第2章『龍とギャル』

第6話

―ザック、眠れないのか?


―なら、父さんがお話をしてあげようか。


―昔々、あるところに……


―孤独な王子様がいました。


―王子様は恋をする義務を背負っていましたが、


―大人になっても恋ができませんでした。


―王子様の傍にはたくさんの女の人がいたのに、


―王子様はたくさんの愛に囲まれていたのに、


―王子様は、恋が出来なかったのです。



―――――――――――



(ここは……)

(体が、動かない……)

(何かが上に乗っているんだ)

(たしか俺はデヴォンの手を掴めなくて)

(崖から落ちて……)


「ふむぅ……」


何かがザックの体の上で動く。

「人間のオスの体をこんなにじっくりと見たのは初めてじゃが」

「おそらくこの個体は成体じゃのう」

「ふふふ、肉付きが良い。美味そうじゃ」

(美味そう……?まさか、俺が!?)


「お、俺を食うな!」

ザックが勢いよく起き上がる。

「なんじゃ。もう起きてしもうた。つまらん」

目の前にいたのは、真っ赤な髪を一纏めにした大男。

「ふん、我を見て恐慄いたか。まぁ無理もないわい」

男が片眉を上げてにやりと笑う。

「誰だ……あんた……」

「我はこの洞窟の主じゃ。名は……リュウガとでも呼べば良い」

「リュウガ……?」

「そうじゃ。おぬしは?名はなんと言う?」

「ええと、俺はザックだ」

「人間のオスはそんな名前をしておるのか」

「あんたも人間だろう?違うのか?」

「ふん、我は人間とは違う。よう見ろ」

ザックがリュウガをじっと観察する。すると、すぐに太いしっぽがあることに気がついた。犬や猫のそれとは違う。毛が生えていない。まるでトカゲのものだ。

「気づいたか。我は龍族のオスよ。人間とは違うじゃろう?」

「ほ、本物なのか?だが、人間ではないなんて有り得るのか?」

「おぬし、知らぬのか。魔族の存在を」

「魔族?……あ、デヴォンが夜に何か話していたような」

本が好きなデヴォンがフートテチの本を読んだときに魔族について知ることができたと言っていた。

「魔族というのは、人間と違い……魔力で生きることのできる存在じゃ」

リュウガがザックをじっと見つめる。

「しかしおぬしが魔族を知らぬというのもおかしな話じゃのう。我がおぬしを拾った理由は、おぬしが魔族じゃと思ったから……」

「俺は人間だぜ?」

「そうじゃろう。嘘をついているようには見えぬからのう。と、いうことは、遠い先祖にでも魔族がいたのじゃろうな」

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