第4話
夫と出逢ったのは最悪なタイミングだった。
「他に女が居たなんて……何でいつもそうなの、私の何がイケナイっていうのよ!」
重くならないよう気を配ってある程度を許容し、でも締めるべきところはキュッと締める。
そうやって三年を過ごした相手から、
「きみは、一人でも生きていけるから……」
繰り返し聞いてきたお決まりのフレーズで別れを告げられた。
覚えているのはそこまで。
あとは、とにかく胃を満たしたことくらい。
当然、酒で。
ぽっかり空いた胸の穴を埋めるように、夢中で。
そう言えば、トイレの一つを貸し切ったような。
見るに堪えない姿だったと友人は後に語っていたが、そんなことなど記憶にない私は気付けば見知らぬベッドに大の字で転がっていた。
「あ、痛い……くぅ。ここは……何処?」
「あぁ……起きたんだ。俺ンちですよ、お姉さん」
寝返りをうって腹ばいになる私を、床に寝転び逆さに見上げる瞳がガシッと捉える。
あれ、この感覚は、もしかして……。
「目のやり場に困るんで、隠すか晒すかどちらかに決めませんか?」
何のことやら、と頭を掻きながら身体を起こし、正座をしたところで漸く気付く。
「ふ、ふわぁぁぁっ! 何で真っ裸なの!」
その一言に火がついたのか、部屋の主と思われる〈俺〉さんは腹を抱えて笑いだした。
しかも、肌掛布団からはみ出る上半身が、裸?
慌てふためきながら取り敢えず胸を隠して
やらかしたのか?
しでかしたんだな、これ?
パンツまで無いとは一大事だ!
三十路間近の失恋で、勢い余ったのか!
こんなイケメンとのナニとは、些か想定外だが。
あぁ、でも、聞いて。
胡座をかこうとしてたのを咄嗟に正座に変えた。
これは間違いなく、正解だったと思わない?
「酔い醒ましに、ビールでもいっときますか?」
「それより、水をいただきたいです……」
「我が家の水は高いよ?」
「払います、水をください……」
「給料日前にあれだけ呑んで、払えるのかな?」
「個人情報ダダ漏れ大会の主催者になってしまった……あの店、雰囲気が好きだったのに」
「トイレでマーライオンにもなってたし?」
「ああぁぁぁ……」
片肘をついて意地悪そうにニヤニヤする〈俺〉さんはひと通り喋ると身を起こして冷蔵庫へと向かい、小さなローテーブルに乗せたグラスに天然水をなみなみと注ぐ。
「はい、ご希望の水」
よく見れば〈俺〉さんはスウェットを着用。
確かに記憶は全く無いが、その感覚も皆無。
これは、もしかしたらセーフなのでは?
「残念、気付いちゃったか。そう、まだ何にも致してないですよ」
正座のままで
「でも、これからどうなるかは、お姉さん次第だけどね。俺もフラレた身だから、気持ちがよくわかるし」
そう言うとグラスの水を一気に煽り、自身が飲み込むより先に私の口へと直接流し込んだ。
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