第90話 死神と戦ってみた
「――わーい!
というわけで。
死神から逃れた先で、ローナは念願の武器を手に入れた。
「い、いや……なんじゃ、その武器は? そもそも武器なのか? 見たことのない形状じゃが……」
「はい! これは、“銃”というクロスボウの進化系みたいな武器です! “JK”という最強の神様たちが使っているのを、よく絵画で見ますね!」
「か、神が……? われ、なにも聞いてないんじゃけど……」
なにやら、ショックを受けているテーラはさておき。
ローナは改めてインターネットを確認する。
――――――――――――――――――――
■武器/銃/【
[ランク]SSS [種別]銃 [値段]売却不可
[効果]物攻+3333 クリティカル率+33%
射撃時、【弾薬】を33消費する。
◇装備スキル:【フルスロットル】
[効果]一定時間、速度40%UP。
◇説明:【恐怖の館テラーハウス】のやりこみ報酬であり、“近距離最強”とも言われる武器。
周囲の敵を一掃する散弾射撃も、装備スキルの速度バフも強いが、それ以上にぶっ壊れているのは……。
――――――――――――――――――――
(う、うわぁ、ひさびさのSSSランクの武器だけど……やっぱり、めちゃくちゃだなぁ)
物攻UPと聞いて真っ先に思い出すのは……ただ適当に振っただけでドワーゴの店を破壊したSランク魔剣“
しかし、その魔剣でも物攻+1111だった。
それに比べて、この
(ってことは、一発でドワーゴさんのお店を3回も破壊できる力ってこと……? あいかわらず、こんな武器があっさり手に入っていいのかわからないけど……)
とはいえ、この半自動式散弾銃さえあれば――。
――
と、ローナがそう考えたところで。
「お、おい、ぼさっとしとる場合じゃないのじゃ! やつが来たのじゃ、ローナ!」
テーラの声でふり返ると、いつの間にか部屋の入り口に死神が立っていた。
どうやら、ついに追いつかれてしまったらしい。
――死験体零号デス・エクス・マキナ。
それは、人間が生み出した生物兵器にして、絶対的な“死”の具現化であり……。
揺らめく炎をまとった大鎌をかまえる姿は、まさに“死神”そのものだった。
……あきらかに、人間に勝てる相手ではない。
それでも、ローナは手に入れたばかりの半自動式散弾銃をかまえて、死神と対峙する。
「の、のぅ? ほ、本当に、そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫です、問題ありません」
そう話している間にも、死神はローナに狙いを定めたように歩み寄ってくる。
逃げようにも、もう逃げ場はない。
しかし、この死神に勝つための条件は、
だから、ここでローナが取るべき選択肢はひとつだけだ。
「――フルスロットル!」
ローナの声とともに、半自動式散弾銃の装備スキルが発動する。
自らの速度を1.4倍にし、移動速度・攻撃速度・クールタイム減少速度を全て底上げする壊れスキル。
その発動と同時に、ローナの姿がふっと消え――――。
「――――――必殺」
『――ッ!?』
次の瞬間には、死神へと一気に肉薄していた。
死神もとっさに炎の大鎌を振り上げるが、もう遅い。
ローナは半自動式散弾銃をかまえながら、死神の懐にもぐりこみ、そして――。
「――
――死神を、蹴った。
その次の瞬間――どごぉおおおおおォオオオオッ!! と。
爆発的な衝撃とともに、死神が高速回転しながら吹き飛んだ。
「…………は?」
ぽかんとしたような声を漏らすテーラの眼前で。
がんっ、がんっ、と何度も床をバウンドしながら、勢いよく通路の壁へと叩きつけられる死神。
そのまま、死神は、ずるり……と力なく壁からずり落ちる。
「……え……えぇ、ぇ?」
口をぱくぱくさせるテーラ。ぴくぴくと痙攣する死神。
そんな沈黙の中――。
「うん、インターネットに書いてある通り♪」
と、ローナの明るい声が周囲に響いたのだった。
――――――――――――――――――――
■裏技・小技/【セミショキック】
【半自動式散弾銃】のステータスUP・装備スキルは、なぜか【キック】にも反映される。
しかも【キック】は攻撃モーションが速く、リロードの必要もないため、とくに単体相手では散弾射撃をはるかに超える火力(DPS)を叩き出す。
これが、【半自動式散弾銃】が“近距離最強”と呼ばれる理由である。
――――――――――――――――――――
どうやらインターネットによると、この半自動式散弾銃は、なぜか射撃をするよりキックをしたほうが強いらしい。
それも、“近距離最強”と呼ばれるほどに。
「そう、これが半自動式散弾銃の力です!」
ローナが、むふんっと誇らしげに銃をかかげる。
「う、うむ。なんでキックしたのか、まるで意味がわからんが……たしかに、これは超エキサイティングな威力じゃな! その武器があれば、あの化け物も倒せそうじゃの!」
「え?」
「え?」
きょとんと顔を見合わせるローナたち。
「え……いや、その武器であの化け物を倒すんじゃよな?」
「いえ、あの……べつにこの銃の攻撃じゃ、あのモンスターには効きませんよ?」
「へ、へぁっ!?」
「今のはただ試しキックしたかっただけで、そんなにダメージは入ってないと思いますし。そもそも、この銃を回収したのは、“
「………………」
テーラがぴしりと硬直する。
そのまま顔を横に向ければ、死神はすでに立ち上がって、ふたたびこちらに迫ってきており……。
「な、なら、どどどうするのじゃ、あの化け物は!? 攻略法があるのではなかったのか!?」
「え? ああ、あのモンスターなら――」
慌てふためくテーラに対して、ローナは少しきょとんとしながら。
「――そろそろ倒れるんじゃないかなぁ、と」
「……へ?」
ローナが、ちょうどそう言ったところで。
こちらにゆっくりと近づいてきていた死神が、突然……その場にどさりと倒れた。
「……ほぇ?」
そして、ぽかんとするテーラの眼前で。
死神はそのまま起き上がることなく、ぽふんっと煙となって消滅し――。
『死験体零号デス・エクス・マキナを倒した! EXPを444444獲得!』
『LEVEL UP! Lv81→99』
『SKILL UP! 【大物食いⅧ】→【大物食いⅨ】』
『称号:【そんなに強くなってどうするの?】を獲得しました』
「あっ、倒せましたね」
「…………」
テーラの顔が、ぎぎぎ……と、ローナに向けられる。
「……こ、今度はなにをしたんじゃ?」
「? なにって……あのモンスターは、
「むぇ?」
――“炎上”。
それは、神すらも破滅させる恐ろしい現象の名だ。
ゆえに、インターネットの神々はみんな“炎上対策”をしているのだが……先ほどの死神はそれを
そう、あらゆる攻撃をほぼ無効化できるのに、『炎上による固定ダメージ』の対策はまったくしていなかったのだ。
「え、じゃあ、なんじゃ? まさか、あの化け物がまとってた炎って……」
「まとってた炎? ああ、徘徊ルートに松明をたくさん置いといたので、それにさわって燃えてただけですね。あとは念のためプチフレイムで再炎上させましたが」
「…………」
炎上による固定ダメージ量はたいしたことないが、ずっと食らい続けていれば、いつかは倒れるわけで。
というか、計算上――死神は遭遇した時点ですでに相当弱っていたはずなので、あとはちょっと時間を稼ぐだけでよかったのだ。
ちなみに、このように松明で敵を炎上させる戦法を、神々の言葉で――。
――“松明ハメ”と呼ぶらしい。
「えへへ、いっぱい炎上させられてよかったです!」
「な、なんか、頭が痛くなってきたのじゃ……」
なにはともあれ、邪魔な死神もいなくなったことで道は開けた。
さらに、ボス戦のキーアイテムといえる半自動式散弾銃も手に入ったことだし……。
「それじゃあ、さっそく行きましょうか――ダンジョンボスのもとへ」
ここまで来れば、最深部はもう目の前だ。
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