第4話

西に向かって歩く青年2人。ストワードの中心街からシャフマまでは歩いて2週間かかる。指名手配犯のザックは顔を隠して歩かねばならない。

「よし、この辺で休もう」

デヴォンの野宿の知識は目を見張るものだった。

「何故そんなに野宿に慣れているんだ?」

ある夜、ザックはデヴォンにそう聞いた。

「僕はしばらくあの人と暮らしていたんだ」「あの人?母親か?」

「いや……。あるフートテチ人だよ。その人は僕の母親が亡くなった後に僕を育ててくれたんだ。でも、忙しかったのか最低限の食事しか用意してくれなかった」

「……」

「僕が12になった日からあの人は来なくなった。それからは1人で生活してきた。だから慣れてるよ」

「そうか……」

ザックにはデヴォンの気持ちは分からなかった。ザックの周りにはいつも家族がいた。父も母も愛し合っているし、きょうだいだって自分を含めて5人もいる。

父親に似た妖艶な顔立ちと母親から受け継いだ真っ赤な瞳で女に困ることもなかった。他人の体温を感じずに眠りについた日など、ただの一度も……。

「苦労していたんだな」

「別に。普通でしょ。僕は捨て子なんだからさ」

そう言って苦笑する。

「僕がストワード人なのに魔法を使おうとするのは、僕自身の証明にしたいからかもしれない」

「魔法で生まれても良かったんだって、思いたいんだ……」

17歳の、たった一人で生きてきた少年の本音だった。



〜シャフマ王宮 跡地〜


「ふうっ……!」

緑のポニーテールが風に揺れる。

「今日の訓練はここまでだ。カードを持って並べ」

「めるびるせんせー!」

「……メルヴィルだ。どうした?」

「さっきのもう1回やってください!」

「分かった。もう一度だけだぞ。しっかり見ておけ」

メルヴィルが剣を構える。フートテチで購入した、長細い剣……いや、刀だ。彼はシャフマ騎士団が解体されてから、王宮跡地に建設された学校で子どもたちに剣を教えている。


「っ!はあっ!!!」


竹を真っ二つに斬り、刀を鞘にしまう。

「かっこいいー!」

「……ふん、この程度当然だ。20年前までは戦場で俺は何人も……」

(そうだ、俺は何人も殺してきた)

砂の賊も、砂の怪物も。元々は人間だったものがほとんどだ。

名前を知っていた生身の人間は、二人殺した。この手で。

一度目は砂の怪物にされて暴走した弟子を、二度目は砂を利用して野望を叶えようとした隣国の第二王子を。

「シャフマが潰れてから20年か……」

メルヴィルの息子も十代後半だ。成人が見えてきている。

「せんせー、カード!」

「あぁ、そうだったな。……また明日も剣を教えてやるからな」

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