第5話 女の人に買われた
貴金属や珍しい調度品、嗜好品を売る露天が並ぶ通りの奥の方に、ブーカが運んだ俺たちペット候補は運び込まれた。独特の匂いや叫び声を発する俺たちは、いや、俺はそんなに騒いではいないが、通りの奥の方で販売される様だ。この通りはかなり怪しい場所らしく、ちらりと見えた店の奥には小さな女の子が檻の中に入れられていた。
この世界は奴隷も売買するのか? 合法なのかこれ?
手が出せない俺は、何もすることが出来ずただ周囲の風景を眺めていた。鳥だしな……。
ブーカが俺たちを運び込んだ店のバックヤードでは俺たちペット候補は見すぼらしい木製の檻の中に入れられていたが、店頭では小綺麗な金属製の檻の中に入れられる。客が来るたびにざわつく獣達。だが俺は悠然と構え、上客が俺を見初めるのを待った。できれば金持ちだけが買える様な高値であって欲しい。開店している間、ブーカはバックヤードからは出てこず、代わりに身なりの良い男が店番をしていた。
俺が店頭に並んで、客を見定めている日々が幾日か続いた。帯剣した客が来たときにあることに気づいた。それは武器を使った武術の度量を見極められると言うことだ。帯剣していない人物でも、装備していることを想像すれば見極められた。これが『剣聖』の力の一部だと気づいた瞬間、自分の冠羽が逆毛立つのが分かった。こんな境遇に陥れたあの女神に対する怒りが沸点に達したのだ。と同時に、俺はペット王になるんじゃなく、あいつの元に戻って一発殴ることが真の目的だと考え直すに至る。いや、思い出したのだ。野生のサバイバルからの開放の喜びで、すっかり忘れてしまっていたことには素直に猛省した。
その新たな目標に向け、ついでに暇な時間を利用して、武術の度量を見定めるうまい方法は無いかと考えていた。
ふむ、数値化して比較するという手もあるか……。
仮に俺が全盛の人間男性であることをイメージしてみる。双剣を装備したとき、大剣を装備したとき、さまざまな武器を持った時を想像してみた。攻撃力、速度、技量の総和が最も高いのは右手に剣、左手に短剣を持った時だと剣聖の能力で定めることができた。防御力は左手に盾をもったときに劣るが、回避力はそんなに差異は無い。
そんな俺同士が戦った場合もイメージしてみる。一撃で勝敗が決まるのではなく、互いに徐々に傷を与える様な結果となった。勝敗はちょっとした外因や運に左右されると想像することができた。
そんな俺の最盛期の攻撃力、速度、技、防御、回避を10としてみる。基準が必要だからな。それに対して訪れる客を見定めていった。どうせ暇だし。
太った商人風の男。武器を帯びていないので剣を装備したとする。
攻撃 3
技 1
速度 1
防御 2
回避 0
弱いな。攻撃力があったとしても当たらなければ役に立たない。きっとただの的になるだけだろう。
若い女性。貴族とは言わないが裕福な家の娘の様だ。護身用の短剣を隠し持っている。
攻撃 2
技 3
速度 3
防御 1
回避 2
護身術でも習っているのか? 一般人にしてはなかなかの技量だ。
ふと今の俺がどうなのかを知りたくなった。鳥の俺、武器は無い。
攻撃 0
技 1
速度 3
防御 0
回避 3
なんてこった、攻撃は通じないじゃないか。しかも相手の攻撃に対する防御手段が無い……。
次に現れた勝ち気な二十に満たない年頃の女。赤に近いオレンジ色の髪、額には鉢巻を巻いていた。ショートパンツの下には柔らかそうな革製のブーツを履いている。そして左腰には二本の剣を帯びていた。冒険者か?
攻撃 5
技 3
速度 3
防御 4
回避 4
お、これはこれは。今までの鑑定した客達から、かなり抜きん出た人物だった。
あれ? じっとこっちを見ている……、な。
「店主、この鳥は?」
「へぇ、珍しい南国の鳥です。カラフルな色が混ざった鳥は割と捕獲されるのですが、こいつの様に真っ白で、冠だけが赤やオレンジ色なのは数百羽に一羽ぐらいの頻度でしか捕獲されません」
「なるほど、パイラの要求通りのやつかな……」
「いかがです?」
「いくら?」
「へぇ、これほどで」
店番の男が指で数字をその女に見せた様だったが、こちらからは見えなかった。
「いいわ。念のため確認しておくけどこの鳥はオウムよね?」
「へぇ、オウムの一種です」
オ、オウム!
それを聞き、俺は自分が特別でも何でもない単なる鳥であることに落胆した。特殊な鳥である可能性がゼロになった瞬間だった。
……オウム。
店主とその女性がしばらく話し込んだ後、俺の籠に布が被せられそして運ばれた。その途中で布の間から、檻に入れられた女の子が居た店がチラリと見えたが、その奥を見ることは出来なかった。
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