まんねり
結婚するまでは彼のすべてが好きだった。
本を読むとき耳をほじくる癖とか・・
食事の後つまようじを咥える癖・・
テレビを見ながら「ヒッヒッヒッ」と下品に笑う癖・・
その全てが、彼らしくて大好きだった。
それがどうだろう・・
結婚すると全て嫌いになった。
「指で耳なんかほじらないでよ。」
「つまようじは捨てなさいよ・・」
「その下品な笑い方は止めてくれる。」
私がそう言うと彼は
「お前さあ、結婚したら煩くなったよね・・」と言ってむくれる。
夫と私は不倫関係だった、夫には妻がいたのだ。
3年も掛けて私が奪った愛だったのに・・
結婚してみればこんな事だ。
夢見た結婚生活も2年もすればマンネリだ。
何のために奪い取ったのか・・
あの頃は人の夫だから燃えていたのかも知れない。
手に入れてしまえばあの頃の興奮は無い。
ああ、全てがマンネリだ・・
結婚はマンネリで終了するものなのだろうか。
「何、 良い匂いがするねえ!」
「魚屋のお兄さんがサービスでくれたのよ。ホンビノス貝って名前らしいの。」
「サービスで?」
「うん・・ 私がタイプなんだって。」
「それってナンパなの?」
「違うわよ。70才のお婆さんにだって、そこの若奥様なんて声を掛けるんだから・・」
「ああ・・ あれね、サービストークね。」
「だけど、他に客が居ないと私に何かくれるのよ。今日はこの貝・・」
「へー、人の居ない時にねえ・・ それって新手のナンパかもな。」
「貝でナンパなの?(笑)でもね、結婚以来ドキドキする様な事も無いし、サービストークでも女は嬉しい物なのよ。70のお婆さんでも嬉しそうだよ。」
◇ ◇
いつの間にか私は他の客の居ない時間帯にお魚屋さんに行くようになっていた。
「今日は良い物が入って無くてね・・ラインを繋がない?良い物が入ったら教えてあげるから・・」
「あ、じゃあ・・」
私はスマホを開いて彼に渡した。
「繋いで置きましたから・・ 後で連絡をするからね‥ あ、らっしゃい!!今日はね、良い物が入って無くてねえ!・・・」
良い物が入ったら連絡をくれる?
これってナンパ?
夫は部類の海鮮好きで毎日の食卓には魚か貝などを出すようにしているのだが、
「今日は魚の荷が少なくて買う物が無かったのよ。だから干物で我慢してね。」
「低気圧が来てるからなあ・・魚は入らないのかもな。」
「あのね、良い物が入ったら知らせるからって、ラインを繋いだんだけど、そういうの有りだと思う?」
「例の魚屋さんと? うーんどうだろう・・ 良い魚が入ったら早めに教えてくれるのかな・・ 」
「だって店の人とライン繋がないよねえ。まじ私に気が有るのかと思って・・」
「あれ! お前何か期待してるの?」
「そうじゃあ無いけど・・ どうなのかなと思って・・」
その日の夜、久しぶりに夫が迫って来た。
「魚屋と寝たいんだろう?」
「うん、寝たいよ・・」
「お前の好きなタイプなんだろう?」
「うん、好きなタイプだよ・・」
「じゃあ、自分で言って。魚屋さんと寝たいって。」
「魚屋さんと寝たい・・」
「大きな体で押さえつけられたいって。」
「魚屋さんの大きな体で犯されたい・・」
夫が仕掛けてくる夜のお遊びだ。
こういうのが無いとなかなかその気にはなれないのだ。
その時ピーポーとラインの着信音が鳴った。
「だれ?こんな時間に・・」
私がスマホを開くと、魚屋さんからだった。
**
美味しい店が有るので今度一緒に食事をしませんか?
**
「ねえ! ナンパだったよ。見て・・」
「本当だ!これはナンパだよ。」
「どうする?」
「別に良いじゃあないか、食事ぐらい。」
「もしそこから先に誘われるかもよ。」
「お前、魚屋さんに抱かれたいのだろう?」
「止めてよ!それはお遊びでしょう。」
「せっかくの誘いを断るのか?」
「もし私が断れなくて魚屋さんと寝たたら嫌でしょう。」
「体だけの関係なら俺は良いよ。」
「それってお遊びで寝るって事?」
「そう、マンネリ解消の為にな。まあ、そんな事にはならないものだよ。」
「じゃあ、何て返事を書こうか・・」
「じゃあ貸してごらん。」
夫がラインに書き込んでいる。
**
よろしくお願いします楽しみです♡
**
◇ ◇
「本当に来ていただいて嬉しいです。私ね仕事柄たくさんの奥様とお話しするんですが、あなたが一番素敵なんですよね。」
「サービストークがお上手ですね。」
「いや、これは本当なんですよ。そうでなかったらラインを繋いだりしませんって。」
食事が終わり勘定のの前に彼がこう切りだした。
「私と2時間ほど二人っきりになりませんか。私はこのまま帰れませんよ。」
「あ、ちょっと待ってねトイレに行ってくるので」
私はトイレに駆け込んで夫に電話した。
「ホテルに誘われてるのよ。どうしよう・・」
「やっぱりな。じゃあ行って来いよ。俺の事は忘れて楽しんで来いよ・・」
「本当に良いの? 後で怒らないでよ・・」
「でも、1時ぐらいには帰って来いよ、心配するから。」
「分った。12時までには帰るから。起きて待っててね。」
◇ ◇
彼は夫より大柄で私を押し潰すように抑え込んだ。
手も胸もあそこも大きくて私は彼の下で何度もアクメに達した。
12時頃彼が3度目に達した時、私は疲れて少しうとうとした。
「え! 今何時? え!4時!」
彼はまだ寝ている。
「ねえ!起きてよ! 駄目よ!早く起きてよ!!」
寝ぼけ眼の彼を急がしてラブホを出ると急いで自宅に向かった・
結局自宅に着いたのは4時半を回っていた。
玄関を開けて玄関に立ったが、上がるのに何故か躊躇した。
夫が出て来て、
「どうしたんだよ、そんな所に立ってないで、早く上がんなさい。」
私は夫の顔を見ると何故だか涙が溢れ出た。
「ごめんなさい。」そう言いながら駆け上がるように夫に抱きついた。
「ごめんなさい。寝込んでしまって、気が付いたら4時だったの。ごめんなさい。」
夫は抱くようにして私をベッドに連れて行った。
「駄目だよ・・私、シャワーしてないから・・」
夫は唇で私の言葉を止めて押し倒した。
さっきまで彼に抱かれていた体に夫の唇が這う。
それだけで私の体が震える。
・・ああダメ、そこは汚れているのに・・
強烈な快感に何度もイッてしまう。
「どんな奴だった?」
「うん、良い人だったよ。セックスも上手かった。」
「又会う約束をしたの?」
「うん、月1で会いたいって・・」
「そうか・・ 俺の事を嫌いになるなよ。」
「変な事を言わないでよ。それだけは絶対ないから・・」
・・それだけは絶対ないよ・・
・・アナタが居るから彼と燃えるんだし・・
・・彼が居るからあなたとも燃えるんだから・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます