8 魔法少女? トリオ、結成です!
「で、わたしにあなたとこいつの魔法少女服を見繕えと」
親友のメグメグこと滝原 メグミちゃんに、私はこんなお願いをしてみました。
なんといっても彼女は手芸部のエースであり、実家も服屋さん。
自身も巷ではちょっぴり名の知られたコスプレイヤーという、サラブレッド中のサラブレッドなのですから!
すごいんです。可愛い服なんかはお手の物なのです。
相談を受けたメグメグは、興味と疑念が入り混じったような、微妙な顔をしています。
「アッキーたっての頼みだから、無下には断らないけどさ。いったい全体どういう話の流れでこうなったわけなの?」
「あの、アキハさん? そもそも俺が魔法少女の格好する必要とか、ないと思うんだけど……」
「ダメです。せっかくの魔法少女イベントなんですから、ユウ君だって正装でびしっと決めないとダメですよ」
「そういうものかなあ」
「そういうものなの!」
私、力説します。
ここだけは譲れません。一人だけ無粋な服装で、少年少女の夢を壊してはいけませんっ。
ちなみにユウ君は色々できるくせに、魔法だけは使えないんだとか。
まーそこは、物理系魔法少女ってことで勘弁してあげましょう。できないことを強要するほど、アキハ先生は鬼じゃありませんからね。えへへ。
「へえ。ユウ君、ねえ」
ついいつものようにユウ君と呼んでしまったところを捉えて、メグメグはにやにやしています。
「わ、あのねこれはねっ!」
「いいじゃないの。別にからかったりしないよ」
満足気な表情を浮かべてから、ユウ君に向き直って釘を刺します。
「で、ユウ君。うちのアッキーを泣かすようなことがあったら、承知しないからね。肝に銘じておくように」
「そうだね。アキハさんを本当に泣かせるようなことはしない。約束するよ」
やけに堂々と答えるものですから、普段のユウ君を知っているアッキーは、やや面食らったみたいでした。
「あんたって思ったより……まあいいわ」
「ね、ね。思ったよりしっかり君でしょ?」
「そうね」
ちょっぴりユウ君自慢もできて、いい感じの流れになっていたのですが。
そこで彼が困ったように笑って一言。
「ちょっとしたことですぐ泣いちゃうから。絶対に泣かせないって保証は、できないんだけどね」
「うるさいなあ。私はどうせ泣き虫ですよ。わかってますよーだ」
「そこは男らしく『絶対泣かせない』って言うところでしょ。まったく」
何だかしまるようでしまらないユウ君でした。正直過ぎるところがあるんですよね。この子。
***
さて、魔法少女先輩のエリカさんも引っ張ってきまして。あえて変身もして頂きまして。
やって来ましたメグメグのご実家、『洋服店たきはら』ですっ!
とりあえず四人で、お店の裏の方にいます。
魔法少女イベント向けのコスプレってことで、メグメグにはどうにか納得してもらえました。
「あなたたちまで同じような格好する必要はないと思うのだけど」
もう。エリカさんまで。どこぞのユウ君と同じようなことを言ってます。
「いいからいいから。楽しいでしょ」
「ま、それは否定しないわ。どうしてもって言うなら、いいけどさ」
とか言いつつこの方は、内心はむしろ賛成寄りな雰囲気を感じますよ?
さすが現役。きっとお約束をわかっているんですね! 素晴らしい。
一方、メグメグは既にお仕事真剣モードのようでした。ショートヘアにキリッとした顔がかっこいいです。
「この人との色のバランスで考えると……アッキーは黄色、星海君は青色ってとこかしらね」
いいですね! ユウ君は青色系の技を使うことが多いですから、イメージにもぴったりです!
私も黄色は大好きですからね。えへへ。
魔法少女姿になった自分を想像してにこにこしていると、メグメグはユウ君の身体を確かめていきます。
あちこちを食い入るように見つめて、少し触ったりもしてから、納得したように頷きます。
「素材は悪くない、というかすごいね。女装をするために生まれて来たようなものだね」
「そうかな」
ユウ君、何だか思うところがあるのか、また若干遠い目をしています。
それに、あれれ? 思ったよりもまんざらじゃなさそうですけど?
もしや――。
ここで私、会心の推察を捻り出します。
過去にご経験がおありですか!?
