世界最強の魔女、始めました 〜私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます〜(Web版)

坂木持丸

第1章 インターネットを使ってみた

第1話 攻略うぃき?


「……まさか、着の身着のまま追い出されるとはなぁ」


 いきなりだけど、ローナ・ハーミットは森の中に立っていた。

 武器なし。防具なし。お金なし。

 あきらかに魔物が出てくる森をぶらつく格好ではない。


 なにがあったかといえば、答えは簡単。

 ローナはつい先ほど実家から捨てられたのだ。


『なんていうことをしてくれたんだ、ローナ!』


『SSSランクなんてのスキルを発現させるとは、我が家の恥さらしめ!』


『兄たちは皆、Bランク以上のスキルを発現させているというのに!』


 思い起こされるのは、昨日のスキル鑑定の儀の光景。

 家族から浴びせられる罵声の数々と、周囲の人から向けられる嘲笑……。


 ローナの実家であるググレカース辺境伯家は、武門の家柄だった。

 その娘であるローナが、“SSSランク”という“G”よりもはるか下の“S”を3つもつけたスキルに目覚めさせるというのは、けっして許されないことだった。


 この世界の人間の価値は、発現させたスキルのランクで決まる。

 なぜなら、それは神からどれだけ寵愛されているのかを示す指標でもあるのだから。


『ええい、お前なんぞ追放だ! 二度とググレカースの姓を名乗るな!』


 そんなこんなで、ローナはほとんど罪人扱いをされながら、ぽーいっと森に捨てられてしまったわけだ。


「……森で野垂れ死ねってことなんだろうなぁ」


 その場で殺されなかったのは、ステータスに犯罪歴がつかないようにするためだろう。

 溜息をつきつつ、ローナは自分のステータス画面を開いた。



――――――――――――――――――――

■ローナ・ハーミット Lv1

[HP:10/10]

[MP:12/12]

[物攻:3]

[防御:4(+5)]

[魔攻:9]

[精神:9]

[速度:4(+2)]

[幸運:8]


◆装備

[武器:なし]

[防具:布の服(G)]

[防具:革の靴(G)]


◆スキル

[インターネット(SSS)]

[魔法の心得Ⅰ(G)]


◆称号

[追放者]

