第91話 ボス部屋に入ってみた


 “恐怖の館テラーハウス”の地下――古代の生物兵器研究所。

 人が神を殺すための兵器が作られ、古代の人類が“魔族”となった、全ての元凶の地。



 ――その奥深くに、“それ”は封印されていた。



 “それ”は、鎖で磔にされた魔人のような怪物だった。


 人間の禁忌の研究によって生み出され……しかし、あまりにも強大すぎたがゆえに、人間の手で封印された神殺しの生物兵器。

 そして、この“恐怖の館テラーハウス”のダンジョンボス――。



 その名も――封印されしエクス=ディエス。



 ……この怪物の封印が解けたとき、世界が終わる。

 そんな伝承とともに、永い眠りについていたその怪物が今――。


 1000年ぶりに――意識を、覚醒させた。



(…………来タ……か……)



 この部屋に接近してくる存在を感知し、怪物の眼がぎらりと輝く。


 こちらへ迫る存在の数は、2つ。

 この研究所を襲撃するにはあまりにも少ない数だが……。

 しかし、怪物にはわかる。


 …………この“2つ”は、強い。


 この怪物に、1000年ぶりの緊張が走るほどに。

 どこか、神気のようなものさえ感じるほどに。


 神の使徒か、あるいは神そのものか。

 とはいえ、それでも、この怪物には敵わないだろう。


 なぜなら、この怪物は――“全盛期の神々”を殺すことを想定して作られているのだから。



『……ぁ……アぁ、あ……ッ、ッ……!!』



 怪物が軽く身じろぎするとともに、封印のための鎖がばきばきと砕け散っていく。

 巻きつけられた鎖も、拘束装置をも引きちぎり……怪物は産声を上げるように高らかに咆哮した。


 そう、怪物はこのときを待ちわびていたのだ。

 これで、ようやく自分が生まれてきた意味を――“神殺しの兵器”としてのつとめを果たすことができる。


 神を殺し、神の使徒どもを滅ぼし……。

 大地を、海を、空を――世界を、創造主まぞくのものにする。


 この怪物は、そのために作られた“兵器”なのだから――。




(――サ、ぁ……オワリを、ハジめよ、ウカ……)




 そして、怪物が冷徹な笑みを浮かべるとともに――。


 ついに怪物が封印されている部屋に、2人の少女が入ってきた。



 ……なぜか、壁に半分ほどめりこんだ状態で。




「――えへへ! 壁抜けすると、ここのボス戦はスキップできるんですよ!」


「……うむ、楽ちんでいいの(遠い目)」




 壁にめりこんだ少女たちは、そんなことを話しながら、てくてくと出口まで歩いていき……。


 そのまま、普通に部屋から出ていった。




『…………………………………………』




 というわけで、ローナたちは“恐怖の館テラーハウス”をクリアしたのだった。




      ◇




「――よし、あとは迷宮核を取るだけですね!」


「う、うむ……なんか意味不明な怪物がいた気もしたが、われはなにも見なかったのじゃ」


 封印されしエクス=ディエス戦をスキップしたあと。

 ローナたちは迷宮核のある部屋に向かって、通路の壁や障害物をすり抜けながら歩いていた。


「とゆーか、どうしてわれらはかべの中にいるんじゃ? 幽霊にでもなったのか?」


「幽霊なんて、そんなオカルトありえませんよ。これは“壁抜け”です」


「か、壁抜け? それはオカルトではないのか……?」


「はい! それこそが半自動式散弾銃セミオート・ショットガンの真の力ですから!」


 そう、ローナが今さらを手に入れたからといって、「わーい」などと喜ぶはずはないのだ。


 どうせ“最強”などという言葉は、1~2か月で更新されるものらしいし、『半自動式散弾銃キック』などは、あくまで“おまけ”にすぎない。


 それよりも、ローナがこの銃を求めていた理由は……。

 と、ローナはインターネット画面を改めて見る。



――――――――――――――――――――

■裏技・小技/【照準壁抜けバグ】

 【半自動式散弾銃】装備時に、「特定の壁に背中を押しつける」「照準をのぞきこむ」「180度回転する」「爆弾で吹き飛ばされる」という動作を素早くおこなうと壁抜け状態になる(解除するのも同じ手順)


 この壁抜け状態を利用することで、一部のイベントやボス戦をスキップすることも可能。

――――――――――――――――――――



 そう、この“壁抜けバグ”こそが半自動式散弾銃の真価。


「この銃はまさに、あらゆる場所に入ることができる鍵――キーアイテムというわけです!」


「ま、まるで意味がわからんのじゃ」


「ちなみに、この銃があれば玄関の扉もすり抜けられるので、もう普通に脱出できますよ!」


「いや……えぇ……」


 まあ、ここまで来たら、わざわざ玄関まで戻るより迷宮核を取ったほうが早いわけだが。


「それより、これってもとに戻るんじゃよな? 一生このまま壁とともに生きることにはならんよな?」


「はい、それは大丈夫ですが……壁にめりこんでいたほうが近道ができて、『タイムを8秒も短縮できる』とのことです!」


「そやつらはいったい、なにと戦っておるんじゃ?」


「それと、壁にめりこんでると、他にもいろいろと便利なことがあって……」


 と、ちょうどそんな話をしていたところで。



『――ニンゲン……ミツケ、タラ……キル……』



「あっ」


 巡回警備をしていた鎧のゾンビ――キリングアーマーとはち合わせた。


『……ニンゲン……ニンゲン?』


 キリングアーマーは、壁から顔だけ出したローナとしばらく無言で見つめ合い――。




『………………ヨシ!』




 と、頷くと去っていく。


「――と、こんな感じで、壁の中にいるとゾンビに見つからないそうです!」


「……お、おぬし、本当に人間じゃよな?」


「人間ですよ?」


 そんなこんなで、警備をしていたゾンビもいなくなったところで。

 ローナたちは、さっそく迷宮核のある最深部の部屋へと入るのだった。

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