そうかも。これだけ可愛い見た目なんですから、ないとは言えないですよね。ふむふむ。
もしかして名探偵はユウ君でなくて、私の方だったんですかね? 衝撃の展開。
いいぞぉ。きっと可愛いぞー。いっぱい愛でちゃうぞー。
「とりあえずその辺のそれっぽい服適当に着せて、イメージを――」
メグメグはぶつぶつ言いながら、近場から青色系の夏服を取り出してきます。
とっくに覚悟を決めていたのでしょうか。意外にも協力的なユウ君に、すっぽり着せてみますと――。
「「あははははははは!」」
「な、なんだよ」
私もメグメグもエリカさんも、腹を抱えて大爆笑してしまいました。
だ、だって!
顔は完璧、着こなしも完璧なのにっ! めっちゃくちゃ似合ってるのに!
あはは! 露出が!
剥き出しの腕と、腹筋だけが! 違和感バリバリ、見事にバッキバキなんですもんっ!
「強烈過ぎるよ~! ユウ君!」
「見事な筋肉だわ、あんた! 実は相当鍛えてるでしょ、くくっ」
「ギャップが! ギャップがぁ!」
よほどツボに入ったのか、エリカさんなんて「キャー」って悲鳴みたいな笑い声上げながら、ほとんど転げ回っているようでした。
「……俺、帰ってもいいですか」
「だーめ」
「ぶふっ、そうさ。見立て通りの逸材よ、あんた。肌の出ない服にすればいいんだ。そうすれば、完璧な女装になるから! 太鼓判押すよ!」
辛うじて再度の爆笑を堪えながら、メグメグはユウ君の肩をバンバンと叩きました。
「完璧、完璧。でも中身が……きゃああああああ!」
エリカさん、永遠にツボりにいってますね。リフレインしてます。
***
こうして、親愛なるメグメグの多大な協力も得まして。
ついに夢が叶う日が来ました! 私が憧れの魔法少女になる日が!
しかもしかも! それだけじゃないですよ? 魔法少女トリオの結成ですっ!
まずは中央。跳ねる片足、弾けるピースサイン!
華麗な変身フィニッシュを決めるは我らが主人公、エリカさん!
「エリカピンク!」
その右隣にて、元気いっぱい拳を突き上げ、ぱっちりウインクを決めるのは私!
「アキハイエロー!」
最後に反対側。両腕をクロスで構え、クールに愛と真心を届ける感じで!
「ユウブルー!」
「「いぇーい!」」
三人でハイタッチをかわします。うんうん。とってもいい出来です!
何度も練習した甲斐がありましたね。せっかくだから後で動画に残しましょうねー。えへへ。
私とエリカさんが特にノリノリで。ユウ君なんか半ばやけくそみたいになってますけど。でも下手したら一番似合ってますよ?
「いやーほんとすごいわ。こうしてみると女の子にしか見えないもの」
「ほんとですね」
「まあ、そういう時期もあったからね」
何ですか? そういう時期って。
やっぱり昔はよく女装してたか、させられてたんですかね?
名探偵センサー的に気になるところではありますが、エリカさんが私に尋ねてきました。
「ところでアキハちゃん。あなた戦えないんでしょ? 付いてきちゃってよかったの? 危ないんじゃないの?」
「そこはまあ、ノリで」
アキハは添えるだけ。メイン火力はもちろん、ユウ君とエリカさんにやってもらいますよ!
「俺がしっかり守るから大丈夫。あとせっかくだから、思うままに空飛べるくらいはしてあげるよ。一緒に並びたいんだよね」
「さすがユウ君。わかってるぅ!」
「あなた、よっぽど大切にされてるわねえ」
そうですね。ほんとにそう思います。
ユウ君は、エリカさんにも微笑みかけます。
「エリカさんもね。耐久力も上がるし、デッキブラシなんか要らなくなるから」
「……あんなの見られたなんて、人生の汚点よ」
***
それから十日ほどというもの、私たちはですねっ。それはもうものすごい活躍っぷりでした!
