第66話 屋台を作ってみた②
コノハが屋台コンテストに集中するようになったことで、作業スピードは一段と加速した。
「うん、フルーツの量にはかなり余裕があるね……んじゃ、ローナが言ってた“フルーツ飴”っていうのも再現してみよっか。“かき氷”と購買層も材料もかぶってるし、再現も簡単そうだし、こっちなら“かき氷”と違って店先に陳列しやすいから屋台の見栄えもよくなるし……“かき氷”のトッピングって形にしても面白そう!」
「なんだか、コノハちゃん生き生きしてますね」
「え? あー、たしかに商人のほうが性に合ってるのかもね。こっちのが、やってて楽しいしさ」
今まで商人は仮の姿だったと言うが、コノハには商人のほうが向いていたのだろう。
「それより、ローナの“秘策”のほうは問題ない?」
「はい! コノハちゃんの指示通りに、設置を進めています!」
作業に余裕ができたことで、ローナも“秘策”の準備のために王都を駆け回る余裕ができた。ちなみに、この“秘策”についても、コノハがブラッシュアップしてくれたおかげでいいものになった自信がある。
それから、課題のひとつであった“かき氷機”についても。
「おう、ローナの嬢ちゃん。できたぜ、“かき氷機”……っ!」
「わーい」
なぜかボロボロになっていたドワーゴから、無事に受け取ることができた。
試しに氷を入れてハンドルを回してみると、ふわふわの雪みたいな氷が落ちてくる。
「わぁっ! 画像で見たのと同じだ! すごい! さすがドワーゴさん!」
「……ふ、ふんっ」
ローナが喜んでいる姿を見て、ドワーゴも満更でもなさそうに鼻をこする。
ちなみに、ドワーゴはインターネットのものを作ることが刺激になったらしく。
「ほ、他にも作ってほしいものはないか? ああいう図面が他にもあるなら見せてほしいんだが……」
と、そわそわしていたので、“たこやき器”の図面もわたしておいた。
ドワーゴの力があれば、いつか“たこやき”も再現できるかもしれない。
そんなこんなで、時間はあっという間に過ぎ……。
屋台の準備を始めてから5日後――屋台コンテスト当日。
「おお……これが、私たちの屋台!」
「いやぁ、5日でもなんとかなるもんだね。うん」
ローナたちの前には、完成した屋台があった。
急ピッチで作ったとは思えないほど、おしゃれな屋台だ。
店先に陳列されているのは、カラフルな宝石を思わせる“フルーツ飴”。
屋台の周りには、オープンテラスのようなテーブルと椅子。
そして、屋台の前には、かわいらしい給仕服を着ている店員たち(ローナとコノハ)。
「いや……この服、あたしまで着る必要あったの?」
顔を赤くしながら、もじもじと給仕服のスカートを手で押さえるコノハ。
これは、港町アクアスにいるアリエスに屋台のことを話したら、『ぜひ、この給仕服を着て! お代はいらないわ!』と、なぜか大量にコレクションしていたというものを貸してくれた。
サイズ調整機能つきの装備のようなので、せっかくだしコノハにも着てもらうことにしたのだが。
「あたし、こういうの似合うタイプじゃないし……うぅ、目立つ格好って、なんか落ち着かない~」
「うーん、似合ってるのに」
それから残り時間で、屋台の最終チェックをおこなっていく。
「食器の数もよし、椅子やテーブルの配置もよし、掃除もよし……と」
「天気もいいですし絶好の屋台日和ですね!」
「まー、ローナなら雨降ってても天気を変えられそうだけど」
「天気を変える……あっ、なるほど、その手が……」
「その手があるの!? できるの、天候操作!?」
そんなとりとめのない会話をしている間にも、時間はものすごい勢いで過ぎていき――。
「えっと、屋台コンテストは8時からでしたっけ」
「そそ。1日勝負だから気張ってかないとね」
「うぅ……き、緊張してきました」
「にしし。大丈夫だって、うちには例の“秘策”もあるんだし――」
と、話していたところで。
「…………あなたが、ローナ・ハーミット?」
ふと、背後から声が聞こえてきた。
ふり返ると、近くにとめられた馬車から、ぬいぐるみを抱えたお嬢様がおりてくるところだった。
「え? あの、お客さんですか? まだ屋台を開く時間では――」
「……ふーん、この飴を売るの?」
「あ、はい」
少女が無感情な瞳で、店先に並べられたフルーツ飴をじぃ~っと見る。
「……いい商品ね。見栄えもいいし、わかりやすい」
「あ、ありがとうございま――」
「……でも、売れないわ」
「え?」
少女がつまらなそうに溜息をつく。
「……商品はしかるべき商人が売らなきゃ売れないの。人が来ない場所で売っても売れないし、暗くておいしく見えなければ売れない。これじゃあ、商品がかわいそう」
と、あどけない見た目のわりに大人びた口調で言ってくる。
「港町アクアスを救った商人が参加するっていうから、視察に来てみたけど……がっかりね」
「? えっと、あなたも屋台コンテストに?」
「……知らないの?」
きょとんとする少女。
まるで、自分のことを知っているのが当然とばかりの反応だった。
そこで、コノハがちょいちょいとローナの服を引いて、耳打ちしてくる。
「……ローナ、この子はメルチェ・ドールランド。王都一の大商会の――商会長だよ」
「えっ、えぇっ!?」
目の前にいる少女が――商会長。
ローナが驚いて、つい目をぱちぱちさせていると。
そんな様子に、メルチェという少女はローナへの興味をなくしたらしい。
「……情報は商人の基本。どうやら無駄足だったみたいね」
冷めた顔でそれだけ言うと、さっさとその場から去ろうとし――。
「あの」
その背中にローナは呼びかけた。
「楽しみましょうね! 屋台コンテスト!」
「…………え?」
メルチェが少し驚いたように足を止めて、ローナのほうをふり返る。
ただ、それは一瞬のことだった。
「…………バカみたい」
そして、今度こそメルチェは馬車に乗りこんで去っていった。
それから、馬車が見えなくなったところで。
「だはぁっ! オーラすっご……っ」
やがて、コノハが盛大に息を吐いた。
「いやぁ、ドールランド商会が出るとは聞いてたけど、まさかあの天才少女が出てくるとはね」
「? そんなに、すごい子なんですか?」
「そりゃま、5歳のときに潰れかけの商店を建て直して、そこから10年足らずで王都随一の大商会にした神童だっていうからね。この屋台コンテストでも何回も優勝してるらしいし」
「ほ、ほへぇ……す、すごい。そんな子に勝てるのかな」
と、少し不安になってくるローナ。
ここのところ、忙しかったし楽しかったしで忘れていたが。
この屋台コンテストには、ローナの借金返済がかかっているのである。
できれば、優勝したいところだったが……。
「いや、なーに言ってんの。うちのローナと比べたら、たいしたことないって。もしローナが敵だったら絶望感しかないし」
「絶望感?」
「あたしはさっき、あの子と対面してみて、ローナなら勝てると思ったよ。だからさ――」
コノハは、ぱしんっとローナの背中を押すように叩いた。
「例の“秘策”で、どーんっとかましてこ!」
「……っ! はい!」
ローナは張り切って頷くと。
今まで“最小化”していた全てのインターネット画面を――一斉に開いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます