第4話 港町に運ばれた

 ブーカと呼ばれた若い男が俺たちペットを檻ごと小さな荷馬車に詰め込んでいた。気の荒そうな大型猫の仔や、彩りの鮮やかな小鳥達、子猿などを載せている。


 俺の鳥かごは荷馬車の御者席に固定された。


「お前は特別だからな」


 ブーカはそう言うと荷馬車を引くロバを鞭打った。


 周囲は背の高い鬱陶としたジャングルが広がっている。その中の、荷馬車がようやく通れる細道を進んでいく。ブーカは時折スピードを緩めながら慎重に進むようにロバに指示した。ジャングルを抜けるのに一日かかった。


 その後、やや開けた、時折見すぼらしい人々が畑仕事をしている様子が見られる道を通った。これまでの旅の間中、ブーカは俺の檻の中の様子を見、餌と水を切らす様なことはなかった。


 ある日、馬車の車輪が何かに乗り上げたか窪みに落ちたかして、大きく揺れた。俺の入った鳥かごを固定していた紐も緩んでいたのか、その拍子に荷馬車から放り出され鳥かごが壊れてしまった。


 うわっ!


 俺は壊れたかごから地面に放り出されてしまった。地面に放り出されると同時に俺はとっさに駆け出した。まだ巣立ち出来ていないし上手く飛べないのだ。


「うわっ! ちょっ! 待ってくれ!」


 ブーカが慌てた様子で俺に向かって叫んでいる。


 俺は我に返り羽を広げ怪我がないかを確かめた。どこにも異常が無いと判断した俺はゆっくりとひしゃげたかごの方に戻ることにした。


「え? お前、逃げないの?」


 何を言ってるんだブーカ。野生サバイバルなんてまっぴら御免だから、俺はペット王を目指すんだ。


 そう言う意味を込めて一声、ギャーと鳴いてみた。


「に、逃げるなよ?」


 ブーカがそう言ってこちらを気にしながら鳥かごを修理している間、俺は悠々と羽づくろいをしていた。


 鳥かごの修理が終わろうとしたとき、俺は自らかごに近づき中に入った。


「お前……」


 修理された鳥かごの中に入った俺は、羽を広げもう一言、ギャーと鳴いてやった。


 さあ行こう! ペット愛好家が待ってる世界へ!


  *  *  *


 数日後、ブーカの御する荷馬車は砂浜に出た。進行方向の視界の大部分を広大な海と青空が占めており、体中の羽毛をなびかせる潮風が心地よい。海に向かって桟橋が伸び、その先には一隻の船が係留されていた。ずんぐりむっくりしたその船体には三本のマストが垂直に伸び、船首前方にも一本のマストが伸びている。


「先はまだ長いな」


 ブーカが前を見たまま誰に言うでもなく呟いた。そしてその通り、俺達の長い船旅が始まった。


 他の動物達は船倉に押し込まれたが、俺はブーカと一緒の客室、とは言っても幾つかのハンモックが渡されただけの狭い空間に運び込まれた。もちろんブーカからはきっちり給餌されたし、一日一回は甲板に連れて行ってもらい、鳥かごを清潔に保ってもらった。


 そして長い長い航海の後、石造りの外壁で囲まれた大きな都市に着港した。


 さあ、俺の身売りの戦いはこれからだ!

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