第36話婚約者side
参考書の山が机の上に積み重なっている。
大勢いた家庭教師はいなくなった。その代わり参考書の山だけが増えていく。
父も母も仕事が忙しいのか館に戻らない日々が増えた。
兄も弟も館に寄り付かない。
この館で僕は一人ぼっちだ。
両親からは「今は何も考えずに大人しくしていろ」と念を押されるように言われた。後は何か色々言っていたけど忘れた。きっと大した事じゃない。
つらい……。
寂しい……。
悲しい……。
何でこんな事になったんだろう。
きっかけは分かっている。
あの女と遊んでいたからだ。
ただの遊びだ。
本気じゃない。
僕の妻はヘスティアだ。
彼女だけなのに……。
結婚するのはヘスティアだけだって言っても誰も本気にしない。父からは、「公爵家を金満扱いする気か!」と怒鳴られた。
何でだ?
そんなこと考えた事もない。
学園に入学するまで一緒に暮らしていた家族なんだ。
ああ!
そうか!
公爵家は勘違いしてるんだ!
あの誤解さえなければこんな大事にはならなかったはずだ。
つまり、誤解さえ解ければ元に戻る!
兄上達も王太子殿下の側近に戻れるし、フェリィーにも良い縁談が来る。僕も以前のように公爵家で生活できるようになる。
誤解を解くためには公爵家に行かないと。
ヘスティアに会って本当の事を話さないといけない。話せば全てが誤解だったと理解してもらえる。僕達は
でも……どうやって公爵家に行けばいいんだ?
馬車は両親の専用になっているし。かといって勝手に使えば両親にバレてしまう。両親には気付かれないようにしないと。たまに帰ってきてもピリピリしてる二人に話すと何だか怒られそうだ。
それに、こういう事は当事者同士が話し合うのが一番だ。部外者が介入するから誤解が生みやすい。僕は今回の事で学習した。本にも書いてあったから間違いない。
来月あたりからヘスティアは領地に視察に行くはずだ。
毎年の事だから今年も行くだろう。
そこで話合えればいい!
ちょうどいい事に今住んでいる館は公爵領への通行路だ!
公爵家の馬車が通るんだ。街では噂になるはずだ。館から近くの街は何とか歩いていける距離にある。そこで情報収集すれば問題ない。
元の生活に戻れるという希望で一杯だった。
だから気付かなかった。
裁判結果が誤解でも何でもない事に。
王都でヤルコポル伯爵家が何と言われているのかも知らなかった。
僕は何も知らないまま行動を起こした。
それが、僕の運命の分岐点となる。
僕だけじゃない。
家族の、そして大勢の人の運命を狂わせる事になった。
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