第2話

【見逃すな! 浮気の兆候五大ポイント!】

 1.スマホ依存

 2.身なりの変化

 3.態度の急変

 4.単独行動の有無

 5.金銭感覚と使用車両内の変化……

 検索エンジンのオールジャンルタグに、稀に現れる記事。我が家とは無縁のものと信じて疑わなかったあの頃を思い出す。


 夫は、出会った頃からスマホ依存気味だった。ウェブ小説やゲーム、SNS、語学力向上の学習へと手を変え品を変え、暇があれば画面とにらめっこ。 

 かくいう私もショッピングや情報収集、動画視聴が過ぎてお家デートが丸潰れ、ということもまま有り、人の事をとやかく言える立場ではない。

 令和を生き抜く人類の習慣を多分に漏れず持つ夫。ただ、他人とは多少ズレたところが有った。

 スマホへの危機感を持ち合わせていないのだ。

 手帳型カバーだから誤作動の心配は無かろう、とロックも掛けずにポケットへイン。リビングでは開いたままで机にオン。子どもが触りまくるのは流石に止めに入るが、基本、誰の手に渡ろうが気にも留めない。今どき、そんな人居る?


「防犯のためにもロックくらいは掛けたら?」

「絶対に落とさないし、忘れないから大丈夫だよ」


「LINEYのチェック、しちゃうわよ?」

「あはは! 好きにすれば良いよ。疚しい事は一つも無いからさ。何なら動画履歴も見るかい? SNSの裏垢も見たけりゃどうぞ。そもそも、持ってないけどね」


 これが普通なのかはさて置き、これ程までにオープンな様を見せつけられたら浮気の『う』の字の一画目すら過ぎらないのは当然だろう。

 リビングとの続き間に作った子ども用勉強スペースに置く社用パソコンやスマホも、我が家で開くのは極まれだ。そもそも自宅に居るときは、子どもと戯れるかテレビを流して感想を述べている時間の方が断然長い。

 身なりも態度も特別変わることもなく、一緒に出掛けた先で購入した服を愛用し、束縛が強くなることも無ければ謎のダンマリも無い。

 終業後の飲み会も大して増えもしないし、見ず知らずのかぐわしい素敵な匂いを纏うこともない。

 カード決済書は毎月閲覧しても文句も言われないし、小遣いの無心をされたこともない。

 マイカーは一台きりなので変化があれば判るし、家族で出掛けることが多いから子どもの眼は欺けない。

 そういえば、最近やたらと出張が多い気がするが、上述の通り激しい出費も無さげだし、全て社内精算しているところを見ると間違いなく仕事なのだろう。


 とにかく、あの頃は、どの条件に照らしても合致しないことに胡座をかき、〈何処かの家庭の出来事〉というお目出度い認識でしかなかった。

 だから、出張とうそぶいて女性とホテルへ消える姿を見たときは衝撃でしかなかった。


「仕事が延びて、帰宅は週末になる」

 金曜日の昼下がり、子どもへのお詫びの言葉とともに連絡がきた。

 なのに、何故かその晩に隣街の裏路地にあるビジネスホテルへと入る夫がいた。

 その後に、すらりとした髪の長い女性が特徴のある足取りで続く。

 フロントで手続きをし、離れた場所で待つ女性の腰に手を回し、耳打ちをしながらエレベーターへと乗り込む時刻は十九時半。食事だけで済むとは到底考えられないタイミングと密接度。

 ともなれば発動する、オンナの勘。

「どうかした?」

「ううん……何でもない、行こう」

 子どもの習い事に乗じたお茶会で連れが居ることも忘れて暫し呆然としたが、夫の存在を決して悟られぬよう誤魔化して歩みを進めたあの日。

 これが、調査依頼のきっかけだったのは言うまでもない。ただ、外れてばかりのオンナの勘を信じる勇気が出ず、現実として受け入れるまでに時間を要したのは事実だ。

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