第1章『雷の後に』

第1話

大統領の家だった建物を背に、ザックは動けないでいた。

(魔法を使ったとバレたらどうなるんだ?)

魔法の使用はシャフマ地区では自由に使えるわけではないが、見逃してもらえる場合が多い。

しかし、ストワード地区は規制が厳しいと聞いたことがある。聞いたことがある程度だが。

「おいシャフマ人!お前が魔法を使って大統領を殺したとなれば、すぐに死刑だぞ!観念しろ!」

「し、死刑だって!?」

「当然だ!魔法を使うことは絶対的に禁止だからな!そもそも人を殺した時点で大悪人だ!」

(それはそうだな……。だが、自然な雷だと言えばまだ)

「警察さんたち!その人、シャフマ語で何かを唱えていました!呪文だと思います!」

「げぇっ!」

「き、貴様〜!この不浄のストワード地区で魔族の使う魔法を使うなど許されんぞ!」

本格的に、ヤバい!そう思ったザックは反射で走った。

「捕まって死刑だなんてごめんだぜ!このまま走ってシャフマに帰ってやる!」

「あ!逃げたぞ!待て!」

「シャフマ人め!」

ザックは必死で足を動かし、逃げた。宣言通りシャフマへ向かって。



「なんの騒ぎなのだ」


「えっ!?」

タキシードを着た、長い金髪の中年男性が警官に聞く。

「あ、あなたは……」

男は焼け落ちた建物を見て大声を上げた。

「こここここ……これは!?何があったのだ!?国民に被害は!?」

「それは今、確認中でして……しかし、まずは、あなたが生きていて良かったです」


「アントワーヌ大統領」



〜ストワード地区 高級住宅地 とあるカフェ〜


「なんだかお外が騒がしいですわね」

「何かあったのかしら?」

金髪の少女二人が紅茶を待ちながら外を見る。

「泥棒じゃありません?最近増えているようですわよ。貴方のお父様も頭を抱えていらっしゃったでしょう」

「多分そうなのだわ。警察が動いているのだわ」

片目を隠した青い瞳の少女……テリーナが長いお下げ髪をくるくると弄る。

(なんだか心がザワザワするのだわ……。なにかが始まりそう)

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