第78話 邪神と会ってみた

 一方、黄金郷を観光していたローナはというと。


(誰だろう、あの女の人?)


 こちらはこちらで、いきなり現れて「誰じゃ、その女!」と叫んだ少女を困惑したように眺めていた。

 最初は現地民かとも思ったが。


「……だ、誰だ、あれ?」

「なんか、俺たちの眼前でやたら存在感を放っているが……」


 反応を見る感じ、どうも現地民でもないらしい。

 とすると、ローナと同じように観光に来た人だろうか。

 ただ、どうして初対面のローナを睨みつけているのかわからない。


「あの、どちら様ですか?」


「われは邪神テーラじゃ! とゆーか、おぬしが何者なんじゃ!」


 邪神テーラと名乗った少女が、ぷんすかと叫んでくるが。


「なっ、貴様! 我らが神に、なんだその態度は!」

「邪神様の名をかたるとは! 小娘とはいえ、許さんぞぉおおッ!」


「な……なんでじゃっ!?」


 信じていた魔族たちにキレられて、ちょっとビビる邪神少女。


「わ、われ、邪神ぞ? われが本物の邪神ぞ? だ、だまされるでない! われの下僕ども!」


「だまされるもなにも……」

「あきらかにオーラが違うしなぁ」


 魔族たちが邪神少女とローナを改めて見比べ――。



「「「……ぷっ」」」



「笑った!? 今、われのオーラ見て笑った!? ま、待つのじゃ! これは仮初の体じゃから! “真の姿”はもっとこう、強いのじゃ!」


「この邪神様よりも強いというのか?」


「そ、それは微妙なところじゃけど……」


「ほら見ろ!」


「やはり、こちらにおわす方が、邪神テーラ様で間違いない!」


「う、うぐぅぅっ! ど、どうしてこんなことにぃぃっ!」


 と、ちょっと涙目になる邪神少女。

 そこで。


「あのぉ」


 と、ローナが挙手をした。



「――私、邪神テーラって名前じゃありませんよ?」



「「「……へ?」」」


 珍しく状況を理解したローナの発言に、その場にいた魔族たちが固まった。


「えっ、あの、邪神テーラ様ではないのですか?」


「はい。たぶん、そちらの人が、本物の邪神テーラさんなのでは?」


「「「え、えぇ……?」」」


 困惑する一同。

 いや、たしかに、この少女が自ら『邪神』だと名乗ったことはない。


 ただ、復活のお告げの直後に邪神召喚陣から出てきて、当たり前のように邪神崇拝を受け入れて、伝え聞いていた邪神以上の力を持っていただけであり……というか。

 魔族たちの視線が、ローナへと集まった。



(((――じゃあ、こいつなんなの!?)))



 魔族の気持ちが今、ひとつになった。

 なんか、今もしれっと、ごごごごごごご……と本物の邪神より強大なオーラをまとっているし。

 邪神じゃないとするなら、意味がわからなすぎる。


 そんな疑問の視線を受けたローナは、やがてはっとすると。


「あっ、自己紹介がまだでしたね。私はローナ・ハーミット。地上から来たフツーの“一般人”です!」



「「「――嘘だぁああっ!」」」



 魔族と邪神の声がハモったのだった。


 そんなこんなで、いろいろ誤解はとけたものの。

 事態はよりいっそう混迷を極めていた。


「や、やべぇ……あっちが本物の邪神様だとすると……」

「でも、我らが神……いや、ローナ様のほうが強そうだし」

「てか、あのレベルの存在が普通にいるって、今の地上やばくないか……?」


 魔族たちがひそひそと話し合う中。

 邪神テーラ(本物)が、「じゃふん!」と胸を張る。


「じゃが、これでわれこそが本物の邪神であることはわかったじゃろう? さあ、われの下僕どもよ! さっきの不敬は見逃してやるから、さっそくわれとともに地上を滅ぼすのじゃ!」



「「「……いやぁ、うーん」」」



「なんで、微妙な反応なんじゃ!?」


「まあ、もうそこまで地上を滅ぼすことに興味ないというか」

「なんか、ローナ様のあとに実物を見たら、ちょっとがっかりしたというか」

「ローナ様には恩義もありますし。どちらについて行きたいかというと」


「な、ななっ!? じゃけど、『一緒に地上滅ぼそうね』って約束したじゃろ!」


「いえ、それはあなたが勝手に言っていただけで。我らは地上に行けたらいいなー、としか」

「ぶっちゃけ、温度差があるなって」

「邪神様と地上滅ぼすの息苦しそう」


「そんな感じじゃったの!?」


 邪神テーラ(本物)は、わりと人望がなかった。


 とはいえ、それもそのはず。

 彼女は今まで、魔族たちを『下僕』と呼んで、力によって支配してきたのだ。


 そして、魔族たちもその力を“世界最強”だと思ったからこそ崇拝してきた。

 ただそんな中、ローナという意味のわからない“世界最強”の存在が出てきたことで、いろいろ前提からおかしくなってしまった。

 そう、こういうのは1位でなければダメなのである。


「お……おのれぇえ、ローナなんとかぁあああっ!」


「えっ、私?」


 すっかり蚊帳の外だと思って、“そしゃげ”をしていたローナがきょとんとする。


「おぬしのせいで……おぬしのせいでぇっ! われの下僕たちがぁあっ! われのほうが先に信仰されとったのに!」


「え、えっと……ごめんなさい?」


 とりあえず、ローナが謝るが。

 邪神テーラはぷるぷると震えたまま、しばらく沈黙し……。


「……決闘じゃ」


「え?」


 そして、邪神テーラは、ずびしっとローナに指を突きつけた。



「――どちらが“真の邪神”にふさわしいか、われと決闘するのじゃ!」


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