第2話 謎スキルの真の力



『マップ/【イプルの森】-エタリア攻略Wiki』



 インターネットの画面に現れたその文字列に、ローナは目をとめる。


「……攻略うぃき? よくわからないけど……もしかして、ここで地図が見れるのかな?」


 とりあえず、文字にさわってみる。

 すると、カチッという音とともに画面が切り替わった。


「……っ! ほ、本当に、地図が見れる……!」


 現れたページに描かれていたのは、まごうことなきイプルの森の地図だ。

 それも、森の中とは思えないぐらい詳細な地図だった。


「う、うそ、なにこれ……こんなくわしい地図、見たことない」


 道がないような場所まで描かれている。

 ところどころ、実物の景色を写し取ったかのような精巧なカラーイラストつきでだ。


 少なくとも、ググレカース家にあった自領の地図よりもくわしいし、わかりやすい。

 そもそも、このググレカース領は、他国との辺境だ。

 地形まで詳細に書かれたこの地図は、どれだけお金を積んでも手に入らない代物だろう。


「とりあえず、私が今いるのは、この辺りかな……ん? なにかマークがついてる」


 と、そこで。

 地図の下に書かれている文字に目がとまった。



――――――――――――――――――――

■マップ/【イプルの森】

入手アイテム④:500シル

――――――――――――――――――――



 これは……近くに500シルがあるということだろうか。


「ま、まさか? い、いやいやいや……さすがに、そんなことまでわかるわけないよね?」


 とはいえ、所持金ゼロの身としては、お金は切実に欲しいものだった。


「うん、念のため確認してみよう。このインターネットの情報がどこまで正確か検証する必要もあるし……」


 ローナがそう自分に言い聞かせつつ、近くの茂みをかき分けてみると。

 そこに、キラリと光るものを見つけた――小銭だ。


「ほ、本当にあった……! しかも、ぴったり500シル……!」


 無一文だったので、500シルだとしてもありがたい。

 だけど……。


「こ、こんなことまでわかるの? インターネットって……」


 こんな森の中の、誰かが落とした小銭の値段までわかるとは。


「なにそれ、怖い……」


 ちょっと、インターネットの情報力をなめていたのかもしれない。

 そして、なにより恐ろしいのは、このインターネットでわかるのが『イプルの森の地図』だけじゃないことだ。


「……『マップ一覧』?」


 ローナが画面横のメニューをぽちぽちさわってみると。


「う、うわぁ……」


 『マップ一覧』には、世界中のありとあらゆる場所の地図がずらっと並べられていた。

 中には未踏破であるはずのダンジョン最深部の地図や、王城の隠し通路の地図なんてものまで載っている。


 さらには、『人物一覧』『装備一覧』『スキル一覧』なんてものまである。

 自分のスキルながら……ちょっと引く。


「い、インターネットって、もしかして……やばいスキルなんじゃ?」


 いや、やばいなんてものじゃない。

 ここまで来ると、さすがに察してくる。


(……こんなスキルが、Gランクよりも下のランクなんてはずない)


  兄がよく自慢していたBランクの【魔法剣】スキルどころか、話に聞くAランクスキルですら、このインターネットの前ではかすんでしまう。


「これは、きっと……神の叡智に触れるスキルだ」


 ここに記されているのは、この世界の真理。

 この世界のありとあらゆることが記された神々の書架。


「それこそが……インターネットなんだ」


 ローナは思わず、ごくんと唾を飲み込む。

 もし、このインターネットを使いこなすことができたのなら。

 いったい、どれほどの知識と力を手に入れることができるのだろうか。


「これは……使い方がわかる前に勘当されてよかったかな」


 世界すらも変えかねないスキルだ。

 もしも勘当前にインターネットの使い方がわかってしまっていたら、ググレカース家に幽閉されて情報のための道具にされていただろう。


 下手したら、世界中からインターネットの力を狙われて、誘拐されたり暗殺されたりしていた可能性もある。


「……とにかく、もっといろいろ調べてみよう」


 知識は力だ。

 今の自分には知るべきことが多すぎる。

 ローナは震える手で、改めてインターネットに触れ――。


「あ、あれ? 変な画面が出てきちゃった。広告……広告ってなに? ど、どうしよう、元のページに戻るには……この×印を押せばいいのかな? あ~もう! なんで、こんなに小さいの……あ、あれ? あれれ……?」


 なぜか、画面がどんどん増殖していく。

 そして――。


「……っ!? そ……そん……な……」


 ローナは愕然と立ち尽くす。

 その視線の先に書かれていたのは――。





――――――――――――――――――――

【!】重大なシステムの破損が検出されました【!】

警告:ただちに下の[更新]ボタンをクリックして、最新の修正ソフトをインストールしてください。ファイルは230秒後に削除されます。

――――――――――――――――――――





「い……インターネットが壊れた!?」




   ◇




「よかったぁ、インターネットが直って」


 インターネットが壊れてから、しばらくして。

 よくわからないけど、インターネットを1回消したら破損も直ったみたいで、今はもう問題なくインターネットを使うことができていた。


「でも、インターネットって、すぐに壊れちゃうんだね。扱いには気をつけないと」


 ローナはほっとしながら、インターネットと向き直る。

 あれから試行錯誤した結果、インターネットの使い方にも少しは慣れてきた。


 今では“うぃんどぉ”を複数出したり、他人には見えない“ぷらいべぇともーど”でインターネットを操作することもできる。


「えーっと、インターネットによると、この辺りで分かれ道が……あった!」


 ちょうど、そこで見えてくる分かれ道。

 それを見て、ローナは改めて確信する。


(やっぱり、インターネットに書いてあるのは、みんな正しい情報なんだ!)


 それも、ただの情報ではない。

 この地図には、モンスターの発生場所や罠の位置まで書かれているのだ。


 このおかげで、ローナは安全に森を進むことができていた。

 とはいえ、身の安全が確保できると、少しだけ欲が出てくるのが人間というもので。


「うーん、もっと小銭落ちてないかなぁ。500シルだけじゃ、宿にも泊まれないし……って、ん?」


 ――『隠し通路』。

 イプルの森の地図を眺めていたら、そんな文字が目に入ってきた。

 隠し通路というと、ダンジョンなんかで財宝が隠されていたりする、あれだろう。


「もしかして、隠し通路の先には……すごいたくさんの小銭があるんじゃ!」


 はやる気持ちを抑えて、ローナは隠し通路の先のマップを見る。

 そこに書かれていたのは――。




――――――――――――――――――――

■マップ/【イプルの森】

◇隠し通路の先

入手アイテム:【世界樹杖ワンド・オブ・ワールド】(SSS)

――――――――――――――――――――




(な、なんか……思ったよりすごそうなのがあった)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る