敵対するから討伐対象になることが多いハズよ』
『なんでそんなのがペット屋に居たんだろうな?』
『ハイウルフをペットにしたいという需要があるのか、ファングが特殊だったから捕まえられたのか、……よく分からないわね』
『後で確かめるか……』
『ほら、そこの剣と盾の看板が出てる店が目的地よ』
あれがアームストロングの武器屋か。モモに先行して着いてしまった様だから暫く待つか……。
「シャル、モモが来るまでここで身を潜めて待つことにするぞ」
「分かったのです」
シャルがそう答えるとファングは身を低くし待機する体勢になった。もちろんここは屋根の上だ。俺は屋根の端に止まり武器屋の入り口を監視することにした。
暫くするとモモがその店に向かう通りに現れたので、俺達は店の扉の前でモモを迎える事にした。
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