クソ猫の当てつけか、やたら数も増え質も上がった魔獣どもが相手でしたが。問題になりません。
ユウ君が先陣を切ります。
派手な魔法なんかはありませんが、青い輝きを伴って、魔獣をボコ殴りにしていきます。
千切っては投げ、千切っては投げ。
そこへエリカさんも、遠距離から的確にサポートしていきます。
もしかしたらユウ君も、彼女がしっかり活躍できるようにと上手く加減しているような気がしました。
彼の討ち漏らしに対して、的確に魔弾をぶつけていきます。その鮮やかな手際に惚れ惚れします。
特に必殺のマジカルビームを撃ったときなんて、もうやばかったです。ハートがぶわあああって、魔獣がドッパーンって!
とにかくカッコよくて、可愛いことと言ったら!
私は側で見ているだけでしたが、危ないことになんて一度もならなくて。いやーほんとアニメ観てるみたいで、もう大興奮でしたねっ!
***
そして、十一日目。どうやらラスボスさんがお出ましのようでした。
海の向こうから、これまでとは比にならないほど強そうな魔獣が襲来してきますっ!
地平線の奥からぬらりと。まるで暗黒巨神。超巨大台風のようです。
空は昏く、猛風が荒れ狂っています。放っておくと人がたくさん死にそうです。やばいです。
どこかのアニメでこんなの、見たような気がしましたけど!
「エリカさん、ユウ君! 頑張ってやっつけようね!」
「ええ。今こそ、愛と友情の絆を見せるときよ!」
「「おー!」」
エリカさん、すっかりその気になっちゃって。根っからの主人公タイプですね。
でも出会ったときの死んだような目に比べたら、今の方がずっと素敵ですよ。うん。
最終回仕様のいい感じにシリアスな顔をしながら、ユウ君は言いました。
「……たぶん、これで最後だ。アキハさんも一度だけ、一緒に撃ってみるかい。必殺技」
「え、できるの!?」
もちろん、できるならやってみたいですけど。きみって魔法、使えないんじゃ。
そこはちゃんと上手くやるから。
ユウ君はまた困ったように、仕方ないなって苦笑いして。ウインクしてくれました。
エリカさんも察します。彼女も段々理解してきたのでしょう。
ユウ君ができるって言ったら、できるんです。
「フォーメーション!」
エリカさんの叫びに合わせ、みんなで空へ飛び上がります。トライアングルフォーメーションを組みました。
恥じらっている場合なんかじゃありません。
このときばかりは男子女子の垣根を越えて、肌と肌が触れるほど身を寄せ合い、三人の腕を前に重ねて揃えます。
そのとき、気のせいでしょうか。
私の頬をくすぐるように、何かがかかります。
髪の毛……?
同時に、私を支える肌の感触に、確かな――柔らかなものを覚えて。
胸……?
不思議に思い、ユウ君の方をちらと見上げます。
心なしか、髪がふわりと伸びて。普段より可愛く見えて。
それは本当に、いつものユウ君だったのでしょうか。
はじめましてとでも言いたげに、穏やかな微笑みを向ける瞳。見守るように優しい瞳。
まるで。まるで、本物の女の子みたいな――。
「前を向いて。しっかり敵を見て」
「う、うん」
そして、いつもより少し高い気がする声で。
心の声で。
撃つべきその魔法の名を、私たちに伝えてきます。
ただ強く念じるだけでいい。しかと胸に留めました。
よし。いっけー!
みんなで。せーので、放ちます。
「「《セインブラスター》!」」
ピンク、イエロー、そしてブルーの三重奏が炸裂しました。
それは放射状に広がりながらくるくると回転し、互いに交わりつつ、一点に向かって伸びていきます。
悪いラスボス魔獣へと。
三色の光と闇がぶつかったとき、炸裂音とともに、空をも眩む閃光が弾けました。
とても目なんて開けていられません。これ、本当に私たちにしか見えてないんですか!?
そして、長い長い悲鳴のような唸り声を残して。やがて静寂が戻りました。
探り探り目を開けてみます。
空が綺麗でした。
あれほど昏く荒れていた空は、嘘のように真っ青に晴れ渡っていたのです。
やった。やったんだ。わたしたち! やったーーー!
最後の最後で、ようやく私も力になることができました。とても良い思い出になりましたっ!
この喜びを分かち合うため、二人に振り返って幸せ笑顔を振りまきます。
微笑みを返す彼は――あれはやっぱり、気のせいだったのでしょうか――まったくいつもと変わらないユウ君でした。
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