第8話

「ヴァレリア……?」

少女は頷いて、デヴォンの細い腕を掴む。

「この辺は化け物が出るから危ない。ね、ウチに着いて来て。洞窟へ向かうから」

デヴォンは緑色の瞳をパチパチさせた。

「洞窟へ入っちゃえば安全!ウチの師匠がいるからさ」


デヴォンが山道を下る。ザックが落ちてしまった川に近づいて行く。

「あの……」

「ん?」

「僕の仲間を見なかった?黒髪で真っ赤な瞳をしている、体格の良い男性なんだけど……」

「……その人、崖から落ちたの?」

デヴォンの肩が震える。

「僕が……救えなかった……」

「あー」

ヴァレリアがため息をつく。

「大丈夫大丈夫。ぜぇーーーったい大丈夫だから、泣かないでよ」

「な、泣いてなんか……」

「川に落ちたなら、師匠が拾ってるはず。しかも男なら確実に放置はしないから」

「え?」

ヴァレリアの表情はずっと変わらない。

「ウチの師匠、人間の男の体を調べたいってずーっと言ってたんだよね。だから大丈夫」

それだけ言って、早足になるヴァレリア。デヴォンは別の意味で心配になってきた。

「ちょっと待って。人間の男を調べたいって、それ、解剖とかじゃ……」

「かもねー」

「どっちにしても死んじゃうよ!早く行こう!」

「だからー、向かってるっつーの」



〜洞窟内〜


ザックはリュウガの作った不味いスープに咳き込んでいた。

「がはっ……!なんだこれ!」

「魔族専用スープじゃ」

「そんなもん人間に食わせるな!げほっ、げほっ」

「全く。人間は貧弱じゃのう。オスはメスよりも体がでかいから強いかと思っておったが……」

リュウガのしっぽがゆらゆらと揺れる。それを目で追いながら、ザックが口を開いた。

「人間のオスは見たことがないの?」

「200年は見たことがないのう。250年前フートテチにおった頃は人間たちに紛れておったから見飽きるほど見たがのう」

「あんた何歳なんだ?」

「細かな年齢は忘れたが、300歳を迎えたことは覚えておる」

魔族は人間よりも寿命が長いらしい。

「龍族は500歳が平均寿命じゃ。我もまだまだ現役じゃ」

胸や腕の大きな傷は古くなって跡を残している。

「あんたはなんでこんな洞窟にいるんだ?」

「フートテチで人間に擬態をすることに飽きたからじゃ」

「それだけ?」

「ふん、いいじゃろう。なんでも」

しっぽが洞窟の地面を激しく叩く。怒っているらしい。

「それより、おぬしのことじゃ。我が聞きたいのは」

「俺?」

「おぬし、どこから来てどこへ向かう?」

「シャフマから来て、シャフマへ帰るぜ」

「しゃふま!!我も行きたい!」

リュウガが立ち上がってザックの肩を掴む。

「我は、シャフマへはまだ行ったことがないのじゃ。一緒に行ってやっても良いぞ」

「え……あんた今、行きたいって」

「……行ってやっても良いぞ?」

「……」

リュウガのしっぽがユラユラと揺れる。

「あんたは何ができるんだ?怪物が出たらたたかえるのか?」

リュウガの片眉がクイッと上がった。

「もちろんじゃ。我は強いぞ。金棒でも盾でも持ってやる」

「金棒?魔法は使わないのか?魔族は魔力が豊富ってさっき……」

「ふんっ、とにかく我は強い。連れて行くじゃろう?」

「……分かったよ。この洞窟はどうするんだ?」

「別に壊れても問題ないわい。何百年か住んどっただけじゃ」

リュウガが立ち上がる。背丈は2メートルないくらいだろう。

「我がおぬしを抱えて歩こう。西に向かえば良いのじゃろう?」

ザックは軽々と背に乗せられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る