第4話 もしかして、世界最強になってる?
少女がさらさらと消えていったあと。
ローナはやたらオーラのある杖――世界樹杖ワンド・オブ・ワールドを手に、ぷるぷると震えていた。
「こ、これ、私が受け取ったらまずいやつなんじゃ……」
試練とか突破してないし、冒険も出会いも別れも経験していない。
あと、いきなり世界とか託されても困る。
「あ、あの……今から返品とかできますか?」
虚空に向けて話しかけてみるけど、答えは返ってこない。
ローナは潔く、その場に土下座した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃ……! もうちょっと軽い感じでもらえると思ったんです!」
合言葉を唱えたら、『ぴんぽーん! これが景品の杖だよ』『わーい』ぐらいの感じでもらえるかと思ったら、なんか予想以上に重かった。
(と、というか、世界を託すってなに? 私になにをしろと……? なんか、とんでもない爆弾を押しつけられた気分なんだけど……)
ひとしきり謝ったあと。
「はぁぁ……よしっ」
ローナは気を取り直して、ポジティブ思考に切り替える。
「まあ、念願の装備は手に入ったしね……それが強いに越したことはないわけで。今さら捨てるわけにもいかないし」
声が震えていたけど気にしない。
「とりあえず、うん……まずは、この杖の性能を調べてみよう」
たしか、国宝のキングダムソードがAランクで物攻+500だから……SSSランクのこの杖は魔攻+800ぐらいいったりするかもしれない。
「いや……さすがに+800はないか。ステータスの最高値は999だし」
そんな推測を立てたりしながら、ローナはステータスを確認してみる。
――――――――――――――――――――
■ローナ・ハーミット Lv2
[HP:14/14]
[MP:99999/18]
[物攻:4(+360)]
[防御:11(+5)]
[魔攻:13(+3600)]
[精神:13]
[速度:8(+2)]
[幸運:10]
◆装備
[武器:世界樹杖ワンド・オブ・ワールド(SSS)]
[防具:布の服(G)]
[防具:革の靴(G)]
◆スキル
[インターネット(SSS)]
[
[魔法の心得Ⅰ(G)]
◆称号
[追放者][世界樹に選ばれし者]
――――――――――――――――――――
「………………」
おわかりいただけただろうか。
ローナは無言で目をこすってから、またステータスを見る。
『MP:99999/18』
「な、なんか……表示がバグってるんですが」
魔力の(+3600)もだいぶ意味不明だけれど。
ありえないほど、ステータスが限界突破していた。
「わ、わぁ……ステータスの最大値って、999じゃなかったんだぁ……」
杖を持つ手が震えてくる。
王国最強レベルの魔術士ですらMP500とかなのに。
MP10万といったら、その200倍だ。
わけがわからない。
1つ言えることは、こんなにMPと魔力が高い人間はいないってことだ。
「もしかして、私……世界最強になってる?」
ぽつりと呟く。
レベルは2だけど、これだけの魔力とMPがあったら、ひとりで国を相手取ることもできるかもしれない。
(こ、こんなのが世に知られたら……世界に激震が走るんじゃ)
なんというか、思っていた100倍以上とんでもない杖を受け取ってしまったらしい。
こんなの、もはや戦略兵器みたいなものだ。
この杖ひとつで戦争が起きてもおかしくない。
「い、今さらだけど、この杖ってなに……?」
そういえば、ちゃんと詳細までは調べてなかった。
改めて『世界樹杖ワンド・オブ・ワールド』の情報を、インターネットで確認してみる。
――――――――――――――――――――
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――――――――――――――――――――
▍武器/杖/【世界樹杖ワンド・オブ・ワールド】
