第60話元婚約者の現状
とても正常な人間の書く文章ではありませんでした。
最後に送られた手紙は常軌を逸脱していました。
“ヘスティア、
有り得ません。
読んでいて恐怖を感じました。
「そもそもヴィランは留学をしていたのではなかったのですか?どうして帰ってきたんです」
あの襲撃未遂後、ヴィランは隣国に留学をしていました。王家が動いた結果でしょう。ヴィランの母君は王太子殿下の乳母ですから。私としても物理的に離れてくれるならばと思って事を荒立てなかったというのに……。
「その事じゃがな、どうやら留学席でも噂が出回っておったらしい。ヘスティアとの婚約解消から襲撃事件に関してのことをのぉ。そのせいで留学先の学校から受け入れるのをかなり渋られたらしい。まあ、王族の推薦という形にして無理やり受け入れさせたようじゃがな。学校側も隣国とはいえ王族の依頼とあっては拒めなかったのじゃろう」
「自主退学したと聞きましたが……」
「う〜……む。留学先で虐めを受けたらしい。まぁ、貴族専用の学校じゃ。暴力沙汰はなかったようじゃが……どうも無視され続けておったらしい。それに耐えかねての退学じゃ。恐らくヴィランが勝手に退学届を出して帰国したんじゃろう。寄宿先の寮でも必要最低限の会話しかしてくれなかったようじゃしな」
ヴィランが退学してきたと聞いた時から嫌な予感はしていました。それに、ヴィランが虐めを受けるのもある意味で当然かもしれないとも思いました。
「帰国後は、自宅に引き籠っておったようじゃが……ヘスティアに復縁願いを出してくるとはな……」
「ヤルコポル伯爵夫妻はヴィランを病院に連れて行こうとしたらしいですが、実際の処はどうなのですか?」
「それは本当の事じゃ。病院は病院でも『精神科』の方じゃがな。まぁ、王都がどんどん酷い状態になっておったからヤルコポル伯爵夫妻としては、入院させることで暴徒から逃してやりたかったのじゃろう。親の心子知らずとは、まさにこの事じゃな」
「……そうですか」
溜息がでます。
ヴィランから送られてきた手紙には私への謝罪の言葉は一言もありませんでした。書かれていたのは自分の不幸を嘆くものばかり。家族だから許してくれ、と言わんばかりの内容。私は貴男の家族ではないと言いますのに! 勝手に私の息子を自分の子供と脳内変換までしていた時は始末するか迷ったほどです。
だからでしょうか。
元婚約者の末路を聞いても全く心に響かないのです。
寧ろ、安堵感の方が勝っています。
一度目の恐怖もありません。
既にヴィランは過去の人物となり果てていました。
もはや、興味もなければ情も消え失せています。
公爵領と家族に危害が及ばなければヴィランの存在など、どうでも良いのです。
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