第三話 『ね、猫が喋った!?』


 私は家に帰ると、速攻で我が家で唯一の癒し要素こと、リヴァさんに会いに行った。

 ちなみに、リヴァさんとは全身が真っ黒な猫のことだ。

 父さんが、あのリヴァイアサンから取って、リヴァさんと名付けた。

 最初の頃はもうちょっと可愛い名前の方が良かったけど、今ではすっかり私もリヴァさんという名前に愛着が湧いている。


「ねえ聞いて、リヴァさん。今日ね、学校で......」


 私は溜まっていたものを吐き出す様に、リヴァさんに愚痴をこぼす。

 猫にこんなことを話しても仕方がないけれど、どうしても誰かに話したかったのだ。

 別に、勉強会のことを間違って話してしまった心美が悪い訳でも、勉強会に参加したいと言ってきた月影んが悪い訳でも無い。

 ただ、自分のミスを愚痴りたいだけ。



「はぁ~、本当にダメだよね、私って。もう、晴子さんが告白するのなら、私は身を引こうかな。」

「にゃ~」


 語り続けること数十分。

 思いの外私はストレスを抱えていたのか、こんだけ話してもスラスラと愚痴は出続ける。


「なんか、色々とうまく行かないだよね。本当、何で私なんかが生まれてきちゃったのかな。生まれてこなかったら、こんなに悩まなくて済んだのに。」

「そんなこと無いのにゃ。」

「っ!」


 私は一瞬、リヴァさんが話し出したかの様に錯覚をし、思わず目元を擦る。

 ヤバい、寝不足かな、私。

 まさか、幻覚、ないし幻聴なんてものを聞くことになるとは。

 それも、こんなはっきりと。


「今日はちょっと、早く寝ようかな。」


 私は気味が悪くなって、自室に向かおうとした。

 しかし、


「ちょっと待ってほしいのにゃ。」

「や、やっぱり、リヴァさんが喋ってる!!?」


 私は驚き、目を丸くする。

 驚き過ぎたら声が出なくなると言うが、案外出た。

 まあ、今そのことはどうでもいいけどもね。

 それよりも問題は、このリヴァさんだ。


「オイラも何で話せてるのかは分からにゃいんだけど、とにかく話せる様になったのにゃ!」

「どういう事ぉ~~。」



【十分後】



「要するに、何故かリヴァさんは日本語を話せる様になったのね。それも突然に。」

「そうにゃ。オイラも、「にゃ~」って言おうとしたら、それが人間の言葉で話せちゃったから、凄く驚いているのにゃ。」


 原因は分からないけど、まあ可愛いから良いか。

 特に、語尾が「にゃ」になっているところがポイント高い。


「まあ、こんな状況ににゃったのは、何も悪い事だけじゃ無いのにゃ。」

「と言うと?」

「主様に、オイラに気持ちを伝えられるからにゃ。」


 主様って。

 もう、恥ずかしいじゃないの!

 まあでも、悪くは無いからそのまま続けてもらおうじゃないの。


「リヴァさんの気持ちって?」

「さっき主様、「何で私なんかが生まれてきちゃったのかな。」みたいにゃこと言っていたじゃなにゃい?」

「そうだよ、だってそうでしょう? 人々に、神様がいちいち意味を与えるなんて面倒臭い作業をしているとは思えないもの。」


 まあ、今のリヴァさんみたいな摩訶不思議な現象が起きているから、もう一概に神様が居ないとは言えない。

 でも、妥当な意見だと思う。


「まあ確かに、意味なんてにゃいよ。少なくとも、生まれてきたことにには。でも、」


 そう区切って、リヴァさんは続ける。


「でも、意味を作るのは自分自身にゃ。生まれてきた意味も、生きていく意味も。」

「っt、」


 リヴァさん、猫なのに人間である私よりも核心を付いたことを言ってくる。

 確かに、生まれてから何をするか、何をしたいかを決めるのは神様じゃない。

 私だ。


「人間と違って、私は自由で気ままに生きてきたから分かるのにゃ。人間って、他人に自分を凄い奴だって、好意的に思われたいって常日頃から考えてるのにゃ。特に、自身が凄いと思っている人や、自分が好意を寄せている相手とかからは。きっと安心したいんだろうにゃ。人間って一人だと、とんでもなく弱いから。」

主人公「何が言いたいの。」


 長々と、長々と。

 人間の気苦労も知らずに。


猫「要するに、人間は周りの視線を気にせずにはいられにゃい生き物ってことにゃ。たとえ自分に不利な状況になるとしても、人間ってば周囲の目を気にし過ぎるあまり、その状況へと飛び込んでしまうにゃ。今の主様みたいに、にゃ。」


 当然じゃない。

 周りの目を気にするのは、人間として必要な感情じゃない。

 周囲との間に無駄な軋轢を生まない。

 生まれ持って当然のものじゃない。


主人公「猫のくせに、分かった様なことを......」

猫「まあ、戯言と思って切り捨ててもらっても構わなにゃいにゃ。ただ、ここまで育ててもらったのだから、オイラは出来るだけ主様の力ににゃりたいのにゃ。思いにゃやんでいる主様の心をこの手で、救えるのにゃら、救いたいのにゃ。」

「り、リヴァさん......」


 そんな風に思ってくれてたなんて。


猫「誰かに好かれるってのは、そこまで難しいことじゃあにゃい。にゃにも、偉業とも呼べることをしにゃくても良いにゃ。ただただ相手を思いやって、自分の素直な感情を伝えていけば良い。そうすれば、人は寄ってくるにゃ。今のオイラみたいに。」


 果たして、そんな簡単なことなの?

 人に好かれるって、そんな単純なことなの?

 でも確かに、心美や月影さんは自分に正直に生きてる気がする。

 心美だって、私の恋をただ純粋に応援してくれた。

 私だったら、月影さんの様に積極的に慎吾先輩に近づこうとしていない。


「ねえ、リヴァさん?」

「何にゃ?」


 私は、思ったことをそのままリヴァさんに伝える。


「私、もう少し自分に正直な生き方をしてみるよ。」


 私は、そう宣言する。

 だが、その言葉を聞いたリヴァさんの反応は、


「にゃ~」


 私に焦点を合わせずに、どっかに行ってしまった。

 あ、あれぇ~、もう少し違った反応を想定してたんだけど。

 まさかのシカト。


「も、もしかして......」


 いや、もしかしなくても、もしかしなくても、


「リ、リヴァさん、普通の猫に戻っちゃった!?」



~あとがき~

この作品は完全に、「どうして猫が喋れるのか?」や「どうやって発声しているの?」みたいな事への説明が無いまま進行します。

ま、まあ、ちょっと現実離れした面白おかしい話として気楽に読んでくれると嬉しいですw

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