バカ女とヒモ男

「私ね、優しい男って駄目なんだよね。だってキモイじゃん!」


「確かに優し過ぎる男はキモイよね。じゃあ、涼子はどういう男が良いの?」


「私はMだからあ、彼の犠牲になるのがいい。」


「S男に、ペンペンされたいの?」


「そんなんじゃ無いよ。あのね、妄想だけどね。彼がお金に困ってて、彼の為にソープで働くの。後で彼に、俺の為にごめんな、って優しく言われたい・・」


「彼の為に犠牲にねえ・・ でも、そういう男ってかなりヤバくない?」


「だよね・・」


だよね。と涼子は言ったが、本心は亜衣にも言えなかった。誰も私の事は分かってくれる筈は無いと涼子は思った。


涼子は自分を普通じゃあ無いと自覚していた。普通の女は、誰もが優しくてお金が有る男が良いと言う。だから男はモテたくて優しくなる。しかし、そういう男は気持ちが悪いと感じてしまうのだ。相手から何かを得るのではなく、相手の為に犠牲になるのが愛だと思えるのだ。



涼子に限った話ではない。自分に合った相手となるとそう簡単には見つかるものではない。結婚をしていても相手に不満を持ち我慢をしながらストレスを溜めていたりする事は多いのだ。男と女はなかなか噛合わ無い。愛は自転車のチェーンベルトみたいな物で、緩ければ外れるし、キツければ回らなくなるか、でなければ切れる。愛は誰にとっても難しいものなのだ。



◇  ◇


ある日 孝志から涼子にLINEがはいった。


《事故って病院に入った、最悪!》


《大丈夫!?何処の病院?》


《かすり傷だから。来ないで良いからな、保険の為の検査入院だから。》



次の日、孝志が退院したと言うので涼子は孝志のアパートに行った。かすり傷だと言われても心配だったのだ。


「大丈夫なの?孝志。」


「ヘルメットと革ジャンが守ってくれたから、かすり傷で済んだよ。見ろよメットがひび割れてるだろう。反省の為に部屋に飾っとくわ。」


「検査で何も無かったの?」


「何も無かったんだけど、バイクが道路から川に落ちて全損だよ。」


「バイクなら保険が効くでしょう?」


「一人相撲で、自損に入って無かったからな。まだバイクローンが1年残ってるのに、最悪だよ。」


「通勤はどうするの?」


「残ったローンを新しいローンに組み込んでバイクを買おうと思ったけど審査が通らないって言われたんだ。とうぶんバスだな・・」


「孝志のバイクって幾ら掛かるの?」


「乗り出し価格で160万円かな?」


「その位なら、私が出して上げるよ。ソープでバイトすれば直ぐに稼げるから。」


「何言ってるんだよ、バイクぐらいで涼子をソープで働かせられ無いだろ。」


「違うよ。私、孝志の為なら何でも出来る。ソープなんてどうって事は無いから。お願い、やらせて!」


「まじかよ。俺、そんな悪い奴じゃ無いぞ。」


「お願い、、やりたいの。解ってよ孝志。やれって言ってよ。」


「本当にやるのか? 俺の為に?・・・じゃあバイクを買ってくれ。」


「あ〜ん、嬉しい。私、がんばるからね。孝志愛してる‥ 」


涼子は嬉しかった。孝志と歯車が噛み合い始めた気がしたのだ。



◇ ◇


面接の日、涼子は緊張していた。孝志には知っているふうに言ったが、風俗は始めての事だった。

店長は開口一番、


「アンタ良いねえ!アンタなら直ぐに指名がつくよ。アンタ次第で幾らでも稼げるよ。」


「幾らぐらいもらえるんですか?」


「そうだね、アンタなら週末のバイトで月100万円から150万円

ぐらいだ。 従業員として働くなら400万円から500万円だな。」


「そんなに? じゃあバイトでお願いします。」


「今日から働けます?」


「何時からでも大丈夫です。」


「じゃあ、こっちに付いてきて。仕事の手順とやり方を教えるから。」


涼子は店長と個室に入り、指示どうり、店長の身体を使って練習をした。


「アンタ最高だわ・・ 絶対お客が付くよ。」



◇ ◇


それからしばらく経ったある日、涼子は孝志のアパートに居た。


涼子は自分のポセットから封筒を取り出して言った。


「お待ちどうさま!バイクのお金を稼いで来たよ。確かめて見て!」


「嘘!マジかよ! え〜と、、10、、20、、40、、100、、、すげー、220万円有るじゃん!」


「だって、革ジャンもヘルメットも買わなきゃあね、私 、 孝志の為に頑張ったんだよ。」


涼子がそう言うと、


「涼子、こっちに来いよ。」


そう言って孝志が涼子を抱き締めた。そして、


「悪かったな、俺の為に。嫌なオヤジなんかを相手にしたんだろう?」


涼子は嬉しくなって小さな声で言った。


「大丈夫、私、孝志の為なら何でも出来るから・・」



「涼子・・ やっべー!俺、泣きそうだわ。」

涙目の孝志を見ると涼子も嬉しくて涙が込み上げて来た。


「店長さんがね、私は稼げる女だから辞めるのはもったいないって言うのよ。孝志がもっと稼げって言うなら、私は働くよ。」


孝志は涼子の手を引いてベッドへ誘った。押し倒しして顔を寄せて言った。


「お前って・・・ 俺の為にソープ嬢になるのか?」


涼子は言った。


「うん、ソープ嬢になれって命令してくれる?」


「それじゃあ、ソープ嬢になって稼いでくれ!」


「わかった、頑張る!」


孝志は涼子の服を脱がせながら涼子の身体に唇を這わせた。自分の為に身体を張る涼子が可愛くて堪らなかった。孝志は涼子の中に入りながら言った。


「涼子、お前は俺が命令したら何でもするのか?」


涼子は快感に酔いながら答えた。


「何でも命令して・・」


孝志は気持が高ぶり興奮した。


「泣くぐらい嫌な事でもするのか?」


その言葉に涼子は益々興奮する。


「ああ・・泣きながら頑張る・から・・何でもする・・あっ・」


涼子は自分の性癖を隠し、自分じゃあ無い自分を演じて来た。自分の本当の姿を恥じていたのだ。そんな涼子にとって孝志は掛け替えの無い男なのだ。


世間から見れば涼子は馬鹿女で孝志はヒモと言う事になる。

涼子は自分を犠牲にして彼に貢ぐ事で愛を感じているのだ。

普通は夫が身を削って働いて妻に貢ぐ、それが世間の常識だ。

しかしどうだろう? 我々の常識は正しいのだろうか?


暮れになれば、平社員が上司に歳暮送る。無い者が有る者に贈るのだ。それを日本の美しき習慣などと言い、年末には歳暮商戦が繰り広げられる。無い者が有る者に?世界ではそれを搾取と言う。所詮常識とはこの程度のことなのだ。










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