私が呼び出した召喚獣は『ヤクザ』でした。異世界でも『極道』をやっていくらしいです。

伊津吼鵣

第1話 最強の召喚獣

奇抜な服装と髪型からヤバイ人種だとわかる100人以上が、物々しい警戒態勢を取るビルがあった。

流れ出る汗と緊張した表情から、すぐそこに最悪が待ったなしだと物語っている。

『ヤクザ』という、特殊な職種の事情から起こった『抗争』の真っ最中だった。


すでに、この6時間前には関係した事務所が襲われ、皆殺しにされている。

もう1000人以上が、一ヶ月前から殺されていた。

よりにもよって、たった1人によってである。

彼らは、その1人を恐れていたのだ。


そして今、息を潜めてジッと陰から見つめる2人の男がいた。

1人は、20歳前半くらいの黒皮のライダーズ上下を着たリーゼント頭の男。

もう1人は、白いダブルのスーツに派手な赤いシャツ、年齢は30代くらいの肩幅が大きく背は高く、見るからにヤバそうな男。

胸元から、ちょいちょい覗いた刺青が印象を残す。


その彼が言った。

自らの命を捨てる覚悟を持ってである。


「正二……、もう十分だ。

ここで帰れ。

そんで、堅気になって美津子と腹の子を大事に生きていけや。」


「何言ってんだよ!

俺も、勝男さんと一緒に『おとこ』になるんだ!」


「馬鹿野郎!

お前が死んじまったら、誰が美津子と腹のガキを守るんだ⁉︎

だいたい、怪我人なんか連れていけるか!

俺の恥になっちまうだろうが!」


「俺が怪我人すっか!?

なら、勝男さんは腹と背中を6回以上は斬られて、おまけに肩と足と胸に弾5発も喰らってるじゃないっすか!?

俺なんて隠れて見てた時に、ちょっとガラスで指切っただけっすよ!」


「じゃあ、やっぱり正二の方が重傷じゃねえか!?

その‥‥、あれだ……。

プラモデルが、一生作れなくなっちまうんだぞ!

悲惨じゃねーか!」


「いやいや俺に、そんな趣味ないし、作ったこともないっすよ。」


「あああああああ、面倒クセーな。

お前みたいなのは、足手まといなんだよ!

早く消えやがれ!

だけどな、弱っちいい正二でも自分のスケ(女)とガキくらいは守れるだろうが!」


「‥‥か、勝男さん。」


「親分や若頭も殺られちまったんだ。

もう他の奴らも殺られちまった。

猫神一家には、俺達2人しか残っちゃあいねぇんだ。

だから頼む、頼むから生き残ってくれや。

せめて、お前だけでもガキに恥じない真っ当な人生送ってくれや。

じゃあな、元気でな。」


「勝男さーーーーーーん!」


こうして勝男さんは、ビルに向かって盗んだダンプで単身1人突っ込んでいった。


1981年7月5日付、翌日の各大手新聞には広域暴力団龍道会会長、副会長、相談役、他20人の幹部の死亡、そして重軽傷者179人と掲載され、2週間後には龍道会の解散が発表される。


