第89話 館を攻略してみた

そういえば、漫画版の装備の性能表記などがたまに原作と違ったりもしますが、ネット文章系は私が漫画用に書き直してるので、漫画家さんのミスとかではないです(長くてコマ圧迫するから端折ってる)

――――――――――――――――――――




「……の、のぅ、こんな作戦で大丈夫か?」


「……大丈夫です。問題ありません」


 安全部屋セーフルームでゾンビ対策について話し合ったあと。

 ローナとテーラは部屋にあった“だんぼーる”の中に隠れながら、こそこそとゾンビたちのいる地点へとやって来ていた。


「それではいきます! 動画……再生っ!」


 ローナがそう言って、インターネット画面を開いた次の瞬間――。



『――おかえり、にぃに♡ ご飯にする? お風呂にする? それとも……い・く・せ・い♡』



『『『――!?』』』


 場にそぐわない爆音が、辺りに鳴り響いた。



『――もう兄さん、まだ“育成”したりないんですか? まったく……あと1回だけ、ですよ♡』



『『『――!? ――!?!?』』』


 何事かと困惑したように、わらわらとインターネット画面に集まってくるゾンビたち。

 彼らがそちらに気を取られている隙に。


「今です、テーラさん!」


「……お、おう、なのじゃ」


 ローナたちは隠れていた木箱から颯爽と飛び出し、そして――。



「「破ァ――ッ!!」」



 ローナとテーラの肘打ちが、ゾンビに炸裂した。

 その次の瞬間、ずぱぁああああんんんッ!! と、凄まじい衝撃とともにゾンビたちが爆散し――。



『アヌビーストを倒した! EXPを8462獲得!』『キリングアーマーを倒した! EXPを5656獲得!』『ジャンプスケルトンを倒した! EXPを9393獲得!』『LEVEL UP! Lv80→81』『SKILL UP! 【ゾンビキラーⅠ】→【ゾンビキラーⅡ】』『SKILL UP! 【大物食いⅦ】→【大物食いⅧ】』…………。



