第4章 まよねぇずを作ってみた
第25話 近道してみた
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません! 連載再開します!
◇前回までのあらすじ
エルフの里を救ったローナは、王都へと向けてイフォネの町を旅立つ。
◇ローナ・ハーミット
【インターネット】スキルによって、いきなり世界最強になった少女。
もともと世間知らずなうえに、インターネットで常識を学んでいるため、いろいろおかしなことになっている。
ほとんどの場合、なにも考えていない。
――――――――――――――――――――
「――うーん、近道になると思ったんだけどなぁ」
ごろ……ごろろ……と、雷鳴がとどろく湿原。
その中に、ひとりの少女が立っていた。
どこにでもいそうな、ぽけーっとした感じの少女だ。しかし、見る者が見ればわかるだろう……その少女が身に着けている杖やローブが、神話級の代物であることに。
そんな少女は、今――。
「……困ったなぁ」
大量のモンスターに囲まれていた。
少女へと向けられる、無数の紅い眼光。
そして、そのモンスターの群れの先頭に立っているのは――ばちばちと青白い雷をまとった白い獅子だった。
常人なら見ただけで卒倒するような王者の威圧感をまといながら、雷獅子が一歩、また一歩……と少女を追いつめていく。
しかし、少女は雷獅子のほうを見ることもせず、手元に浮かんでいる光の板をつんつんと指でつついていた。
「えっと……『“エレクの雷湿原”のエリアボス――雷獅子エレオン。レベルは50。弱点は地属性と氷属性。縄張りに入ると襲いかかってきて、咆哮はモンスターを呼び寄せて支配する効果あり』、かぁ」
「グルァアアア――ッ!!」
少女が手元に視線を落としているのを隙だと判断したのか。
雷獅子が咆哮を上げながら、飛びかかってくるが――。
「立ち回りのコツは……『前方への“ダイナミックお手”攻撃が強力な一方で、後方への攻撃手段はほとんどないため、後ろ足に張りつくように時計回りに動きましょう』、と……」
「グルァッ!?」
少女はまるで、どんな攻撃が来るかわかっているように、雷獅子の攻撃をひょいひょいと避けていく。
雷獅子も負けじと、仁王立ちするように前足を広げ、ばりばりばり――ッ! とたてがみから青白い雷をほとばしらせるが。
「……『たてがみに雷をまとったあとに、落雷による強力な範囲攻撃が来ます。ただし、溜め時間がかなり長いため、その間にひるませることで攻撃をキャンセルすることができます』、と。それなら――
「――ッ!?」
少女がそう唱えるとともに、雷獅子をはじめとする周囲にいるモンスターたちのMPが杖へと吸いこまれ――モンスターたちが、がくっと力を失ったようにその場に倒れていく。MPがゼロになったことで
その隙に、吸収したMPを使って。
「周りに人もいないし、全力のぉ――プチアイス!!」
少女がそう唱えた瞬間。
ぴきぴきぴきぴきィィイィ――ッ! と。
少女を中心にして、景色が凍りついた。
周囲にいるモンスターたちも凍りつき、一瞬にして氷像の群れとなる。
やがて、その氷像たちがぽふんっと砕けて、その場にドロップアイテムが落ち――。
『雷獅子エレオンを倒した! EXPを8844獲得!』『LEVEL UP! Lv44→45』『エレクスライムの群れを倒した! EXPを409獲得!』『エレキメントの群れを倒した! EXPを1409獲得!』『カミナリウナギの群れを倒した! EXPを1179獲得!』『パラライカの群れを倒した! EXPを1150獲得!』『LEVEL UP! Lv45→46』『SKILL UP! 【殺戮の心得Ⅱ】→【殺戮の心得Ⅲ】』『スキル:【スライムキラーⅠ】を習得しました!』…………。
『称号:【雷獅子を討伐せし者】を獲得しました!』
少女の視界に、しゅぽぽぽん♪ と大量のメッセージが表示された。
「あ、あれ……もう倒せた? おおっ、よくわからないけど倒せてる! うん、やっぱりインターネットに書いてある通りだね♪」
氷漬けになった湿原の中心で、少女――ローナ・ハーミットは、ぱぁっと無邪気な笑みを浮かべ――。
「わぷっ!?」
ずどぉおおおんッ!! と、落雷がローナの体に直撃する。
「う、うぅ……これもインターネットに書いてある通り……」
ローナはぷすぷすと煙を上げながら、改めて手元に浮かぶ光の板――インターネット画面を見た。
――――――――――――――――――――
■マップ/【エレクの雷湿原】
常時、雷が落ちてくる高難易度のマップ。
金属装備をつけていると落雷の集中砲火を浴びるので注意。また、水場にいるとザコ敵の雷攻撃と落雷でハメ殺されるので、遠回りして陸地を進むのが吉。
ちなみに、200回連続で雷を避けると、称号【避雷神】が手に入る。
主な入手素材は、【天然磁石】【
――――――――――――――――――――
そこに映し出されているのは、神々の知識。
本来、この世界の人間には知り得ない真理が記されていた。
「はぁぁ……ここに来る前に、ちゃんと“ぐぐる”しとけばよかったなぁ」
ローナはがっくりと肩を落とす。
イフォネの町から王都へ出発した翌日――。
インターネットの地図を見ていたローナは、『あっ、
地形が険しくても、ローナには空を飛ぶためのスキル【エンチャント・ウィング】もあるし問題はないだろう……と、思っていたのだが。
(うぅ……まさか、ここまで雷が落ちてくるとは)
空を飛んでいたところを落雷が立て続けに直撃。
地面に墜落したところでモンスターに囲まれて、今に至るというわけだ。
(うーん、雨もけっこう強くなってきたなぁ。インターネットには、この辺りに雨宿りできそうな建物があるって書いてあるけど……)
