第2話 こうして召喚師になれました

この場にいる、全ての人達が固唾を呑んだ、そして思う。

これは悪魔か魔獣か? しかし、どうみても姿形は人間。

それとも『召喚の儀式』というのは、こういうのが出てくる場合があったりするのか?

本能的には異常を感じてはいたが、口には出せずいる。


そもそも、きちんと儀式を成功させるところなんて見たこともないから、確証は持てなかった。


なにより、その鋭い眼光により視線を合わせることが出来ず、確認すら出来ない。


その『疑惑』の存在は、一周り見回し睨め付けると再び大声で叫び出した!


「おい、なに無視しとるんじゃ! ぶち殺したろか!」


再びの大男の叫びに、また行動不能になった。


「おい、どこなんじゃ、ここは?」


さらにぶち切れて、よけいに誰も動けず震えるしかない。


でも、不思議と私とパパとママだけは怖くなかった。


「勝男さん、あれは勝男さんだよな?」


「勝男さんだよ、生きていたのね!」


パパとママは躊躇もなく泣きながら、自然に大男の所へ歩いて行った。

もしかして、あの夢物語に登場する『勝男』って人なの!?

けど感動の再会にはならずに、大男の言葉はこうだった。


「だから、誰やてめえら!?

外人の知り合いなんかおらんぞ!

なんで俺の名前知ってるんじゃあ、お前ら誰じゃあ!?」


さすがに一瞬だけはビクっとなった2人だったけど、すぐに言葉が続いていく。


「俺です、俺正二です、俺は正二ですよ!」


「私です、美津子です!美津子です!」


「はあ?正二に美津子って⁉︎

ええか、アイツらバリバリの日本人やど! 

寝言は寝てから言えや!」


「ああ、そうだった。

これじゃあ、解りませんよね!

ほら龍道会の本部前に行った時、俺に幸せになれって言ってくれたじゃないっすか!」


「おい外人……、それ誰に聞いたんや!?」


「いや俺っすよ、俺が聞いたんですよ!」


「てめえらが、どうしても正二と美津子って言うんやったらな、あいつらの子供の名前言うてみいや!

絶対に言えるはずやぞ!」


「歩美です!

男なら獅子丸で、女なら歩美って言ったじゃないすっか!

獅子丸はちょっと無理って言ったら、じゃあ龍鬼丸ってどうだ?って言われて、2人で断ったじゃないっすか!」


一生懸命に説明してるけど、どうもまだ疑っているみたいだ。


「ほな正二ならな、いつもライダースの下に着てたもん言えるはずや、答えてみいや!」


「タンクトップっすよ、通気性が良くて楽だったんすよ!」


こうパパは、はっきりと答えてみせたけど問題はママだった。


「美津子なら答えられるはずや、口癖みたいに言ってたもんがあるやろが。

ほなら、言うてみいや!」


「いばらぎけんさいきょ……。」


「聞こえへんぞ! レディースの頭張ってた美津子なら堂々と言えるはずや!」


「茨城県最強!」


これで、ようやく納得したのか今度は勝男とかいう人が慌てだした。

きっと、想定外という事態に陥っているのだろう。


「お前ら……、ホンマに正二と美津子か?

なんや、整形でもしたんか?

そないに悩んでたんか、外人になりたかったんか!?」


「いや、これは何て説明したらいいのか……。」


こんな場面に全員が呆然となってしまう中で、不味いと思い舞台から3人を降すしかなかった。

でも、このダルイ人の言葉は終わらない。


「誰やねん、このガキ! どんな教育受けとんじゃあ!親を連れて来いや、顔見たるわ!」


それからもパパとママが一生懸命に自分達の事や、この世界の事を説明しだした。

でも、また納得したのかしなかったのかという顔をしている。

私でも、『そりゃそうだ』と思うしかなかった。


そうこうしていると、校長先生が恐る恐る私に聞いて来た。

立場上やらなければならない、との苦労がわかる。




「アユミ君、どうしますか?

こういうことは、私も初めてなので対処に困るのですが……。

このまま辞退ということで良いですか?」


向こう側では、アルフレッドが完全にアンバー・ハルクを制御し終えたようで勝ち誇った顔をしている。 

普通に考えたら、そうだよね、これは仕方ないよね……。

でも、勝男なる人物にも校長先生の話が聞こえていたみたいでパパに詰め寄った。


「おい正二、今どういう状況やねん?