▍ランク:SSS ▍種別:杖
▍効果
物攻+360 魔攻+3600
MPストック量=99999
MP消費量3倍 魔法の範囲・威力2倍
▍装備スキル:【
▍効果:広範囲の敵からMP吸収。
地形=森・草原のとき、威力2倍。
▍概要
『いずれ世界に危機が訪れたとき、救世主がこの杖を手にする』と妖精族の神話で言い伝えられている杖。
……と説明文には書かれているが、エンドコンテンツの報酬であるため、この杖を手にする頃には世界の危機はもう終わっている。
作中随一のバランスブレイカーと名高く、雑に持たせておくだけで強い。
強すぎて、なろう系みたいになる。
――――――――――――――――――――
「………………うん」
ローナは無言でインターネットを閉じた。
「……いろいろ、見なかったことにしよう」
深く考えたら負けな気がした。
ローナはただ平和に生きたいだけなのだ。
救世主だとか世界最強だとか知ったことではない。
「とりあえず……そろそろ日も暮れそうだし、今日はここで野宿しようかな」
今日中に森を抜けることはできそうもないし。
杖を手に入れたこの謎空間なら、モンスターに襲われることもなく安全に野宿できるだろう。
というわけで、さっそく焚き火の準備をする。
枯れ枝や落ち葉を集めて小山にして、そこに世界樹杖ワンド・オブ・ワールドを向けた。
今はMPもたくさんあるし、MP消費は気にしなくてもいい。
魔法も使い放題だ。
「初級魔法――プチフレイム♪」
鼻歌まじりに、火種を作るための魔法を唱える。
その次の瞬間――。
ごぅぉおぉぉおおおおォォオオ――――ッ!!
「ふぁぃやっ!?」
杖から放たれたのは、炎の竜だった。
唖然とするローナの目の前で、爆炎が渦を巻きながら暴れ狂う。
木々も、地面も、モンスターも……。
その炎に触れたもの全てが一瞬で炭となり――灰と化す。
まるで、巨大な竜に喰らわれていくかのように。
『イプルスライムの群れを倒した! EXPを28獲得!』『LEVEL UP! Lv2→3』『ポイズンフラワーの群れを倒した! EXPを148獲得!』『LEVEL UP! Lv3→5』『グリーンゴブリンの群れを倒した! EXPを360獲得!』『LEVEL UP! Lv5→8』『ゴブリンキングを倒した! EXPを2180獲得!』『LEVEL UP! Lv8→14』『SKILL UP! 【魔法の心得Ⅰ】→【魔法の心得Ⅲ】』『初級魔法:【プチライト】【プチサンダー】【プチウィンド】を習得しました!』『スキル:【大物食いⅠ】を獲得しました!』…………。
『称号:【厄災の魔女】を獲得しました!』
「…………………………」
炎と煙が晴れたあと。
その場に残されていたのは、焦土と化した大地だった。
ローナはしばらく放心したように立ち尽くしてから。
やがて、ぽつりと呟く。
「いや…………そうはならないでしょ」
◇
――その日、世界に激震が走った。
その激震地は、イプルの森を有するググレカース辺境伯領。
そこの領主ブラウ・ググレカースのもとに、息子のラウザが飛びこんできた。
「父上!」
「どうした、騒がしいな」
豪奢な椅子でくつろいでいたブラウは、不機嫌そうに眉を寄せる。
「あの愚娘はどうした? ちゃんと捨ててきたのか?」
「あんなやつのことはどうでもいい! 今はそれより霊脈だ! イプルの森の禁域にある霊脈が――消滅したっ!」
「……な、なに?」
その報告に、ブラウは思わずワイングラスを床に落とす。
ガラスが派手に割れてワインが高価な絨毯に飛び散るが、気にしていられる余裕はなかった。
「ほ、本当なのか?」
「ああ……すでにマナを吸い上げる装置が、次々と停止していっているみたいなんだ」
「そ、そんな……世界に激震が走るぞ……」
イプルの森の大霊脈。
このググレカース家は、その霊脈によって繁栄してきた家だ。
