第75話 ラスボス、倒してみた
――黄金郷エーテルニア。
それは、王都の地底深くに封印されているというダンジョンの名だ。
インターネットによると、そこは……どんな願いも叶える“賢者の石”によって繁栄した古代都市であり、建物は黄金で作られ、道には石畳のように宝石が敷きつめられ、七色の実をつけた水晶の木々が生え、住民たちは永遠の命を手にしている『イチオシの
ローナがそんな黄金郷に観光に行くことを決めた翌朝。
旅行の準備を済ませたローナは、光の女神ラフィエールのいる謎の白い空間へとやって来ていた。
「――というわけで、今から黄金郷エーテルニアに行ってきます!」
『ぶふぉっ!?』
ローナが黄金郷に行くことを告げるなり、女神が食べていたお供え物の“らーめん”を思いっきり吹き出した。
「だ、大丈夫ですか?」
『え、ええ。それより、黄金郷に行くと聞こえましたが』
「はい!」
ちなみに、昨日、コノハとメルチェも一緒に行かないかと誘ったのだが。
『い、いやいやいや……ダンジョン観光って。黄金郷って。意味わかんないし』
『……でも、安全さえ確保できるのなら、ダンジョンはいい観光資源になるかもしれないわ。さすが、ローナは着眼点が違う……これは本格的に検討してみても……それこそ、“株式”を使ってダンジョン探索事業を……ぶつぶつ……えっ、行くのは明日? なら、スケジュールが取れないしパスね』
と、断られてしまい。
結局、ローナひとりで黄金郷へ行くことになったのだ。
『……なるほど。ついに使徒としての自覚に芽生え、邪神テーラと戦う覚悟を決めたというわけですね』
「?」
女神はなにかひとりで納得したように、うんうんと頷く。
『黄金郷への旅路は、長く険しいものとなるでしょう。もしも、わたくしにできることがあれば、なんでも言ってください』
「あっ、それなら、この白い空間をちょっと使わせてもらえたらなぁ、と」
『この空間を使う? よくわかりませんが……まあ、それぐらいなら』
「ありがとうございます!」
というわけで。
「えっと、まず下に1歩、左に17歩、上に142歩……」
ローナはちょこちょこと白い空間の中を歩き回りだした。
『あの、いったいなにをしてい――』
「あっ、そこ見えない壁があるので気をつけてください」
『――ぶふっ!? ……えっ? なんですか、この壁? わたくしが作ったこの空間、どういうことになってるの……?』
「えへへ、謎ですね!」
『わたくしとしては、笑い事ではないのですが』
「えっと、最後に下に、127、128……と! よし、見えない壁もちゃんとあるし……ここでよさそうだね」
『あの、そろそろ、お告げの時間制限が来そうですが……』
「あっ、ちょうどよかったです」
「へ?」
ローナが立ち止まると、くるりと女神のほうをふり返った。
ちょうどそのタイミングで、女神のいる空間が白く光り輝きだす。
いつものように、この空間から追い出される合図だ。
「じゃあ、今から行ってきますね! 黄金郷エーテルニアに!」
『…………はい?』
そうして、きょとんとしている女神を置いて、ローナの視界が白く染まり――。
「――――わっ!?」
ローナが次に目を開けたとき。
そこは女神のいる白い空間でも、王都の中央広場でもなく――。
――真っ暗な空間だった。
いきなり夜空の中に放り出されたような、上も下もわからない浮遊感。
とにかく自分が今、落下していることだけは理解できた。
「わっ! わわっ!? と、とりあえず、エンチャントウィング!」
慌てて飛行スキルを発動して、光の翼をはばたかせるローナ。
「ふ、ふぅ……びっくりしたぁ」
ローナは空中で姿勢を整え、バクバクいっている心臓を押さえながら周囲を見る。
そこは、上も、下も、右も、左も――全てが夜空のような空間だった。
インターネットで見た“宇宙”という場所とイメージは近いかもしれない。
その空間の中にぽつぽつと浮かんでいるのは、ステンドグラスのような地面。
いきなり空中に投げ出されたのは、予想外だったものの……。
「うん、インターネットに書いてある通り♪」
と、ローナは上機嫌に、手元のインターネット画面を見た。
――――――――――――――――――――
■裏技・小技/【謎の空間バグ】
【光の女神ラフィエール】が出てくるムービーを利用した移動バグ。
このムービー中に【ムービー行動バグ】を使って1歩右に移動すると、ムービーから戻るときに1歩右に移動した状態で出てくる。これを利用することで、あらゆる障害物やイベントを無視して任意の場所へと飛ぶことができる。
ただし、ムービー時間内に移動できる距離がたいしたことないため、行ける場所はかなり限定される。また、このバグを使うと進行不能におちいることが多いため、【帰還の翼】などの帰還手段は必須(バグの利用は自己責任で)
――――――――――――――――――――
いろいろとよくわからない言葉も多いが……。
とりあえず、女神のいる謎の空間で、お告げの時間制限までに『下に1歩、左に17歩、上に142歩、左に1歩、下に320歩、右に289歩、下に128歩』進むことで、王都の地底に封印された黄金郷まで一気に行けるとのこと。
もっとも、いきなり黄金郷の中に入れるわけではないらしく。
(たしか、ここのどこかに、黄金郷につながる転移魔法陣があるんだよね?)
と、ローナが周囲をきょろきょろしていると。
「…………え?」
ふと、巨大な影が目に入ってきた。
山でもあるのかとも思ったが――違う。
「…………な、なに……これ……」
それは、山のように巨大な人型の“獣”だった。
赤黒い炎のような体毛。黒い王冠のような10本の角。
地上のありとあらゆる獣がつなぎ合わされたかのような、そのおどろおどろしい姿は、まさに混沌と絶望の化身であり……。
そんな恐ろしい存在が今、ローナの眼前で存在感を放ちながら――。
――両腕をピンッとTの字に広げて、固まっていた。
(…………うん、本当になんだろう、これ?)
ちょっと意味がわからなかった。
やたら存在感だけはあるのが、かえってシュールだった。
(うぅ、なんか変なもの見つけちゃったなぁ……えっと、このモンスターの情報は……)
とりあえず、インターネットで調べてみると、それっぽい情報を発見した。
――――――――――――――――――――
■ボス/【黙示獣テラリオン】
[出現場所]【黄金郷エーテルニア】
[レベル]108
[弱点]光(本体)・物理(右手)・魔法(左手)
[耐性]闇・毒・睡眠・混乱
[討伐報酬]2部クリア報酬、アイテムボックス枠拡張+50
◇説明:メインストーリー2部のラスボス【邪神テーラ】の第2形態。
本体を攻撃するには、右手と左手のどちらかを先に倒す必要がある。ただし、両手とも倒してしまうと暴走状態になるので注意。
正規手順を踏まずにボス部屋に入るとTポーズで固まっており、よくネットでおもちゃにされている。
――――――――――――――――――――
(……ラスボス? “ラス”ってなんだろ? “第二形態”っていうのも、よくわからないし、うーん……とりあえず、アイテムボックス枠も手に入るし、ダンジョンボスってことでいいのかな?)
と、ローナはしばらく考えてみたが、やっぱりよくわからず。
(ま、いっか! なにか問題があっても、あとで“ぐぐる”すればいいもんね!)
というわけで、ローナは考えるのをやめた。
ひとまず、怪物の手をぽかぽかと杖で叩いてみると、「うっ! うっ!」とうめき声が上がる。
一応、ダメージはちゃんと入っているらしい。
試しに【
せっかくなのでMPをちまちま吸収しつつ、周囲をきょろきょろしてみるが、出口の魔法陣は見つからない。
おそらく、ダンジョンのボス部屋と同じように、ボスを倒さないと脱出できないようになっているのだろう。
「うーん、よくわからないけど……」
やがて、ローナはうんっと頷いた。
「とりあえず、倒しとこっと♪」
そんなこんなで。
椅子に座って“そしゃげ”の片手間にちくちく攻撃すること、しばし――。
『黙示獣テラリオンを倒した! EXPを66666獲得!』
『LEVEL UP! Lv68→73』
『SKILL UP! 【大物食いⅣ】→【大物食いⅤ】』
『アイテムボックス枠が50拡張されました』
『称号:【黙示録の王】を獲得しました』
『……海底王国アトランから不穏な気配が? 準備ができたら見に行ってみよう!』
『to be continued……』
「わーい」
まったく見所のない戦闘を経て、そんな討伐メッセージ(+α)が視界に表示された。
(なんかメッセージがいろいろ出てきたけど……あっ、アイテムボックス枠もちゃんと手に入ってるね! よし!)
というわけで、ここに来た目的をひとつ達成したところで。
せっかくなので、ぼぼぼぼぼ……と、なぜかゆっくり爆散している怪物をバックに、「いぇ~い♪」と記念の自撮りもしておく。
コノハやメルチェにいい土産話ができそうだ。
そう考えていると、やがて近くの地面に、脱出用らしき魔法陣が現れた。
(えっと、これが黄金郷エーテルニアにつながる転移魔法陣かな?)
そんなこんなで、少し予想外のことはあったものの。
「よーし、あとはいっぱい観光するぞぉ!」
ローナはさっそく、その魔法陣へと足を踏み入れたのだった。
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