猫神一家100人VS龍道会5000人、この『猫龍抗争』と呼ばれる戦いは終止符を打ち、極道社会では猫神一家の勝利だと認められた。

また多数の刺傷・裂傷・銃創を受け絶命していた猫神一家の幹部:杉森勝男33歳は、後に『伝説の阿修羅極道』と語り草となっていく。

勝男の背中には、阿修羅の刺青があったからだ。





我が家の朝食時での、いつもの出来事。

魔法学校への登校前に質問したことが、大失敗だった。


また、まるで自分自身を盛り上げるみたいに、熱っぽい目と口調で話しが始まった。

でも、こんなのを聞いていても面白くもなんともない。

ただ、ダルくなっていくだけ。


こんな私を無視して、それでも話は続いていく。

完全にトランス状態っていうのに、入っているからだ。


「一番強いっていうのはな、やっぱり勝男さんだ!」


この台詞からだ。

よほど思い入れのある人なのか、必ず名前を強調して自慢が始まる。


「喧嘩と殺しをするために生まれてきた鉄みたいな身体で、怒らせると鬼よりも怖いんだ。

けどな、男の中の男っていうのは、ああいう人を言うんだよ!」


こうなってしまうと、もう止まらなくなる。

しかも、よけいに長くなるから鬱陶しいだけだ。


「敵になった奴らには、情け容赦なんて文字は無い。

どんなに汚い手段でも、平気で使う人だったよ。

けど、仲間想いの人なんだ。

散々殴られたけど、困った時なんかにはさ、さり気なく助けてくれるんだよ。

だいたい、男っていうのは強いだけじゃあダメだ。

そんなのは、底の浅い能無しってことだ。

隠れた優しさと温もりがなけりゃあ、絶対に駄目だ。

それが、『漢』ってもんだからだ。

だから俺は生き残れて、またママにも会えたんだ。

ぜんぶ……、勝男さんの……、おかげなんだよ。」


拳を握り泣き喚き、みっともない状態で、私のパパであるトーマスの話しが終わった。


けど、まだ終わらない。

同じように、泣きながら補足してくる人が現れるからだ。

それは、残念だけどママであるナタリアだ。


「そうね……、あの時パパが帰って来なかったら、きっと私も死んでいたと思うわ……。」


こうなると、必ずといって良いのか、夫婦仲が良いというのか、必ず2人揃っての言葉がある。


「だからね、勝男さんのおかげでアユミは生まれてこれたんだよ!」


なにか切っ掛けでもあれば、こんな話しをするパパとママ。

もう暗唱が出来るくらいには、聴かされていた。


その勝男とかいう奇妙な名前の人は、2人にとって大切な人みたい。

でも、こんな馬鹿みたいな話を毎度聴かされる私にとっては迷惑な人だ。


そして、こんな言葉が必ず締めくくりになる。


「アユミって名前は勝男さんが付けてくれたんだぞ。」


嬉しそうに話しているけど、私は『アユミ』って名前が嫌いだ。

ジュリエッタやナリス、そしてライザとか可愛らしい普通の名前が良かった。

『アユミ』なんていう名前は、私以外には聞いた事もない。

おかげで、よく馬鹿にされて虐められた。


だいたい今日は、とても大事な日だから何気なく質問したのが間違いだった。


『この世で一番強いものって、なんだろう?』


こう聞けば、2人が必ず『勝男』という名前を出すのは予想できたのに……。

今日が『召喚の儀式の日』ということが、判断を鈍らせてしまった。


魔法には、土・火・水・風の四系統魔法と治癒魔法がある。

けど、生まれ持った適性があるから1人につき一系統が普通だった。

だから魔法学校では、各々自分に合った属性を選択して勉強した。


でも例外がある。

それが、召喚魔法だ。

素質もあるから全員がって訳じゃないけど、成功すればプラスして修得できた。


但し、良い面ばかりじゃない。

呼び出された召喚獣に、自分が持つ魔法容量の1/4を分け与える事になる。

例えば自分の魔法容量が1000だとすると、750になってしまう。


だから希望しない人もいるけど、私は希望した。

何故なら、私の魔法容量は同級生たちの軽く5倍以上を越えていたからだ。

通常ではありえないと、学校の先生は不思議な顔をするけど、私にも分らない。

ただ、もしかしたらパパとママの話しが関係しているのかもと思っている。

それは、あの話のその後の話し。


2人は、偶に変なことを話した。

自分達は、この世界の人間ではないとか、気でも狂ったのかと思うようなことを言う。

あの勝男っていう人が死んだ後、正二と美津子が生まれ故郷に帰ってからの話しだった。

夫婦になって、約一年後に『歩美』という娘が生まれて、幸せに暮らしていた時に起こる悲劇の話。


3人で電車とかいう入れ物に乗っている時に、事故にあって死んでしまったそうだ。

でも、気がつくと御伽話のような違う世界で生まれたばかりの子供に生まれ変わっていたらしい。

もちろん最初は途方に暮れたけど、直観的に近所同士というのが分って再び結婚、そしてまた娘が生まれた。


それがパパのトーマスでありママのナタリア、そして娘の私アユミだと話した。

じゃあ、その『歩美』と私アユミは別人じゃないのって思うけど、2人は間違いないと言う。

理由は、私の背中にある猫の顔のような痣。

『歩美』という子も、同じ痣が同じ位置にあったらしい。


父トーマス曰く『猫神一家の代紋』だと言うけど‥‥その『代紋』って何だろう?


