第3話

「魔法で、生まれた……?ストワード人が?いや、シャフマでも聞いたことがない」

20年間魔法が身近なシャフマで暮らしていたザックにも、聞いたことがない話だった。

「僕の父親はもう死んでるんだ。僕が生まれる前に」

「生まれる前?」

「母親も死んでる。僕の存在がバレたときに、殺された」

「父親が死ぬ前に母親が身篭ったってわけか?」

「違う」

デヴォンが視線を落とす。

「……僕の父親は、僕が生まれる5年前に死んでるんだ」

「なっ……!?」

父親が死んでいるのに、子が生まれている?

「『人工授精』というらしい。白魔法を使えばできる。父親が死んでも、母親さえいれば……という方法だ」

白魔法は体力を回復したり避妊薬を作ったりするときに用いる魔法だ。

「あんたの父親は、死んだときのために準備をしていたのか」

「そうなる。僕を何に使おうと考えていたのかは知らないが……」

「使う?自分の子を?」

デヴォンは一足先にスープを飲み終わったらしい。カップを洗いにキッチンに向かう。

「……ストワードが王国だった時代、僕の父親は、ストワードの第二王子として生きた……。ストワードでは第二王子の扱いは第一王子の保険でしかない。それでも国のために、歴代の第二王子、第三王子たちは国を支えてきた」

デヴォンが水を流す音。魔法だ。

「……だが、彼は……『良い王子』じゃなかった」

「父を殺し、兄を殺そうとし……最後はシャフマの騎士団に裁かれ、殺された」

「……」

「だから、僕もきっと『利用するため』だったんだ。そのために準備されていたんだ」

デヴォンの声は、か細かった。

「いや……そんなことは……」

ザックが励まそうと立ち上がる。


「だが!」


デヴォンが急に大きな声を出す。ザックは驚いて飛び跳ねた。

「だが!僕は、それでも良いんだ!」

「僕がこの奥深い魔法で生まれたこと、それが嬉しい!素晴らしいよ!そう思わないか!?」

「あ、あぁ。そうだな」

(ポジティブだなコイツ……)



「世話になったね」

翌日、快晴。ザックは朝食までご馳走になった。

「帰るの?」

「す、ストワードにいられないのさ。ははは」

「じゃあ僕もシャフマへ行く。待ってて」

「え?」

デヴォンがリュックサックを準備する。

「いや、歩いて帰るんだぜ!?あんたの細足じゃあ」

「白魔法が使える僕がいた方が便利でしょ。怪我とかしたらどうするの」

(あんたの方が貧弱そうだが……)

そんなことは言えない。目の前の細身の男はもうすっかり旅行気分だ。

「本場の魔法を学んで、ウォーロックになる。それが僕の夢だからね」

「わ、分かったよ……。着いてくるのは止めない」



こうして2人のシャフマへの旅が始まったのである。

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