何が辞退なんじゃ?」


またパパが説明し始めたけど、納得のいかない顔をし始めたので召喚主として話す事にした。


「あのね、私が間違えて貴方を呼び出しちゃったみたいなんだけど諦めたから、もういいです。

後ちょっとしたら、私の負けになって貴方は消えちゃうので、ちょっと待っててもらって良いですか!」


すると、納得のいかない顔をして私に聞いて来た。

実に、やたらと面倒クサイ人だ。


「なんや負けって? 

なんで、お前が負けるんじゃ?」


「あそこにいる、猿みたいな魔獣がいるでしょ!

あれと貴方が戦って、どっちが勝つか勝負して、勝ったほうが召喚士になれるか決まるんです。

けど、もういいです。

貴方じゃ無理そうですから、だいたい魔獣じゃないし……。」


「なんや、要は猿をどつきまわしたらええんか!?」


「まあ、そうですけど・・・・・」


「おい、そこの爺、今からやるぞ!3分で終わらせたるわ!」


「しかし・・・・・」


「はよせえや、爺!

ほな、先にお前から死ぬか!

天国ちゅうとこ見たいんか?」


校長先生は諦めたみたいに治癒系魔法使いの先生2人と話し出した、恐らくは治癒の準備と蘇生の準備だろう……。

誰が、どう考えったって100%死ぬ。


パパが持ってきたタオルを腰に巻き舞台に上がる勝男なる人物と私、アルフレッドもアンバー・ハルクと舞台に上がった。

アルフレッドの顔を見ると、余裕綽々って感じの笑いが漏れていて腹が立つ。


「では、アルフレッド・ジーニアスとアユミ・ロードスターで勝負を始めます!」


途端にアンバー・ハルクが襲い掛かって来て、勝男とかいう人の顔面を殴った! 

こりゃダメだ、やっぱり死んだ……、と思ったら平気そうな顔をしている。

それどころか、ニヤニヤした顔をしている。


「なんや、この程度か。

ほやけど、これで正当防衛成立や。

ほな、死ねや。」


次の瞬間だった。

岩みたいに硬く拳を握り始めたと思うと、雷のような一撃がアンバー・ハルクの腹にめり込んだ。


「勝男パンチー!」


単に殴っただけなのに、胃液を吐きながら九ノ字に身体を曲がってしまった。


「なんや、身体の割に大したことないのう!

猿のくせに、人間みたいに地獄見たいらしいな!」


今度は流れのままに、後頭部を抱えてアンバー・ハルクの顔面に膝で蹴り始めた!

20回くらい蹴ってから、左手でアンバー・ハルクの右顔面側面を抱えて右手を高々と上げて、また叫び始めた!


「勝男フック、勝男フック、勝男フック、勝男フック、勝男フック、勝男フック!」


アンバー・ハルクの、こめかみ目掛けて殴り始めた!

ここまでくると勝てないと悟ったのか、アンバー・ハルクが逃げ始めたけど、勝男が右耳を掴んで逃げられないようにしながら、また叫んだ!


「勝男キック、勝男キック、勝男キック、勝男キック、勝男キック、勝男キック・・・・・」


アンバー・ハルクの膝を狙って、行動力を奪いにかかっている。

絶対に逃がさない、徹底的に壊し始めた。

こうなると、完全に戦意を喪失したアンバー・ハルクは頭を抱えて丸まり防戦一方しかない。

それでも勝男の情け容赦ない脇腹への蹴りが止まらず、最後は可哀想に泡を吹いて死んでしまった。


「おい爺!これでええんか、案外と楽勝やったのう!」


観客も学校の先生たちも呆然としている。

見た感じ普通の人間が、アンバー・ハルクといった魔獣を殴り殺したのだ。

普通の反応は、普通にこうだろう。


「あれは絶対に悪魔だ……。」


私は勝ってしまったみたいだ……。

アルフレッドが腰を抜かして、泣いているからだ。


どうやら、第3関門までは成功。

けど、最後の印が残っている。

でも私としては、絶対に受けて欲しくなかった。

こんなのが、私の召喚獣って絶対に嫌だ!


「なんや、その印って!?

なんぼ、お前らの娘でも俺が忠誠を誓うんは『猫神一家の代紋』だけやど!」


そうそれでいい!と思ったらパパとママが余計な事を言った。


「勝男さん、これ見て下さい! 『猫神一家の代紋』です!」


私の背中を捲り上げて痣を勝男に見せた、恥ずかしい。


「おお『猫神一家の代紋』やないか!」


こうして、あっさりと勝男は私の召喚獣になってしまった……。

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