『悪魔』
石燕の筆(影絵草子)
第1話
おまえは私の姿を見たから死ぬのだ。
物騒なことを言うな。私はしなない。妻も子もいるんだ。
頭のわるそうな悪魔と人間のにらみ合いは三時間あまり続き、やがて人間がある提案をした。
「見たことを見なかったことにすればいいんだろう?ならば私はおまえを見ていない。そしておまえは私を見ていないことにしよう」
悪魔は成る程と言った様子で地獄に帰っていく。
「ばかめ」
頭のわるそうな悪魔を見送った人間が帰ろうとすると知的そうな悪魔がふいに路地の陰からあらわれた。
「わたくしを見ましたね。あなたにはしんでもらいます」
人間は先ほどの頭のわるそうな悪魔に言ったことと同じことを知的そうな悪魔に提案した。
すると知的そうな悪魔は言う。
「成る程。しかしそれでは見たという事実や見られたという事実を消すことは出来ません。なのであなたの生まれてから今までの全記憶をもらいます」
そう言って知的そうな悪魔は人間の記憶を奪った。
記憶を奪われた人間は途方に暮れて空を見上げるとあの知的そうな悪魔が中空に浮かび、かけていた眼鏡を外してにたりと笑った。
その顔は最初に人間が会った頭のわるそうな悪魔だった。
悪魔はご馳走さまと言って再び地獄に帰っていった。
『悪魔』 石燕の筆(影絵草子) @masingan
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