――――――――――――――――――――



 レベルも1だし、まともな装備もスキルも持っていない。

 このままでは森から出るどころか、すぐにザコモンスターに殺されてしまうだろう。


「せめて、この【インターネット】ってスキルの効果がわかればなぁ……」


 とはいえ、SSSランクなんて最弱スキルでは、ほとんど期待もできないが。


「とにかく……まずは、なんとか生きのびて町までたどり着かないとね」


 そう決心して、ローナがびくびくと森を歩きだそうとしたところで。


 ――ぽよん、と。

 頭上の木の枝から、小さな影が落ちてきた。


「うわぁあっ!? ……って、ただのスライムか」


 めちゃくちゃ、びっくりした。

 おそらく、木の枝から顔に落下して窒息させようとしてきたんだろう。

 このイプルの森にいるイプルスライムは、そうやって狩りをすると聞いたことがある。


「でも、スライムぐらいなら、今の私にだって……」


 ローナだって、ずっと魔法の訓練はしてきたのだ。


「初級魔法――プチアイス!」


 ローナはへっぴり腰のまま魔法を唱えた。

 すると、手のひらの魔法陣から小さな氷の塊が現れ、スライムにぺちぺちと当たり――。


「くっ!?」


 スライムはさして気にした様子もなく、ぽよんっと突進してきた。


「つ、強い……っ!」


 というか、ローナが弱すぎた。

 やはり、レベル1で杖もなしでは、魔法でスライムを倒すのは難しそうだ。


「……こうなったら、を使うしかないか」


 ローナは意を決すると。

 手を胸の前にかかげて、叫んだ。



「いでよ――インターネット!!」



 先ほど発現させたSSSランクの固有スキル。

 それを今、発動する。


 ローナの手の前できらきらと光の粒子が集まり、薄い半透明の板が形作られていく。

 そして――。


「いっけぇ、インターネット!」


 ローナがスライムを指さして、インターネットに指示を出した。

 しかし、なにも起こらなかった。



「…………………………」



 しーん、と気まずい沈黙。

 インターネットはなんの反応もないまま、ただ白く光っている。

 ローナはごほんと咳払いしてから――。



「――インターネット・キック!!」



 スライムをげしっと蹴り飛ばした。

 インターネットの光に気を取られていたせいか、スライムは避けることもせず、べちょりと木にぶつかって潰れる。


 そのまま、ぽふんっとスライムが煙のように消えて、小さな魔石だけがその場に残された。



『イプルスライムを倒した! EXPを4獲得!』

『LEVEL UP! Lv1→2』



 そんな表示が目の前に現れる。


「ふ、ふふふ……これが、インターネットの力!」


 言ってて、むなしくなってきた。


「はぁぁ~……なんでよりにもよって、こんな意味不明なスキルが発現したんだろ」


 やっぱり、Gランクよりはるか下のSSSランクスキルだけあって、本当になにも起こらない。


 魔物の前に出せばなにか起こるかなとも思ったが、そういうわけでもないらしい。


「少なくとも戦闘スキルじゃないよね……」


 ばりばり戦いたいわけではないが、やっぱり身を守れるような戦闘スキルがよかった。


 とはいえ、SSSランクの戦闘スキルなんて手に入ったところで、野垂れ死にエンドは変わらなそうだけど。


「イプルスライムの魔石……これ1つで10シルだっけ?」


 10シルあったところで、パンの耳ぐらいしか買えないだろう。

 安宿でも1000シルはするし、このままでは野宿確定だ。


「……うぅ……世知辛い」


 ローナは涙目になりながら、魔石を鞄にしまう。


「せめて、インターネットの使い方がわかればなぁ……」


 と、ローナが何気なく、光の画面をつんつんと指で触れてみると。


「……っ!?」


 突然、カチッと画面に変化が訪れた。

 画面の真ん中にあった、細長い四角形――。

 そこに指を当てたところで、パズルを思わせる文字パネルのようなものが画面下に現れたのだ。

 知らない文字だけど、不思議とわかる。


「これは……文字をタッチして、なにか言葉を作れってこと? 言葉……合言葉かなにかかな?」


 しかし、思い当たる言葉なんてない。


「まあ……物は試しだよね」


 とりあえず、まずは『インターネット』と打ちこんでみることにする。


「い、い、い……ん……た……あれ、伸ばす音ってどう打てばいいの? これかな……ああっ、間違えて打っちゃった! 文字ってどうやって消すんだろ……とりあえず、インターネットを1回消すしかないかな…………そういえば、どうやってさっきの文字パネル出したんだっけ?」


 そんなこんなで10分後。


「ふぅ……これでよし」


 インターネットの画面の中央には、誇らしげに文字が浮かんでいた。



 ――いんたあねっと



 これで確定ボタンを押す。




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▍G○ogle [いんたあねっと     ×]

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次の検索結果を表示しています:インターネッ

元の検索キーワード:いんたあねっと


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「わっ、画面が変わった。ということは、正解だったってこと?」


 一発で正解を当てるとは。


(……今日の私は、冴えてる!)


 ちょっとテンションが上がってきた。


「うわ……今度は、なんかたくさん文字が出てきたなぁ。本のタイトルリストみたいだけど……す、すごい数」


 おそらく『いんたあねっと』と書いたから、インターネットに関するあらゆる本のページが列挙されたということだろう。


「えっと、なになに……うぃきぺでぃあ? 『インターネットとは、インターネット……ぷとろこる・すいーと? を使用し、複数のこんぴゅたーねっとわーく? を相互接続した、なんとか規模の情報通信網である』……うん、なに書いてあるかさっぱりだけど、やっぱり百科事典って書いてあるし……インターネットは、図書館みたいなスキルってことかな?」


 情報系のスキル。

 それなら、発動してもなにも起こらなかったのは納得だ。


 できれば身を守る戦闘系のスキルが欲しかったけど、旅をするなら情報がまずなによりも大切だろう。

 そう考えると、思っていたより悪くないスキルかもしれない。


「とりあえず今、知りたい情報といったら……このイプルの森の地図かな?」


 この森から脱出しないことには、野垂れ死にエンドまっしぐらなのだ。

 しかし、地図というのはかなり貴重な代物だし、そう安々と調べられないと思うが……。


「まあ、試すだけならタダだしね。い……ぷ、ぷ、ぷ……あれ、『ぷ』がない……あ、こうすればいいのか……る、の、も、り、の、ち……ず、と」


 さっきと同じように、インターネットに文字を打ちこんでみると。

 ふたたび、本のタイトルリストみたいな画面が現れた。

 そのうちの一番上にあった文字列に、目がとまる。



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▍G○ogle [いぷるのもりのちず   ×]

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約126,000件 (0.32 秒)


▍マップ/【イプルの森】-エタリア攻略w

 iki

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「……攻略うぃき?」



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