モンスターが落とした魔石や素材をいくつか回収しながら、ローナは辺りをきょろきょろしていたところで。
「あっ……あれかな?」
かッ! と、雷に照らされた廃教会を発見した。
ぼろぼろに朽ちていて、幽霊屋敷みたいな不気味さがただよっている建物だが……。
(う、うん……ちょっと怖いけど、やっぱりインターネットに書いてあることに嘘はないね)
インターネットを改めて確認する。
――――――――――――――――――――
■マップ/【黄昏の古代教会】
【エレクの雷湿原】中央にある休憩地点。
休息のほか【料理】【錬金】【鍛治】などもおこなえる。
【黄昏の邪竜教団】関係のイベントムービーに出てくることで有名だが、探索してもとくになにもない。
――――――――――――――――――――
(……黄昏の邪竜教団? いべんとむーびー? っていうのはよくわからないけど……インターネットに『なにもない』って書いてあるし、本当になにもないんだろうなぁ)
なにせ、この【インターネット】というSSSランクスキルによって得られる情報は、どれも神々の知識なのだ。
インターネットとは、いわば神々の書架。
ゆえに、インターネットに書かれていることに間違いなどあるはずがない。
それは、ローナが今までの冒険から確信していることだった。
というわけで。
「それじゃあ……おじゃましま~す」
ローナは闇にのまれた廃教会の中へと、足を踏み入れたのだった――。
◇
ローナが廃教会に入ったあと、同じ廃教会の薄暗い礼拝室にて。
揺らめく紫の燭台に照らされながら、妖しげな黒ローブの集団が、長卓を囲んでいた。
「――集まったな、同胞たちよ」
黒ローブのひとりが、フードの下に広がる暗闇の中から声を響かせる。
彼らのフードの奥には闇が広がっており、その顔をうかがうことができない。
しかし、もしも【マナサーチ】のスキルを持つ人間がこの場にいたら、卒倒することは間違いないだろう。
――黄昏の邪竜教団・
その6人全員が、人間を超越したマナをその身に宿しおり、さらに長卓の上座には――その6人のマナを足し合わせても敵わないような、圧倒的な“存在”が静かに座していた。
「……ふん、このような廃墟で話し合いなどと……部外者に聞かれる心配はないのか?」
「……くくく……問題はないとも。ここは雷の要塞の中……
「……だが、例の“イレギュラー”のこともある」
「……ふん……“イレギュラー”というと、ググレカースとザリチェを滅ぼしたという人間のことか?」
「ああ、そうだ」
それは、彼らにとって想定外の計画の障害だった。なんでも、その人間の少女はググレカース家の娘であり、力がないため追放されたというが……。
「……やつは2週間もしないうちにエルフたちを完全支配し、邪竜教団の傘下にいたググレカース家――さらには、“
「ふん……だが、それはやつらが弱かっただけのこと。力を与えたところで、しょせんはただの人間か」
「……だが、ググレカース家からのマナの供給がなくなるのは痛いな。例の
「……それよりも、妙だとは思わないか? 例の“イレギュラー”の動きはあまりにもできすぎている。まるで、こちらの情報が全て筒抜けであるかのようだ」
「……ああ、それは我も気になっていた。よもや、この中に……内通者がいるのではあるまいな?」
――内通者。
その言葉が発せられるとともに、ぴり――ッ、と室内に殺気が満ちるが。
「…………静まれ」
黒ローブのリーダー格――〝翼〟の司教ジハルドの言葉によって、一触即発の空気は霧散した。
「……我らの計画に変更はない。たとえ、内通者がいたところでな」
ジハルドはゆっくりと司教たちを見回しながら、語りだした。
「……時は満ちた。七女神も十二星将も力を落とし、古の大戦の記憶は風化した。強力な
黒ローブたちが、一斉にこくりと頷いた。
「……我らの神――終末竜ラグナドレク様を解き放ち、この穢れた地上を浄化する。そのときこそ、闇の時代は再来し……古代王国はふたたび浮上する」
そして、ジハルドが立ち上がり、両腕を広げ――。
「さあ、始めようか――我らの“エターナル・ヒストリア計画”を」
そう宣言したときだった。
――かちゃ、と。
ティーカップが静かに置かれる音がした。
「「「――――ッ!!」」」
びくっ! と、黒ローブたちの肩が、一斉に跳ね上がる。
そのまま、彼らがおそるおそる上座を見ると。
そこにいるのは、ごごごごごごご……と、大気を震わせるほどの圧倒的なオーラをまとった“存在”だった。
それは、“少女”の形をしていた。
だが、もちろんただの人間の少女であるはずがない。
(……っ! っ……凄まじいマナだなっ)
(……我ら六魔司教が束になっても、勝てる未来が見えんとは……)
(……これが……格の違いというやつか……っ)
ここにいる六魔司教のレベルは60に到達している。
レベル50ですら人類最高峰といわれている中でだ。
だというのに――そんな六魔司教でさえ、思わずひれ伏したくなるようなオーラを放っている。
「……っ…………」
黒ローブたちが震えながら、“少女”の言葉を待つ。
その視線を受けた“少女”は、やがて顔を上げて、黒ローブたちをゆっくり見回すと――。
「…………?」
『なんで見られてるんだろう?』というように、きょとんと小首をかしげてから、ぽけーっとした顔でお茶をふーふー冷まし始めた。
(((………………で、こいつ誰?)))
それは、六魔司教の気持ちが、初めてひとつになった瞬間であった――。
――――――――――――――――――――
というわけで、日常回やります。
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