第74話 観光計画を立ててみた



『【!】持ち物がいっぱいです! 上限100/100』



「………………あっ」


 ローナはぽかんとしたまま立ち尽くす。

 ついに、そのときが来てしまった。

 そう、アイテムボックス枠の限界が――。


(あ、あれ、100枠もあったのに……いや、もしかして、アイテムボックス100枠って少ない?)


 考えてみれば、当然かもしれない。

 装備、日用品、旅道具、食べ物、モンスター素材……。

 それを全て入れていたら、100枠なんてすぐになくなってしまうだろう。


 一応、ローナもいらないアイテムをこまめに売ったり、よく使う小物なんかは鞄に入れて持ち歩くようにしたりはしてきたが……。

 とくに王都に入ってからは、魅力的なグルメや土産物が多すぎて、いろいろ買いこみすぎたかもしれない。


(でも、同じものなら1000個以上も入るのに、なんで種類がオーバーしたらダメなんだろ? まあ、こんなに便利なもの使わせてもらっているし、文句は言えないけど……う、うーん)


「? ローナ、どうしたの?」


「……? なにか問題でもあった?」


 と、いきなり動かなくなったローナに、不審げな視線を送るコノハとメルチェ。


「ああいえ、それが……アイテムボックスの枠が、いっぱいになったみたいで」


「あいてむぼっくす? あたしのデータにない言葉だけど……もしかして、その亜空間に物を収納する力のこと?」


「……その容量がいっぱいになったってことかしら?」


「えっと、そんな感じです。とりあえず……ここに、いらないものとか出してもいいですか?」


「……床が汚れるものじゃないなら、かまわないわ。もしよければ、わたしが買い取るけど?」


「ありがとうございます! けっこう、お店で買い取ってもらえないものも多くて」


「……そうなの? あっ、魔石はあるかしら? 最近、マナ不足で魔石の需要が高まってて」


「魔石? ああ、それなら――」


 と、ローナはアイテムボックスを操作すると。

 どんっ! どんっ! と、巨大な魔石を2つ、テーブルに置いた。


「ちょうど魔石が邪魔だったので、買い取ってほしいなって思ってまして」


「「……!?」」


 コノハとメルチェが目を丸くする。

 それなりに多くの魔石を見てきた2人でも、見たことのない魔石の大きさだった。


「こ、これって、ちなみになんの魔石なの?」


「えっと、たしか……“終末竜ラグナドレク”と、“原初の水クリスタル・イヴ”のものですね」


「ぶふっ!?」


 どちらも神話の大怪物の名前であった。

 それも、その封印が解けたら、世界が滅ぶと言われているほどの……。


「……じょ、冗談よね? でも、この大きさは……」


「そ、そういえば……前にローナのステータスを見たとき、それっぽい称号があったような?」


「……もしかして、ローナって戦闘力もおかしいの? たしかに、やたら高価な装備を身につけてるけど」


「いや、むしろ戦闘力が一番ぶっ壊れてるかもしれない」


「? あっ、それと、魔石ではないですが迷宮核っていりますか?」


「……っ!? え、迷宮核……えぇっ? も、もしかして、ダンジョンをクリアしたというの?」


「? はい、冒険者試験で『ダンジョンの迷宮核を持ってくるように』って言われまして」


「……!? ……!?」


 いつも冷静なメルチェが動揺しまくっていた。


「ただ、これも1枠使ってて邪魔なんですよね。だから、売りたいなって思ってたんですが……どこへ行っても『それを売るなんてとんでもない!』と言われてしまって」


「……う、売ろうとしたの!?」


「それを売るなんてとんでもない!」


 メルチェとコノハにツッコまれた。

 そう、この世界でも一握りの者しか知らないことではあったが――。


 ――迷宮核。


 それは、古代文明を繁栄させた伝説の“賢者の石”だ。

 これを手にした者は、あらゆる夢を叶えることができるとされる。


 この石によって、誰かが夢を叶えた“結果”がダンジョンであり――。

 そこでは、欲望が財宝や宝箱に、悪夢がモンスターになっているとされている。

 そんな力のある迷宮核は、もちろんあらゆる国や勢力が水面下で手に入れようと動いており――。


「うーん。じゃあ、メルチェちゃんにあげますね!」


「……きゃっ!?」


 けっして、こんな軽々しく人にわたすようなものではないのだ。

 メルチェがわたされた迷宮核を手に、おろおろしだす。


「……ど、どうしたらいいかしら、これ?」


「と、とにかく隠さないと! 世界中が狙ってるだろうし……というか、防音は大丈夫!?」


「……ローナが来ている時点で、セキュリティーは最高レベルにしてあるわ。信頼できる人間しか近づけさせてないし……」


 と、メルチェとコノハがわたわたしているのを尻目に。

 ローナはアイテムリストを見ながら、う~んと考えていた。


(一応、これで枠は空いたけど、料理を入れたらまたギリギリになっちゃったし……やっぱり、100枠じゃ不便かなぁ)


 アイテムボックスが満足に使えないのは、ローナにとって死活問題だ。この便利さを知ってしまったら、もうアイテムボックスなしで生きていけるとも思えない。

 できれば、もっともっと枠が欲しいところであり――。


(こうなったら……アイテムボックスの枠を増やさないと!)


 と、ローナは決意を固めるのだった。

 そんなこんなで、さっそくインターネットで枠の増やし方を調べてみること、しばし。



――――――――――――――――――――

■初心者向けFAQ

Q.アイテムボックスの枠はどうやったら増やせますか?

A.有償石ショップから買うことができます。また少量ではありますが、ダンジョン・高難易度ボスのクリア報酬などでも枠を増やすことができます。

――――――――――――――――――――



 ――との情報を発見した。


(なるほど……ダンジョンのクリア報酬かぁ)


 そういえば、初めてこのアイテムボックスを手に入れたのも、“黄昏の地下迷宮”のダンジョンボスを倒したときだった。


(ちょうどダンジョンを観光したいと思っていたし、いい機会だったかもね。えっと、王都の近くで観光におすすめのダンジョンは……ん、イチオシのフォトスポット? “黄金郷エーテルニア”? あっ、綺麗! ここ行ってみたいかも!)


 というわけで。



「――決めました! 私、これから“黄金郷エーテルニア”に観光に行ってきます!」



「「……!?」」


 ローナのさらなる爆弾投下に、さらに目を白黒させるコノハとメルチェであった。


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