第8話
転入初日は金曜日だったので、翌日の土曜日は通勤日だ。俺はイントゥ・ザ・ネクストの社長室で三宅に一連の出来事を報告していた。
「ふむふむ、まさかお前がそんなことになっていたとはな、、、」
三宅はニヤついた顔でこちらを見てくる。ミクと同じでこいつもからかって来ているのか、、、
「俺は!嬉しい!とても!」
「おっと、、、?」
「お前とは旧知の仲だが、そんな表情で喋ってくるのは初めてだ!うんうん、やっぱり俺のアイデアは素晴らしかったようだな!」
「えっと、、、?」
「ああ、何でもない。とにかく!このまま月曜からの登校、授業、部活、それから生徒との交流もしっかりやってくれな!また、来週の報告も待ってるぞ!」
「ああ、了解だ、社長」
「だから俺のことは良二と、、、」
「せめて三宅にしてくれ、、、」
俺たちは別れ、俺も自宅へと帰ることにした。
その帰路、会社から駅までの道にて、、、
「ちょっと、離してください!」
路地裏から女性の悲鳴が聞こえた。俺は通り過ぎようとしたが、どうしても無視できず、声の方向へ進んでいた。
「おいおい、俺たちと遊ぼうぜ、ねえちゃん」
「そうだよ、きっと楽しいよぅ」
「いいから、離してください!警察に言いますよ!」
「おっと」
男は女性のポケットからスマートフォンを強引に取り出すと連れの男に渡す。こいつ、女性の目線からスマホが入ったポケットを割り出したのか、、、なかなかのやり手のようだ。
「きゃ、、、」
男は女性の口を片手で塞ぐと、もう片方の手で抱えて連れて行こうとする。これ以上は見過ごせない、、、!
「そこまでだ、お前ら!」
俺は誘拐未遂の男たちに立ち向かっていた。
「なんだ、ガキか。大人の世界に立ち入るとは、身の程を知らないみたいだな。お前は子供だから、ここで何もせずに立ち去るなら危害は加えないが、どうする?」
「言うまでもない、俺はその女性を助ける。それから、俺は、、、」
俺は小柄な体格を活かし、軽くジャンプすると、女性を担ぎ上げようとする男に飛び蹴りを喰らわせた。
「ぐわっ、、、」
「俺は、子供じゃ、ない!」
男たちは一瞬狼狽するも、すぐさま応援を呼ぶ。
「おい、大丈夫か?すぐにここから逃げろ!急げ!」
「はい、、、ありがとう、坊や、、、」
とりあえず、俺は女性を逃した。だが、次の瞬間、俺は大勢の男たちに囲まれていた。
「はは!多勢に無勢、まさに絶体絶命、だな!」
男の言うことは正しい。俺の技量を正確に判断し、こうして沢山の味方を呼んだ。やはり一筋縄ではいかないようだ。だが、そこにとある少年が現れた。
「そんな小さなガキにここまでガチになるなんて、大人げねえなぁ」
「本田!?」
「N、助太刀するぜ!」
本田は素早い動きで男たちを翻弄しながらパンチを何十発も繰り出す。俺も負けじと蹴りを主体に戦う、、、数分後にはその場から立ち去る男たちと、ほとんど傷がつかずに勝ち残った俺と本田の姿があった。
「やるな、N。お前の動きは普通じゃない。蹴りの重みもあいつらを負かすのに十分だったしな」
「お前こそ、あのパンチと回避の動き、ボクシングでもやってるのか?」
俺たちは互いを称賛した。
「ああ、俺はこの近所のボクシングジムに通ってるんだ。今はその帰りってところだ。ところで、N、、、」
本田は改まった様子で俺に向き合う。
「N、お前、ただの高校生じゃないだろ?」
「ギクっ」
『ギクっ』という言葉が出た。まずいな、俺の正体がバレれば、俺の高校生活が危うい。ましてやそれが周囲にバラされる可能性がある。
「いや、多くを語らなくていい。お前の正体に関しては俺も口外しない。だから、一つ頼みがある」
「、、、なんだ?」
「俺のジムにスカウトさせてくれ!」
「、、、ん?」
「お前の蹴りの技術、あれは恐らく独学だ、そうだな?あのジャンプからのあの威力のキック、あれは普通の人間には出来ない。お前には見込みがある。俺のジムには猛者が沢山いるから、お前にも有益なはずだ。きっと成長できるぞ」
俺には確かに昔から力が備わっていた。火事で燃えている家から妹と母と父、全員を抱えての脱出をしたことがある。車にひかれる寸前の少年をギリギリのところで救出したこともあった。だが、それは、あくまでも火事場の馬鹿力、継続的に出せるものではない。
「確かに悪くない提案だが、、、断らせてもらう。すまないな」
「そうか、、、いや、いいんだ。無理強いはしない、、、だが、よろず部の入部はどう考えている?出来ればあいつらの悲しむ顔は見たくないんだ」
「ああ、それなら、もう決めてる」
俺はその言葉の通り、既に決断していた。
「まあ明後日にみんなに伝えるさ。その時を楽しみにな」
「ああ、いい報告を待ってるぞ」
俺たちはそこで別れ、それぞれの帰路をたどった。
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