第7話 禁断〜side story②

※ 禁断

  禁断〜side story①の続きとなります。



「今世紀最大の一大事だ」

 大きな声を上げたのは父だ。

「お父さん、大げさ」

 瞳は、そんなこと大したことないと冷めた表情をする。

「いや、だって。俺の子が、あの超有名難関大学に合格した上に、将来は弁護士になるって言うんだから、そら驚くだろ、俺とかあさんの子だぞ? なぁ? そう思うだろ?」

「はいはい、今日はお祝いだから、いっぱい食べてね」

 母は父を軽くあしらって、ニコニコしている。

 元々成績の良かった瞳は、あの夜ーー二人の想いを確かめ合った日ーーから、集中して勉強をし国立の大学を目指し、あっさりと合格をした。


「だから、この家出てもいいでしょ?」

「は?」

「え?」

 瞳の言葉に両親は戸惑っていた。

「お姉ちゃんだって一人暮らししてるし、いいよね?」

「そしたら、この家にお父さんと二人になっちゃうじゃない」

 母が悲壮感たっぷりに言う。

「ママ、その言い方……」

 父が眉間に皺を寄せながら。

「二人とも出す経済的余裕は……なぁ」

 情けないが、と肩を落としている。

「だったら、お姉ちゃんと一緒に暮らすってどう? 一人暮らしより安心だし、経済的にも助かるよね? 時間が出来たら二人で遊びに来るから、ママも寂しくないでしょ」

「まぁ、それなら」

 なんとかなるかなぁ、と父は目を閉じた。貯金の計算でもしているのだろうか。

「頑張って在学中に司法試験に合格するして、すぐに稼いでみせるから」

 瞳は胸を張っている。


「瑠衣はいいの?」

 母は心配そうに私を見る。

「私は、いいよ」

 冷静を心がけて答えた。

「だったら、そういうことで。ね、温かいうちに食べましょうよ」



「ね、言った通りだったでしょ」

 食事を終えて、瞳の部屋へ二人で戻って来た。

 二人で暮らすことを両親に納得させるために、瞳が考えた作戦は見事に成功した。そういえば昔から人の考えを読むのが得意だった気がする。それが親ならば容易いことか。

「これで、思う存分イチャイチャ出来るね、大きなベッド買おうよ」

 新生活を想像してにんまりする妹の顔を見ると、私も口角が上がるのだった。


「でも、なんで弁護士なの?」

 小さい頃から仲が良かったが、将来の夢の話に弁護士なんて、聞いた事がなかった。

「いろいろ調べたんだけど、一番稼げるのが弁護士だったから」

「へ?」

「女二人でやっていくにはやっぱりお金でしょ? そこらの男よりも稼いで、お姉ちゃんを幸せにするからね」

 誰にも文句を言わせないーー迷いなく、そう言い放った。

 我が妹ながら、頼もしくて……惚れるわ。




 二人だけの新生活は、順調だった。


 瞳の大学は、チャラい感じではなくお堅いイメージだ。瞳も、司法試験を目標にいているため真面目に講義を受け、家でも課題に取り組んでいる。

 私はサークル活動もそこそこにして、飲み会の回数も減った。瞳が喜ぶから料理も覚えていった。実家へ遊びに行って、母に教えてもらう。親も喜ぶし一石二鳥だ。


「ママ達、元気にしてた?」

「うん、なんだかんだ言いながら仲良くやってるみたい。今度こっちに遊びに来たいって」

「え、それはやだなぁ」

「えっ、いいよって言っちゃったよ」

「なんで? 寝室のダブルベッド、どう説明するの?」

「あ、一緒に寝てるって言ったら……」

「ママなら、あら仲良しね! って言うかもだけど」

 あはは、あり得る。

「きっとママ、掃除し始めるよ。アレ見つかったら言い逃れ出来ないよ?」

 瞳の言葉にハッと青ざめる。


「瑠衣、今日はアレ使うから。逃げちゃだめだよ」

「はっ、うん」

 瞳が私を名前で呼ぶ時は、そういうスイッチが入った時で、私はそんな妖艶な瞳の表情を見るだけで身体が熱くなるのだった。



「ーーっ、はぁぁん」

 今夜もまた、瞳の指使いに私は蕩ける。

「瑠衣、その顔エロい」

「んん、瞳……欲しい」

「何が?」

「ちゅー」

 瞳は私が欲しがれば、してくれる。

 熱い舌が差し込まれ、口内を暴れ唾液が混ざり合う。

 下腹部の愛撫も続けながらなので、感じまくってすぐにでもイキそうになる。

「瑠衣、我慢して」

 瞳には私の全てが分かるようだ。

 イク寸前に瞳の身体が離れ、瞳がソレを装着した。

「ーーっや」

「嫌じゃないでしょ? いつもやらしい顔して啼くくせに」

「そんなことーー」

 たまに瞳が付けるコレは無機質で冷たいまま私の中に入ってくる。