どこが発生源かもわからない霊脈を守るという建前で、その利益を独占し、軍備を固め、国の中でも大きな発言権を得てきた。
もしも、ラウザの言葉が本当ならば、その利益が全てなくなってしまう。
今後の霊脈からの利益を見こんで、無理に借りてきた金も大量にあるというのに……。
しかも、それだけではない。
(このことが国王の耳にでも入れば……)
霊脈消滅の責任を取らせられることになるだろう。
ググレカース家は、霊脈を守護するためだけに大きな特権を与えられてきた家なのだから。
金をケチって、霊脈の守護をおろそかにしていたことも、すぐに調査でバレるはずだ。
(な、なんとか消滅を隠せるか? いや、無理だ)
霊脈の消滅なんて隠しようがない。
遅かれ早かれ、世界中に気づかれるだろう。
霊脈を守れなかった無能な家の名とともに――。
どうあがいても――没落。
その言葉が脳裏をよぎる。
「な、なぜだッ!? お、おかしいではないかッ!? なぜ、何千年も保っていた霊脈が、突然消滅するのだ……ッ?」
「それは今、調査させてるけど……人災の可能性が高そうだ」
「人災?」
「……霊脈消滅の直後、イプルの森から強大な魔法反応が検出されたんだ。そのマナの量から推測されるMPの量は――1万をも超えるとか」
「……!? あ、ありえん!」
人間のMPの最大値は999のはずだ。
もしも観測された通りの魔法を使える存在が出たとしたら、それはもはや人間ではない。
魔法を扱う、意思を持った厄災。
そんなのは、まるで――古代にいたとされる魔王かなにかだ。
もはや、ググレカース領だけの問題ではない。
世界がやばい。
「い、いったい……なにが、この地に現れたというのだ? いったい、この世界はどうなってしまうのだ……?」
ブラウは得体の知れない敵への恐怖に、わなわなと声を震わせるのだった。
◇
一方、この地に現れた
「――わぁぁっ! プチアイス! プチアイス! プチアイス!」
燃えさかる森に向かって、必死に消火のための氷を放っていた。
ぱきぱきぱきぱきぃぃィイ――ッ!!
と、氷が波のように森を呑みこみ、今度は森の中心に天をつくような巨大な氷の山ができる。
「あ、あわわわ……どうしよう……」
大惨事だった。
杖の性能が高すぎるせいか、魔法の威力が制御できない。
ただの初級魔法ですら、天変地異みたいな威力になってしまう。
『ソードプラントの群れを倒した! EXPを165獲得!』『イビルトレントの群れを倒した! EXPを420獲得!』『LEVEL UP! Lv14→15』『パラライズフラワーの群れを倒した! EXPを220獲得!』『フォレストウルフの群れを倒した! EXPを318獲得!』『LEVEL UP! Lv15→16』『グレートベアを倒した! EXPを950獲得!』『LEVEL UP! Lv16→17』『SKILL UP! 【魔法の心得Ⅲ】→【魔法の心得Ⅴ】』『初級魔法:【プチヒール】【プチピュア】【プチウォール】を習得しました』…………。
『スキル:【殺戮の心得Ⅰ】を習得しました!』
「な、なんでぇぇっ!?」
魔法の余波でモンスターの大量虐殺が起きてしまったらしい。
レベルアップの音が鳴りやまない。
(こ、こんなところ誰かに見られたら……)
と、ローナの頭の中を、嫌な想像が駆けめぐる。
『ひゃっはー! 魔女は消毒だぁっ!』
「ひぃぃっ!?」
火あぶりにされる自分を想像し、ローナの顔がさぁっと青ざめる。
実際のところ、今のローナならどんな敵も余裕で追い返せるのだが……さっきまでレベル1だったローナには、その発想がない。
「と、とにかく、すぐにこの場から離れないと……うぅ、私はただ平和に生きたいだけなのに」
そんなこんなで、ローナは少し涙目になりつつ。
インターネットの地図を見て、町のある方角へと足を向けるのだった――。
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