魔法学校に入るまでは、そんな話は作り話しって思っていた。

だけど、もしかしたらって思っている私もいる。

けど、信じろって話が無理なので質問をした。


「じゃあ、その電車ってどうやって動いてたの?どんな魔法を原動力にしていたの?」


「電気だ、発電所って所から電気が送られて動くんだ。」


自慢気な顔で答えてはくれたけど、要領を得なかった。

発電所って何? そんな魔法があるのかな!?

もっと、具体的に聞いてみよう。


「その『発電所』っていうのは土系魔法使いの大魔法なの? それとも魔法陣なの? 」


「いや発電所は発電所だ、前の世界には魔法使いなんていないよ。

科学の力だよ、科学!」


「科学って何? 

どんな魔法なの? もしかして等価交換の法則とかあるの?」


「いやその……、パパ馬鹿だったから上手く説明出来ないよ……。

ほら、ママに聞いてごらんよ。」


「こっちに振らないでよ。

難しい説明なんて出来る訳ないでしょ。」


わかったことはパパもママも、その前の世界とやらでは勉強が苦手だったみたいだ。

この他にも『自動車』とか『オートバイ』『電話』とか使い方は説明してきたけど、どういう原理や構造なのかを聞いても、まったく説明出来なかった。

結局、その理論を理解していなかったみたいだ。

どうやら、その夢物語みたいな世界とやらでは、理解なんて不必要で曖昧な社会だったとはわかった。

この話は家族だけの話にしてるから、どうでも良いんだけど。


こんな無駄な時間を過ごしていた時、外から声がした。


「おはようございます。」


「おはようございます。」


同級生のマーレちゃんとベネットちゃんが迎えに来てくれたみたいだ。

もう時間だ、急いで鞄を持った。


「じゃあ、行ってきます。」


「アユミ、今日は召喚の儀式だろ!?