 ゾンビたちがぽふんぽふんっと煙となって消え、ローナの視界に大量のメッセージが現れる。


 ――討伐完了の証だ。



「た、倒せた、のじゃ? 一撃で……?」


「えへへ。きたない花火でしたね!(最近覚えた)」


「きたない花火……? いや、しかし……まさか、本当にゾンビの弱点が肘打ちとはの」


「はい! ゾンビに対する肘打ちは、なぜか“ろけっとらんちゃー”と同じ威力になるそうです!(不具合)」


「よくわからんが……なるほどの。これが、いんたーねっとの力なんじゃな!」


「はい!」


「くくく、もうなにも怖くないのじゃ! 信じてよかった、いんたーねっと!」


「ありがとう、インターネット!」


 ローナとテーラが「いぇ~い♪」とハイタッチをする。


 こうして、インターネットのおかげで、テーラも自信を取り戻し――。

 そこからのダンジョン攻略は、さくさくと進んでいった。


「あっ、そこのロッカーにゾンビが隠れています!」

「肘打ちじゃあああ――ッ!」


「このジャンプスケルトンは、壁前に位置取るとジャンプ攻撃で壁に埋まってハメられます!」

「肘打ちじゃあああ――ッ!」


「ここのゾンビは、カメラで撮影するとひるむので連写するとハメられます!」

「肘打ちじゃあああ――ッ!」


 恐ろしく早い肘打ちにより、次々と爆散していくゾンビたち。



「くくく……今宵、われの肘は血に飢えておる……っ」



 テーラが不敵に笑いながら、肘の辺りをぺろりとなめる。

 とはいえ、ただゾンビを倒すだけでは、すぐに再出現してしまうが……。


「~~♪ 魔除けの松明、たくさん作っておいてよかったぁ♪」


 ローナは魔除けの松明を取り出して、床に一定間隔で設置していく。


 この松明は、正確には『モンスターの出現を防ぐ』という効果のアイテムだ。

 そのため、すでに出現しているモンスターには効果がないが……それでも、かなり強力なアイテムであることには変わりない。


 水曜日クエストのために大量に用意したものの、結局アイテムボックスの肥やしになっていたので、ちょうどよかった。


「ふむ。さっきから、なにをしとるかと思えば……それは魔除けの松明じゃったか」


「はい、この松明はとっても便利なんですよ! 明かりにもなりますし、モンスターもいなくなるので――」


「まあ、こまけぇこたぁいいのじゃ! どんなゾンビが出てこようが、われの肘があれば問題ないわけじゃしな! じゃはははは!」


 と、テーラが余裕の笑みを浮かべていたところで。


 ――新たなモンスターが、ずずず……と通路の先から姿を現した。


 影のようなボロボロの黒いローブ。

 怨霊のように全身にまとった青白い炎。

 そして、その手に持っているのは、命を刈り取る形をした大鎌。


 そんないかにも死神みたいなモンスターが、ゆらり……ゆらり……と幽鬼のような足取りでこちらに歩み寄ってくる。


「あっ、あのモンスターは――」


「おうおう、なんじゃ? なに見とんのじゃ? わざわざ、われに倒されに来たのか? くくく、よいじゃろう……ならば、我が肘のサビにしてくれるわあああッ!!」


 そう叫びながら、テーラが死神へと襲いかかり――。



「――あ、あのぉ、テーラさん? それ、肘打ちが効かない敵です」



「……へ?」


 しかし、ローナの忠告もすでに遅く。

 テーラの肘打ちが死神に直撃し――。



『………………………………』



 ――びくともしなかった。

 無言で見つめ合う、テーラと死神。

 やがて、死神はゆっくりと大鎌を振り上げ――。



「あ……あ゛っああぁあぁああッ!? ローナローナローナぁあああッ!?」



「わぁあっ! こっちにつれて来ないでください――プチライト!」


「あぁああ――ッ! 目がぁ!? 目がぁああっ!?」


 そんなこんなで、ちょっとパニックになりつつも。

 ローナはひとまず閃光プチライトで死神をひるませた隙に、テーラを回収して逃走した。


「うぅ、ぐずっ……こ、今度こそ、死ぬかと思ったのじゃ……」


「インターネットに『閃光が効く』って書いてあってよかったです」


「うぅ……ありがとう、いんたーねっと」


 とはいえ、まだ安心するのは早かった。


 ローナがちらりと後ろをふり返ると……。

 すでに閃光のひるみから立ち直り、ゆっくりとこちらに迫ってくる死神の影があった。

 どうやら、完全にターゲットにされてしまったらしい。


(やっぱり、あのモンスターは……やっかいだね)


