第2話

今日は久しぶりの出勤日、長く伸びた髭を剃ったり、特注の小さいスーツを着たりして身なりを整える。

「おやぁ?久々にお仕事行くの?気を付けてね。行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

俺はミクに見送られて家を出た。メモリはちゃんとカバンに入れた。準備は万端だ。


1時間後、、、


俺はビル群の中にそびえ立つ、『イントゥ・ザ・ネクスト』に着いた。『次に繋がる仕事』をテーマに、依頼などをなんでもそつなくこなす会社だ。ここに来るのは大体1ヶ月ぶりか、相変わらず迫力があるな。社員パスでゲートを通過し、混雑したエレベーターで社長室のある階まで進む。そして、たどり着いた社長のいる部屋の前でドアをノックする。

コンコン。

「おう、入っていいぞ」

促されるままに無駄に広い部屋へと足を踏み入れる。

「久しぶり、社長」

「おい、今は2人だけなんだから、俺のことは良二(りょうじ)って気楽に呼んでくれよ」

「そうは言われてもな、仮にも平社員と社長だぞ?流石に下の名前を呼び捨てにするのは、、、」

「いいんだよ、俺が許してるんだから」

やたらフランクに絡んでくるのは、この会社の社長の三宅(みやけ)良二。中学時代の同級生で、俺とは腐れ縁の仲だ。中卒の癖に持ち前のカリスマ性でベンチャー企業を立ち上げ、社員数百人の会社にまで成長させた凄腕である。

「とりあえず頼まれたイメージに合った曲を幾つか作ってきたぞ」

俺は曲の入ったUSBメモリを社長に渡す。

「ありがとう、納期をしっかり守ってくれてこっちも助かるよ。ところで、、、」

社長は改まった様子でこちらを見る。

「S、お前に頼みたいことがある」

「どうした?」

「お前に、、、」

次に彼から言い放たれたのは信じ難い内容の依頼だった。

「高校に入って欲しいんだ!」

「は?」

「突然のことで驚いているのは分かる。だが、お前にも更なる見聞が必要だと思うんだ」

「ああ、俺は確かにお前と同じ中卒だ。でも、どうして急に、、、」

「1人だと不安か?なんだったら俺も、、、」

「いや、いい。1人でいい。だが、アテはあるのか?入学の手続きとかはどうすればいい?」

「それならもう済ませてるぞ、あとはお前の意思だけだ」

流石は社長。手はずは完璧らしい。

「それは仕事の内ってことでいいのか?」

「ああ、そのとおりだ。学校での出来事や生徒との交流の内容もしっかり報告してもらう。そうだな、週末の、、、毎週の土曜日に出勤してくれ。ちゃんと給料も出すぞ、なんなら2倍に増したっていい」

「いや、今までどおりでいい。せっかくの機会だし、俺も羽を伸ばすとするか」

「受けてくれるんだな。ありがとう、S!」

俺は社長の指示通り、来週から一年生として高校に編入することになった。


帰宅後、、、


「えっ、お兄ちゃん、高校に入るの!?」

「ああ、社長の頼みでな」

「それなら私も入る。どこの高校に通うの?教えて!」

「えっ、そ、それは、、、」

俺は妹の迫真さに負けて、自分の入る高校を教えてしまった。

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