パパもママも応援に行くから、気軽にやれよ。」


「うん、待ってるからね。」


魔法学校に向かうため、いつもの乗合馬車を待つ。

いつもの通りに遅れてやってきた。

遅刻寸前になるから嫌だけど、運転手のゼペット爺さんはのんびりとした優しい人だから文句も言わず許しちゃう。

その間は、3人の御喋りTIMEスタートだ。

けど、やっぱり話題は『召喚の儀式』になってしまった。


「今日は大丈夫、アユミちゃん。」


マーレちゃんが心配そうに聞いて来たけど、正直に言うと自信が無かった。

一番成績の良い、アルフレッドが参加するからだ。

嫌いな男の子だけど、ライバルになるのは間違いない。

他の2人、リュークとソニアも強敵だった。

ちなみに、私は成績で言えば10番目になる。

上位6人が辞退したから資格が出来ただけ、本当なら参加する事に意義があるって程度だった。


でもベネットちゃんには、私の心配がわかったのか笑顔で励ましてくれた。


「緊張しなくていいよ、だいたい成功する人なんて滅多といないんだから。

気軽にすればいいよ。」


召喚の儀式の儀式には4つの関門がある。

1つは召喚に成功する事。

召喚獣すら呼び出せないかもしれず、成功するとは限らない。

2つ目は召喚獣を操れる事。

操れなければ、すぐに召喚獣は逃げ出してしまう。

3つ目は、成功者が多数の場合、それぞれが呼び出した召喚獣を勝負させて勝ち残る事。

勝ち残った者は召喚士としての『主従の印』が与えられ、負けた者は召喚契約も破棄となり召喚獣も消え去ってしまう。

4つ目は、勝ち残っても油断は出来ない。

主従の印を受け入れるかはわからないから、召喚獣にも権利があるから尚更だった。


だからパパもベネットちゃんも、『気軽に』という言葉を足した。

成功確率が低い儀式なんて、ちょっとした御祭り扱いにしておかないと誰も救われないからだ。


そう考えていると、のんびりした調子で乗合馬車がやって来た。

馬車に乗ってからも、最強の魔獣って何だろう⁉︎ って考えた。


学校に着いて、召喚の儀式を受ける生徒達が校長先生から長い説明を受ける。

最もらしい顔をして説明していた校長先生も、最後は締まらない話をして終わった。


「君達は選ばれし召喚の儀式を受ける者だが、当たればラッキーって感じでやればいいから。」


この魔法学校でも、ここ100年以上は一人も成功していなかった。

だから、緊張感の欠片もない。


「よし時間だ。そろそろ舞台に行こう。」


でも、私を含め4人は緊張状態。

意外にも、アルフレッドが一番の緊張してガタガタ震えた状態だ。


召喚の儀式を受ける舞台は、学校の運動場の中央に設置され形は六角形をした一辺30Mの大きさ。

その角々には蝋燭が設置されて火が既に灯され真ん中に魔法陣がある。

周りには既に多くの観客が来ていてパパやママの姿もあり私を応援している。


「では召喚の儀式を始めます。まずは儀式の参加者を紹介します。

アルフレッド・ジーニアス12歳、リューク・ステイン12歳、ソニア・メレスナー12歳、アユミ・ロードスター12歳、以上です、参加者達に盛大な拍手を。」


盛大の拍手をしてくれるけど、見方を変えれば失敗するところを期待されているって勘ぐってしまう。


まずは成績順、アルフレッドから召喚を開始する。

校長先生から直々に1ヵ月前から教えを受けた詠唱を唱え始めた。


「我命じん、我アルフレッド・ジーニアスの名において生涯を共にし我の友を探さん・・・・・・我ここに命じん、我欲せん・・・・・・・・・」


長い長い詠唱を唱えて漸く、舞台中央に白い霧のようなのが出て来た。

それが舞台全体を覆ったかと思うと、何かが姿を現した。

身長3M位の類人猿と甲虫を足したような大きな魔獣が出てきた!

アルフレッドが、まずは第一関門を成功させた。


「アンバーハルクか!やるではないか!」


アルフレッドは必死にアンバー・ハルクを制御しているのか、顔を歪ませながら舞台から降りて行った。

制御する為の時間が設けられている、だから最初に召喚をする方が有利なのだ。

だから成績順、可能性の高い人が有利になっても仕方がない。


勿論だけど、制御出来なければ逃げてしまう危険もあり、雇われた冒険ギルドに所属する人達も来て、万全の備えをとっている。


それからも儀式は続く。

次のリュークは召喚すら出来ずに終了し、ソニアはスライムの召喚に成功はしたけど逃げ出し狩られて死んでしまった。


2人とも、観客に笑われながら舞台から降りた。


そして私の番が来てしまった、緊張する。


「我命じん、我アユミ・ロードスターの名において生涯を共にし我の友を探さん・・・・・・我ここに命じん、我欲せん・・・・・・・・・」


一生懸命に詠唱するけど、アルフレッドみたいに白い煙なんて出る気配もない。

一生懸命なのに……。


「ダメみたいですね、そろそろ終了しようか。」


校長先生が私に声を掛けた。

最期に頭の中で無駄だったと思いつつ念じた、それはベネットちゃんが教えてくれた言葉だった。


御願い、私の為に『最強の魔獣』出てきて!


突然だった、舞台の中央に白い煙が勢いよく噴き出した。

白い煙が渦を巻いて舞台全体を覆い天にも届きそうな勢いだ!


「誰や……、俺を呼ぶんは……。」


渦の中から声が聞こえてきた、召喚獣のはずなのに人の声が聞こえた。


「これはイカン!

悪魔かも知れんぞ、戦闘態勢をとれ!」


慌てる校長先生が叫び、学校の先生や冒険ギルドの人達が集まって来て大変な事態になってしまった。


「アユミ、逃げろ!」


パパの声が聞こえて私はママに抱きしめられた、私を助けに舞台まで来てくれたみたい。

2人が、私を守る為に覆いかぶさろうとした時、白い渦が突然消えた。

舞台中央には、背中に絵を描いている大男が立っていた。

しかも裸だ!


私はもちろん、学校の人達や観客、冒険ギルドの人達も呆然となる中、大男がきょろきょろと見回した後、広範囲行動制限の魔法でも含んだみたい大声で叫び始めた。


「ここは、どこじゃああああああ!?

お前ら誰じゃああああああ!?」


皆が、ビクッとなって恐れて身構えたまま動けなくなった。

けど、私は不思議にも『ああ、怒ってるよ。』程度にしか思えない。

そして、何故かパパとママが泣いていた。


「か、か、勝男さん⁉︎」


「間違いよね……、パパ。

あの人、勝男さんだよね!」


勝男って、あの夢物語の話の人⁉︎


2人が興奮して、私が止めるのを振り払って嬉しそうに近づいた。


「勝男さーーーん!」


けど、勝男とかいう人が叫んだ。


「誰やねん外人、お前らなんて知らんぞ!」


ここで、ようやくパパとママもビクっとなった。

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