 と、ローナは逃げながらネット情報を確認する。



――――――――――――――――――――

■モンスター/【死験体零号デス・エクス・マキナ】

[出現場所]【恐怖の館テラーハウス】

[レベル]200

[弱点]なし

[耐性]物理攻撃・魔法攻撃・全属性

[討伐報酬]なし


◇説明:【恐怖の館テラーハウス】を徘徊している死神型の生物兵器。

 基本的に倒せないように作られており、ほとんどダメージが入らないうえに、大鎌の攻撃には即死級の威力がある。

 遭遇した場合は、閃光やノックバックで足止めをし、逃げることに専念しよう。

――――――――――――――――――――



 ――レベル200。


 ローナがいまだかつて経験したことのないレベルの敵だった。

 さらには、神々ですら『倒せない』と言うほどの強力なモンスターらしい。


 できれば、遭遇したくなかったが……仕方ない。



「ひとまず、時間稼ぎのぉ――プチフレイム!」



 ローナは走りながら、後方へと魔法を撃つ。


 ごぉおおおォオオオ……ッ!! と、通路を蹂躙する炎の龍。

 触れたものを一瞬で灰へと変えながら、その炎は死神をのみこみ――。


「う……嘘じゃろ!?」


 しかし、死神はわずかにのけぞっただけで、何事もなかったかのように炎の中を進んでくる。


「われの肘打ちも、ローナの魔法も効かんじゃと!? あやつは無敵か!? も……もうダメじゃあ、おしまいじゃあっ!」


「いえ、大丈夫ですよ、テーラさん。ちゃんと


「むぇ……?」


 そう、あの死神はのだ。

 つまり、あくまで“ものすごく強い”というだけで、“無敵”というわけではない。


 そして、ダメージを与えられるのならば――“攻略法”は存在する。



「とりあえず、今は逃げましょう! こっちです!」


「う、うむ!」


 こうして、ローナは先導するように駆けだした。

 死神の動きはそれほど早くないが、行き止まりにぶつかれば簡単に追いつかれてしまうだろう。


 そのため、インターネットの地図を頼りに、正しい道を進まなければならないが――。


「ま、待て、ローナ! そっちは行き止まりじゃ!」


「大丈夫です! ここの扉はすぐ横にあるぽちぽちするやつを『上上下下左右左右R』の順番でぽちぽちすると開きます!」


「お、おおっ、開いたのじゃ――いや、また行き止まりじゃ!」


「そっちは石像の両眼にはめる宝石を持ってないので、このピアノの『シ』の鍵盤を4回鳴らして、こっちの赤い扉を開きましょう!」


「よ、よし、開いたのじゃ――って、また行き止まりなんじゃけど!?」


「今度のパズルは『3つの瓶に入る薬液を同じ高さに合わせる』というものでしたが、もう解き終わったので扉が開きます!」


「………………」


「あっ、ここの時計は『博士の手記その4』(拾ってない)の詩の暗号をもとに4時04分に合わせると、このように4冊の本が出てくるんですが――この本を使って、こっちの本棚の魔導書を『背表紙の魔法陣が完成する順番』に並べ直すと、本棚が横にスライドして、さらに鍵のかかった扉が現れます!」


「ぱ……ぱ……」


「ぱ?」



「――パズル多すぎじゃるぉおおおッ!」



 テーラが魂の叫びを上げた。


「普通に鍵を使えばいいじゃろぉおおっ! なんのセキュリティーにもなっとらんしぃいっ! ただただ日常生活に不便なだけぇええっ!」


「ま、まあまあ。とりあえず、次が目的地の部屋なので……」


 と、テーラをなだめつつ、ローナは目の前にある最後の扉に目を向ける。


「……目的地? この部屋になにかあるのか?」


「えっと、なんでもこの部屋は『やりこみ報酬がある隠し部屋』とのことで……とりあえず、ボス戦でとても役に立つ武器があるみたいです!」


「そ、それは本当かの!?」


「はい! それと、ここの隠し部屋を開けるための暗証番号は“4864”だと、『博士の手記その13』(拾ってない)に書いてあるそうです!」



「よし、開いたのじゃあああっ!」



 そんなこんなで、さっそく隠し部屋を探索することに。


 ちなみに本来、この部屋に入るには――『隠し部屋に落ちている4つの手記の記述をもとに、隠しボスの凶化死験体1~4号を倒し、そこで手に入る“破られたページ”をパズルのようにくっつけて……』といった手順が必要らしいが。



(よくわからないけど……普通に入れたし、まあいっか!)



 というわけで、ローナは考えるのをやめた。


 それから、隠し部屋を探索すること、しばし。


「えっと、“やりこみ報酬”の宝箱は……これかな?」


 インターネットの記述通りの場所で、少し豪華な宝箱を発見した。

 時間に余裕もないので、ローナはさっそく宝箱を開け――。


「こ、これは……なんじゃ?」


 出てきた“それ”を見たテーラが、思わずきょとんとする。


 たしかに、普段見ることのない形状の武器だ。

 使い方どころか、武器なのかどうかすら、ぱっと見ではわからない。


 しかし、ローナは確信する。

 これこそが、まさにローナが求めていた武器――。



「――わーい! 半自動式散弾銃セミオート・ショットガンだぁっ!」



 というわけで、ローナは念願の半自動式散弾銃セミオート・ショットガンを手に入れたのだった。



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