第3話 SSSランクの杖


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■マップ/【イプルの森】

入手アイテム:【世界樹杖ワンド・オブ・ワールド】(SSS)

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 隠し通路の先のマップを見たら、なんか思ったよりすごそうなものがあった。


「でも、これもSSSランクなの? 名前のオーラがGランク以下じゃないけど……もしかして、SSSランクってAランクの1つ上だったり?」


 わからないことがあったら、そんなときこそインターネットだ。

 この『攻略wiki』の中でしばらく探してみると、答えはすぐに見つかった。



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■用語/【ランク】

G<F<E<D<C<B<A<S<SS<SSS

ランクはこの順で高くなっていきます。


ちなみに、Sランク以上のアイテム・スキルは、メインストーリー1部クリア後の高難度コンテンツの報酬などでしか入手できません。

ゲーム開始時のスキルガチャもAランクが最高となっています。

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「な、なるほど……SSSランクって、Aランクの3つ上なんだ」


 ランクはAが世界最高だと聞かされてきたから、その3つも上というのはピンと来ない。


(というか……なんでAの次がSなの? なんでその次がSSになるの? わかりにくくない? これなら、AAAとかでいいんじゃないの? なんならもう、☆の数とかにすればよかったんじゃないの?)


 これを考えた人は、どういう気持ちでこんなわかりにくいランク付けにしたんだろうか。


 実際、このわかりにくさのせいで、「SSSランクは最弱だろ?」と家から勘当された被害者も出てるわけで……。


「まあ、それより……今は隠し通路だね」


 今まで、この地図に書いてあったことは全て本当だった。

 ということは、今回も本当である可能性が高い。


 つまり、世界最強ランクの杖がこの森にあるということになる。

 あまりにも突拍子もなくて信じられないけど。


(で、でも……インターネットに書いてあるなら、間違いないよね?)


 インターネットに書かれているのは神々の言葉だ。

 つまり、インターネットに嘘が書かれているはずがない。


 ローナはごくりと唾を飲みこみつつ、マップにある隠し通路の場所に向かったのだった。



   ◇



「えっと、隠し通路は……ここって、話だけど」


 隠し通路の入り口は、巨木の根本にあるらしい。

 ローナが木をぺたぺた触っていると、ふわりと水面の波紋のように景色が歪んだ。


「うわっ」


 まばたきする間に、目の前にあったはずの巨木が消えて、その先に木々や茂みでできたトンネルのような通路が現れる。


 おそらく魔法の幻で隠されていた道。

 これが地図に書いてあった『隠し通路』というやつだろう。


「ほ、本当にあった……こんなことまでわかるんだ」


 そんな何度目になるかわからない言葉を漏らしてから。


「お、おじゃましまーす」


 ちょっとびくびくしつつ、ローナは隠し通路に足を踏み入れる。

 こわごわと奥に進んでいき、通路を抜けると――。


「……っ!」


 そこに広がっていたのは、森の中にぽっかりと開いた小さな空間だった。

 花がぽつぽつと咲き、蝶がひらひらと舞い、1つの小さな若木がぽつんと静かな陽光を浴びている。

 ただ、それだけの空間だ。


 しかし、どこか神聖さを感じさせる場所だった。

 呼吸をするごとに体の中の穢れが吸われていくような不思議な感覚がある。


「えっと、杖は……どこにあるんだろ?」


 さっきの小銭みたいに、この辺りに落ちているということはなさそうだ。

 改めてインターネットの地図を見てみると。

 さっきは見落としていた『世界樹杖ワンド・オブ・ワールドの入手方法』という記述を見つけた。



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■武器/【世界樹杖ワンド・オブ・ワールド】

◇入手方法:【十二星の天文塔】の守護者を全て倒して【星図の円盤】を完成させることで、キーワード【時よ止まれ、世界は美しい】を入手。そのキーワードを【イプルの森】の隠し通路の先で使用すると入手イベント発生(戦闘なし)

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「…………うん」


 わけがわからない、ということはわかった。

 

「とりあえず……このキーワードっていうのを言えばいいのかな?」


 まあ、物は試しだ。



「――“時よ止まれ、世界は美しい”」



 とりあえず、ローナが軽い気持ちで口にしてみると。

 その効果は劇的だった。


「うわっ!?」


 ぱぁぁああ……っ! と。

 まばゆい光が辺りを包みこんだ。

 光はローナの前に、しゅるるる……と集束し、人間の形を成す。


 そうして現れたのは、おとぎ話の精霊みたいな少女だった。

 いや、“みたい”ではないのかもしれない。


 翠色の風のような髪。草花をまとわせた衣。

 ふわりと宙に浮いている半透明の肌……。 

 その全てが神聖な威厳を感じさせる。



「――はじめまして、人の子よ。私は世界樹の精ユグドラシルです。よくぞ、“十二星の試練”を突破しましたね」



 精霊の少女が心を洗うような涼やかな声音で言う。

 今まで聞いたどんな声よりも美しく、澄んだ水のように心に透き通ってくる声。

 でも、今はそれより気になることがあった。





(…………試練って、なに?)





 まったく身に覚えがない。

 

(もしかして、私……なんかいろいろショートカットしちゃった?)


 ローナの全身から嫌な汗が出てくる。


「あ、あの……私は……」


「皆まで言わずとも、理解しています。先ほどの言葉は、試練に打ち勝った正しき心の持ち主にしか口にできないものですから」


(……やばい、この人なにも理解してない)


 ローナがなんとか弁明しようとするが、その前に少女が言葉をつむいでいく。


「あなたはここに至るまでに、たくさんの冒険をしてきたことでしょう」


(……旅に出てから、まだ1時間ぐらいです)


「ここに至るまでに、たくさんの出会いと別れを経験してきたことでしょう」


(……初めての出会ったのが、あなたです)


「そんなあなただからこそ、この子を安心して託すことができます……」


 そう言うとともに、目の前にあった若木がしゅるしゅると形を変えて、1つの杖となった。


 先端に大きなエメラルドみたいな魔石がはめ込まれた杖だ。

 見るからに、強大な力を秘めていることがわかる。



「この杖を――この世界を、あなたに託します」



「せ、世界を……?」


 差し出されたその杖を、ローナが思わず受け取ると。

 女の人は安心したように、ふわりとやわらかく微笑んで――。


「……ああ、これでようやく……あの人のところへ……」


「え、あの、ちょっと……?」


 ローナが止める間もなく、少女がさらさらと光の粒子になって消えていった。

 そして――。




『称号:【世界樹に選ばれし者】を獲得しました!』




 そんな表示が目の前に現れる。


「…………………………」


 わけもわからず、ぽつんとその場に取り残されるローナ。

 震える手の中にあるのは、今しがた受け取ったやたらオーラのある杖。


「こ、これ、私が受け取ったらまずいやつなんじゃ……」

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