2 転生トラックが多過ぎるんですけどっ!
結局その日は星海君にお家まで送ってもらいました。成り行きですけど、初めて一緒に帰ることになっちゃいましたね。
しかも、ぼっち下校の星海君にとっては、私が初めての相手なんじゃないですか? えへへ。
異世界召喚されたなんて言えませんので、遠くへお出かけしていたら迷子になったのを星海君に見つけてもらったという筋書きになりました。
お母さんにはこっぴどく叱られてしまいました。でもそれだけで済んでよかったです。
で、星海君はお母さんに「この子昔っからドジでね~。うちのアキハをよろしくね」なんて言われてたんですけど……。
なにちゃっかり気に入られちゃってるんですかっ。親公認みたいな空気出さないで下さいっ! ふんっ。
まあ……ありがとうは、ありがとうですけど。
***
さて、翌日のことです。
「ふんふ~ん♪」
今日は快晴です。初夏のそよ風が心地よく、登校する足取りもつい軽くなるというものです。
昨日あんなことがあったのに、もうのほほんとしています。
私って単純なんでしょうか。でもいいですよね。くよくよする性格なんて人生損するだけですし。
なんだか今日はいいことありそう――って。
「うえええええぇぇぇぇーーーーーっ!?」
いきなりなんてこと起こってくれとんじゃあーーーーーっ!
狭い通学路いっぱいを占拠して、大きなトラックが突っ込んできますっ!
猛スピードです。ものっすごい速さです。
あの、私いるんですけどっ! 普通にいるんですけど!
あわわわ。
唐突の激やば展開、多くないですかっ!?
「わああああああぁぁぁーーーーーーっ!」
とても避ける余裕なんてありません。
せっかく昨日のピンチを乗り越えたのに。せっかく助けてもらったのに。
すぐにこんなことになっちゃうなんて。
ま、まさか。
私の妄想フル頭は、死の刹那に真実を理解しました。
異世界転移の次は、異世界転生なんですか!? お約束の第二弾、もう始まっちゃうんですか!?
い、いやですっ! 私はまだ女子高生してたいんです~! 赤ちゃんなってから星海君に助けてもらっても遅いじゃないですかぁ!
いや、ステイ。待ちなさい私よ。流れ的に転生って思っちゃいましたけど。
ほんとに転生なんてできるんでしょうか。これが何の変哲もない事故で、死んだらそれっきりだったりしませんか?
……それはもっといやああ~~っ!
――あ。ダメ、ぶつかる。
どうやっても助かりません。できることと言ったら、頭を押さえて、観念して目を瞑ることくらいでした。
ドンッ!
…………?
大きな音はしましたが、来るはずの衝撃がありません。
恐る恐る目を開けてみると、そこには――。
「おはよう。新藤さん」
「星海君!?」
いつも教室でするかのように呑気な調子で挨拶を投げかける、隣のクラスメイトくんが立っていました。
後ろ手に、トラックをぴたりと止めたまま。アスファルトに足、ちょっとめり込んじゃってます。
てか、やば。この人、片手だけで余裕で受け止めてるんですけど……!
でたらめです。運転手のお兄ちゃん、別の意味で青ざめちゃってるじゃないですか。
「相変わらず良い叫びっぷりだね」
「もう。からかわないのっ!」
なんですかもう。いつもからかっているからってお返しですかっ。
楽しそうな顔しちゃって。いたずらっ子全開ですか。ばか。
そんな私の反応をひとしきり楽しんでから、星海君はトラックの窓際へ回り、放心したまま固まっている運転手さんに声をかけました。
「もう少しで轢いてしまうところでしたね。道、狭いんですから。気を付けて下さいよ?」
「あ……ああ、あ……! すまん。本当にすまない!」
これ以上触れない方が良いと判断したのでしょう。震える手でハンドルを握り締め、彼は慌てて去っていってしまいました。
あら? 本当は事故したらすぐ警察呼ばないといけないんじゃないでしたっけ?
