第61話元婚約者side


 月明かりを頼りに歩くのがこんなに大変だとは思わなかった。

 こんな事なら馬の一頭でも連れてくるんだった。王都は何故か国民が集団ヒステリーを起こしていて怖いし……。郊外の館も襲われるんじゃないかって噂になってた。襲った処で金目の物なんてないのに……。使用人達は「貴族なら誰でも狙われる」と言い出すし……。

 


「ヘスティアも酷いよ……あれだけ手紙を送ったのに……何で迎えに来てるれないんだよ」


 だんだん息も荒くなってきた。

 こんな事なら日頃から運動をしておくんだった。


「産後の身なんだ。自分から迎えに来れなかったに違いない。だから僕から会いに行くよ」


 ヘスティアに会えさえすれば全てが上手くいくはずだ。

 

 謂われない誹謗中傷を留学先で受けた可哀相な僕を暖かく迎えてくれる。

 公爵夫妻も領内に居るんだから前のように僕を可愛がってくれる。

 息子が産まれたんだ。次は女の子がいいな。ヘスティアに似た女の子なら思いっきり可愛がれそう。男の子はちょっとアレだけど、だ。世間並みには可愛がろう。そうしないと、またすれ違いが起きそうだからな。

 

 

 ぜぇぜぇ。


 飲み物でも持ってくればよかった。


 はぁはぁはぁ。


 今日も野宿か……。

 心なしか着ている物が汚れてきたように感じる。

 なんだろ?

 変な匂いまでしてきてる。


 公爵領に付いたらヘスティアに新しい服を購入してもらおう。

 既製品は肌に合わないんだよ。

 やっぱりオーダーメイドに限る。



 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る