 だから、本当は瞳の指の方が全然好きだ。でも瞳がーーコレを付けて腰を振る瞳の顔が気持ち良さそうだから。私もさらに気持ち良くなる。

「お姉ちゃん一緒に逝こう」

 私はずっと瞳と一緒だよ。



 少しでも親の負担を軽くするため、少しでも良い会社へと就活をしたが、結局ソコソコの会社への内定となった。

 給料はそれほどでもないが、人間関係は良好なので良かったと思っている。

「大丈夫、すぐに私が高給取りになるから」と瞳は言う。

 大学三年になった瞳は、迫り来る司法試験の予備試験のため勉学に励んでいる。司法試験を受けるための試験? 大変そうだなぁ。

 そんな中でも、私が残業で遅くなった時には駅まで迎えに来てくれる。

「一人じゃ危ないでしょ」と言って。

 飲み会の時には必ずお迎えがあるし、この前なんかお店の前で待っていた。

 あれ、お店の名前言ったっけ?

「お姉ちゃんの事ならなんだって分かるよ」と言う瞳。

「なんだか瞳の方がお姉ちゃんみたいだね」と言ったら「今頃気付いたの?」と返される始末。

 違いないーー酔った頭では、何もかもが楽しく思えてケラケラと笑った。


 社会人二年目になると、可愛い後輩の指導も任された。なんだか仕事が出来る人みたいじゃないか。まぁ小さな会社だからね。

 予備試験を合格した瞳は、今年はいよいよ司法試験だ。予備試験の合格者の最年少は18歳らしい。え、大学一年ってこと? 上には上がいるもんだ。


 私は、頑張っている瞳を誇りに思う。

 私に出来る応援は、美味しいご飯を作ったり、部屋を綺麗に掃除したり、洗濯をしたり、お風呂掃除をしたり。あれ、これってただの家事だなぁ。

「行ってきまーす」

 試験の日、自信満々な瞳を見送った。



「嘘ーー」

 そう言ったきり無言になった。

 パソコンに向かった瞳の後ろ姿。


「瞳、大丈夫?」

「うんーー」


 結果発表の日。

 法務省のホームページで確認するらしい。どうやらダメだったみたい。

 パタンと閉じられたパソコン、振り向いた瞳は笑っていたけれど。

 鈍感な私にだって分かる。瞳の悲しみは。


 近づいて抱きしめた。

「泣かないで、瞳が頑張ったのは私が一番知ってるよ」

「泣いてないよ」

 確かに涙は出ていないけれど、この仏頂面は何度か見た事がある。瞳のプライドが傷ついた時だ。

 そういえば挫折らしい挫折を知らないもんね。それだけ努力してきたんだもの。

「わかってる、わかってるから」

「な、にが」

 体を離そうとする瞳を、そうはさせず更に力を込めて抱く。

「逃げないで、今日は私に任せて」

「は、何言ってーー」

 口付けをした。長くーー瞳の力が抜けるまで。

 そのままベッドまで連れて行き押し倒した。初めての事だ。

「ちょっと、お姉ちゃん?」

「私だって、瞳を抱きたいの。いいでしょ?」

 瞳みたいに上手じゃないかもしれないけど、そこは気持ちでなんとかーー愛があれば乗り越えられるはず。


「うっ、痛っ」

「あ、ごめん」

 力加減が難しい、優しくしたいのに、つい夢中になってしまう。

「そこ、違っ」

「こう?」

「ん」

「下手くそでごめん」

「大丈夫、お姉ちゃん」

「ん?」

「好き」

「私も、瞳が好きよ」

「ーーっ、瑠衣、なんか来そう……あっ、んん」



「お姉ちゃん、ありがとう」

「ごめんね、痛くしちゃったね」

 服の乱れを治しながら反省する。

「それは、初めてだったからだよ」

「そうなの? そっかそれで」

 なんだか嬉しいな。

「ニヤニヤしないでよ」

「え、だって、嬉しいんだもん」

「それは、私だって嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいよ」

「え、ということは、少しは感じてくれたの?」

「もうーーまたそういうことを聞くんだから」

 そういうところだよ、と膨れながらも。

「ーー気持ち良かった」と小さな声で。

 頬を赤らめ、少し濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた。



【了】




●ひばりのお話は「今世紀最大の一大事だ」で始まり「濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた」で終わります。

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