「行かせてよかったの?」
「面倒事は避けたいからね。遅刻も確定してしまうし」
なるほど。ついでに言えば、素手でトラック止めましたなんて、説明しようがないですもんね。
掌をひらひらさせてから、ほうと息を吹きかけて労わる姿は、もういつもの星海君そのものです。
ついさっきスーパーマンをやってくれたようにはとても見えません。
だから、なのかもですね。私も、きみの力の凄まじさを知ってしまっても、ちっとも怖いと感じないのは。
弱そうオーラと女顔がこんなところで役に立つとは。ある種、すごい才能を持ってるんだね。きみって。
「おはよう。また助けられちゃったね。ありがと」
「どういたしまして」
「ねえねえ。今度はどんな魔法を使ってくれたの?」
「ううん。何も。昨日の今日だからね。こんなこともあろうかと、一応後ろから見張ってたんだ」
「へえ。後ろから、って」
はっ!? まてまてまて。まさかのストーカー宣言ですか!?
前言撤回。怖いのはダメです。いや、星海君だからやっぱり怖くはないけど。
でもいけませんよ。いくら友達だからってそれはいけません。
アキハ先生、狼藉は許しませんよ? この子に正しい道を示さなくては。
「結果的に助かったけど。それっていわゆるストーカーじゃないですか?」
「あ」
露骨に凹み出す星海君。がっくり項垂れて、側の電柱に頭ぶつかっちゃってます。
「ごめんね……。君を助けてあげなくちゃって、頭がいっぱいで……」
あー。これは、何にもわかってなかったって顔ですね。
しょうがない。悪気はなかったみたいですし。
「わかった。許してあげる。でも、今度からこっそり後をつけるのはやめてね」
「うん……。だけど、どうしたらいいかな。またさっきみたいなことがあったら」
「だったら、一緒に登下校すればいいじゃないですか。友達なんだから」
「え、いいの?」
意外な顔をする星海君。まるでママに許しを請う子供みたいだよ。可笑しい。
「いいよ。私も不安になってきたし。きみのこと、別に嫌いじゃないし」
笑って手を差し出す。
「改めてよろしくね。星海君」
「うん。よろしく。新藤さん」
***
こうして、ただの隣のクラスメイトから、登下校友達にランクアップした私たちですが。
あの。なんか……流れでずっと手繋いじゃってますけど。いいのかな。
「「…………」」
ねえ。なんか喋ろうよ。
ねえ、星海君! ねえ、わたし!
でも喋ってしまった瞬間、手を離す流れになっちゃう気がして。それはちょっともったいなくて。
結局私からは言い出せず、星海君も情けなくそわそわするばかりで。
というか、星海君? きみ、顔赤くなってるよね? 手汗がこっちにまで伝わってくるんですけど。
って、私も似たようなものかもしれないですけど……。うう……頬が熱いよぉ。
――だけどまあ。こういうのも悪くないかも、ですね。えへへ。
青春してます。手、あったかいです。いつもより何だか歩道がキラキラして見えます。
でも、とりあえず今日だけですからね。あと学校近付いたらさすがに離しますよ? 誰かに見られたら恥ずかしいもん。
なんて、いかにも純情な星海君に対して、1ミリだけお姉さんの余裕を演じていた私ですが。
そんな余裕は、ものの一瞬で吹っ飛んでしまいました。
ふわり、と身体が浮いたと思うと、星海君の顔がすぐそこにありました。
「だ、だ、だ……!?」
抱っこされてるぅ!?
待って。ねえ。手はまだとして、さすがに抱っこしていいなんて言ってないよっ!
しかもこれ、お姫様抱っこじゃないですか!? ちょっと星海君、さすがに大胆が過ぎますよ!? 先生、怒りますよ!?
文句言ってやろうと見上げると――目がマジでした。
「悪い。怒るなら後でいくらでも怒られるから。今は危ないんだ。しっかり掴まってて!」
「は、はいっ!」
有無を言わせぬ迫力で、つい素直に返事をしてしまいました。
ドキッとしちゃった。
急にシリアスモードになるのやめてくれませんか。ギャップがすごいんですってば。もう。
視界がめまぐるしく変わります。星海君酔いしないかとても心配です。
ほんのひとっ飛びで、屋根の上に着地したようでした。カラフルな屋根がたくさん見えますので。
星海君の見下ろす視線に従って、私も顔を下に向けてみました。
「は!?」
またトラック!?
しかも、同じ大型がさ、三台も!?
白い三連星が猛スピードで道を蹂躙し、あっという間に通り過ぎていきます。
うわぁ。私、ドン引きです。また轢かれるところだったんですね。
「ひえぇ……」
「あれは避けないと玉突き事故になるからね」
「また助けられた、ってことだよね」
「残念だけど、これで終わりじゃない。まだまだ来るぞ!」
星海君は、今度は空を睨み上げました。
と、何やら影がたくさん――。
「ほげぇぇ!? どうして空からトラックがあああぁぁぁぁあっ!?」
親方ぁーーーー! 空から! いっぱい! 親方ぁーーーーー!
パニクって変な言葉が暴走しているうちに、星海君は目を見開いてギン、ってしました。
ギン、ってしました。
するとなんということでしょう。私たち目掛けて飛んできたたくさんのトラックが、いっぺんに反対方向へ弾かれてしまったのです!
「今度はなにしたの!?」
「気合いだ」
気合い。すごい! どんどん漫画みたいなことしますねきみ。輝いてる!
「だけどこのままだと地面へ落ちるな。誰かを怪我させてしまうかも」
そ、それはいけませんっ! 何とかしましょう!
星海君は私の意を汲むように頷きました。
片腕だけで私を脇へ抱え直すと、余った方の手の人差し指と中指だけをピンと伸ばして突き立てます。
それをナイフのように見立て――。
ズババババババババッ!
トラックを滅多切りしている、ようです?
もう速過ぎて、何がどうなっているのやら、さっぱりわかりません。
猛風の余波が、私の黒髪を巻き上げていくのをただ感じるばかりです。
気が付けば、結果だけが残っていました。大量のトラックは影も形もなくなってしまいました。
「ふう。何とか片付いたな。人が乗ってなくてよかったよ」
「どんな運転だ~、ってなりますもんね」
いや、空から降って来てる時点で色々おかしいんですけど。
「ちっ。しつこいな」
今度もいち早く気付いたのは星海君でした。舌打ちするきみなんて、初めて見たかも。
振り返れば――。
「あーーーーーっ!?」
もうびっくりし過ぎて息がもちません。
ト、トラックが!? 6発!?
ライフル弾のように錐もみ高速回転しながら飛んできますっ!
どこのわくわく不思議ショーですか! どれだけ私をトラックで殺したいんですかっ!?
なんてことを考えていると、奇妙な浮遊感が全身を包み、私たちは一瞬で道路に戻ってきていました。
「ありゃ?」
「瞬間移動を使った」
「ナンデモアリナンダネ、きみって」
私のわざとらしい片言に反応する間もなく、星海君は苦渋の表情でした。
「このままじゃキリがない。なるべく手荒な真似はしたくなかったが――やるしかないか」
彼は左手に力を込め、海色に光り輝く青い剣を創り出しました。
これなら私にもわかります。二回も見たことがありますから。
「そ、それは! 世界を斬る剣!」
無駄に解説役みたいなテンションになった私に対して、星海君はいつになく真剣でした。
細腕にメキメキと力を込め――うおお、血管が浮き上がるほどですっ! 私って意外と筋肉フェチだったのかもしれません。わくわくします。
「はああっ!」
掛け声一閃。
一見、何もない虚空に向かって、彼は思い切り剣を振り下ろしました。
「わっ!」
眩しくて目を閉じたくなるほどでした。激しい電流がスパークするようなエフェクトと、大きな地鳴りのような音が続いて。
やがて静寂が戻ったとき、星海君はふうと一息胸を撫で下ろしたのでした。
それから、二分、三分、五分と待って。もう追加のトラックはやってきませんました。
よくわかってませんけど、どうやら私たちの勝利みたいですっ!
落ち着いたところで、星海君が説明してくれます。
「妄想逞しい君なら、もう想像付いてるかもしれないけど。あれは転生トラックだ。君の魂を呼び寄せようとしている異世界があったようだね」
「やっぱりですか。って、妄想逞しいってどういうこと!?」
もしかして、私の趣味とっくにバレちゃってますか!?
困ったときの誤魔化し苦笑いをしながら、星海君は続けます。
「一連の現象を止めるには、大元を断つしかない。だから、干渉力の根源を斬ったんだ」
んん? なんかきみ、聞き捨てならないことを言ったような。
「あ、あの~。異世界転生の大元って、もしかして、神様的なアレだったり……?」
星海君は、当たり前のように頷いてくれやがりました。
「そうだね。高位の存在だから、中々歯応えがあったな」
「うわぁい!」
こ、こいつ……! やってくれました。私一人だけのために、気合一発で神様まで斬りやがりました!
いや、嬉しいけど! 助かったけどっ!
「大丈夫。力の大半を斬っただけで、一応殺してはいないから」
「そういう問題かなぁ~!?」
隣のクラスメイトくんは、とことん常識外れの存在みたいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます