第4話 あの日へ

目が覚めると私の目の前には黒い服を着た人が数人、椅子に座っていた。目の前には私の写真が飾ってあった。これは何なの?何をしてるの?

お母さんもお父さんも泣きながらその写真を見ていた。


「あともう少し生きてほしかった……」


え……私は死んだの?

そういえば美香は?和樹は?辺りを見渡しても見つからない。そもそも今日は何日なんだろう?近くにあった日めくりカレンダーには8日と書かれていた。

今日は7月8日か……。昨日が七夕祭りだったのかな

。星と花が降る夜を見てみたかったなあ。

その瞬間、一気に光が辺りを包み込んだ。





目が覚めると私は自分の家にいた。

さっきの光は何だったんだろう?


「宙、早く降りてきなさい。今日は七夕祭りでしょ」


お母さんの声が2階に届いた。七夕祭り?

近くにあった鏡で私の顔を見るとその姿は全くの別人だった。体が小さい。顔も小さい。

急いでカレンダーを確認しに行った。

今日は……。カレンダーを見た瞬間、全てが分かった。今日は10年前の七夕祭りだ。

私と美香と和樹が出会った日。


「はーい」


明るく小学生に戻ったように声を出して、下に降りた。リビングでは朝ごはんが準備されていた。


「今日の天気予報です。今日は晴れ。降水確率は0%です。最高の七夕祭りになるでしょう」


テレビからアナウンサーの声が聞こえてきた。


「今日は良い天気になりそうね」


お母さんが反対側の席でパンを食べながら私に話しかけてきた。


「うん」


「今日は10年に1度訪れる星と花が降る夜です。

この日は死んだ人が生き返った話もある事から願いが叶いやすいと言われてます」


テレビのアナウンサーが目を輝かせて話していた。

星と花が降る夜か。どんな感じなんだろう。


『星と花が降るって何?』


『流れ星と花火が同時に起こるんだよ』


11年前、お父さんと話した記憶が鮮明に蘇った。


「そういえばお父さんは?」


「お父さんは会場で花火の手伝いをしてるよ」


「私も行きたい!!」


「じゃあ早く着付けをしましょう」


お母さんはタンスの中から着物を持ってきてくれた。

七夕祭りは1年に1回。私が着る機会もそれぐらいしかない。でも、着物を着るとなんだか楽しくなる。

だから私は毎年、着物を着ていた。

高校生になってもずっと着ている思い出の着物だ。

裾はまだ折ってある。懐かしいなあ。

高校生の私は身長が伸びているため、裾は全て伸ばしてギリギリ入るぐらいだ。

お母さんの着付けはいつも上手くて早い。

私も見習おうと思って毎年、手元を見ていたが、高校生になった今でもお母さんの早さには勝てない。


「出来たよ」


その姿を鏡で見てみると、丁寧に着付けがされていた。


「ありがとう」


「私が車で送るよ」


そう言ってお母さんは会場まで車で連れて行ってくれた。本当にありがたい。

空はまだ明るい。七夕祭りの開始時間は19時から。

まだ10時間近くあるけど、私はそんな事は考えていなかった。ただお父さんに会いたい。

私が死んだ事を謝りたい。まだ10年も先の話だけど、私は死ぬのだから、いつ言おうが関係ない。


「着いたよ」


会場は屋台の準備で賑わっていた。

七夕祭りでは色んな屋台がある。

昔からあるスターシューティングゲームやたこ焼き、焼きそば、かき氷、沢山の屋台が出る。

その屋台の先に花火大会の会場があり、そのさらに向こうに花火を打ち上げる場所がある。

お父さんは毎年、花火を上げるところに行って挨拶をしているらしい。私はまだその場所には行ったことが無い。私はお父さんに会うためにその場所へ走って向かった。待っててね。お父さん。


「お父さん、手伝いに来たよ」


花火を打ち上げる場所に着くとお父さんが私に向かって手を振っていた。


「おお、宙。手伝いに来たのか?」


「うん」


お父さんの他に2人、準備を手伝っていた。


「あの2人は誰?」


「ああ。紹介するよ。1人目は占い師の天音。

2人目がラーメン屋の健吾。僕の友達だよ」


占い師……。あの商店街で有名な……。


「昔は天音のおばあちゃんが占い師をやっててそれを受け継いだんだよ。ラーメン屋も全く同じでお父さんを継いだのが健吾なんだ」


「そうなんだ……」


「おい、光輝。何話してるの?早くやるよ」


健吾君が私のお父さんに馴れ馴れしく話している。

それに天音さんも加わって。


「ちなみに健吾と天音は結婚してるんだよ」


お父さんが楽しそうに私に話しかけてきた。


「え……そうなんですか?」


「さあ、早くやるぞ!!」


健吾君が照れながら花火の準備に取り掛かった。


「私は何をすれば良いの?」


「じゃあこのボールみたいなやつを筒の前に置いてくれ」


花火を上げるための丸い物。それを打ち上げる筒に運ぶのが私の仕事だ。意外と重かったが、頑張って運び続けた。お父さんは2人と楽しそうに話しながら、運んでいた。私にもそういう友達がもっと欲しかったなあ。私には和樹と美香しかいない。

2時間、ぶっ通しで運び続けて私は倒れそうだった。


「お疲れ。俺のラーメン屋おいで」


そのあと、健吾君のラーメン屋に天音さんとお父さんと私で一緒に向かった。


「そういえば、光輝の娘さん、誕生日今日だったよな?」


「ああ。七夕だよ」


「それならバースデーラーメンだな」


「またそれかよ」


バースデーラーメン……?何それ?

勝手に注文されて、待っていると、私の目の前に大きな器が登場した。麺は5倍近くあるし、

メンマも5倍あるし、海苔も5倍。

そんなの食べれないよ。

あと、これ何円するんだろう?お父さんに迷惑はかけたく無い。


「これ、何円ですか?」


「無料だよ」


無料!?絶対に赤字になるよ。


「このバースデーラーメン辞めた方が良いですよ」


「いや。お父さんが言ってたんだけど、

バースデーラーメンを作って1人でも喜んでくれる人がいたら、その人のために作り続けろって」


1人でも喜んでくれる人か……。


「それが光輝。お前だよ」


お父さんの目の前にもバースデーラーメンが届いていた。そうか。お父さんも今日が誕生日か。

私の家族って本当にすごいなぁ。

お母さんは7月6日。あと少しで七夕が誕生日の家族が誕生していたのに……。


「健吾のバースデーラーメン美味しいよね。宙も早く食べなよ」


「うん……」


結局、ラーメンは半分近く残ってしまった。そもそもこんな物6歳が食べれるはず無いでしょ。

隣を見るとお父さんは全て食べ切っていた。


「今年も美味しかったわ。ありがとう」


私もお父さんに続けて


「ありがとうございました」


と言って私達は外に出た。

時間はもう15時を過ぎていた。あのラーメンを食べるのに3時間もかかったのか。

もう2度と来たくない。そう思いながら再び会場に戻った。会場は多くの人で賑わっていた。


「例年よりも多いなあ」


健吾がそうつぶやくと


「今年は星と花が降る夜だもんなあ」


お父さんが続けて言った。

10年に1度しか来ないと言われている星と花が降る夜。

この街に住んでいて見ない人なんて1人もいない。


「宙は屋台に行っておいで。僕たちはここにいるから」


「うん」


私はお父さん達と離れて1人で屋台に向かった。

屋台は沢山出ている。何からしようかな。


「よしゃー!!」「惜しい!!」


やっぱりスターシューティングには多くの人で賑わっていた。やっぱり人気だなあ。

確かお父さんと光さんが作ったと言われてる屋台。

赤い星と青い星と黄色の星の3つの的がある。

青い星は1番小さく、ポイントは10点。

黄色の星は普通の大きさでポイントは5点

赤い星は1番大きく、ポイントは2点で、

3回やって7点超えれば賞品をもらえる。

12点いけば豪華賞品。

15点いけば、豪華賞品を2つゲットできる。


「すいません。やります」


私は銃を手に持ち、狙いを定めた。

まず狙うのは……黄色の星だ。


バン


撃った球は綺麗に黄色の星の横を掠めていった。


「あーー惜しいね」


屋台の店主が悔しそうに私に言った。

あと…‥2回しかない。黄色と赤を撃てばまだ大丈夫。

再び黄色の星に狙いを定めた。


バン


力が入り過ぎたのか。撃った球は真上に飛んでいった。


「あーーもっとリラックス。最後だよ」


リラックスしないと……。あと1回しかない。

商品をもらうには小さな青い星を狙うしかない。

落ち着いて……。狙いを定めて……。


バン


撃った球は綺麗に青い星の横を通り、


バタン


何かに当たった音がした。


カランカラン


「お客さん、大当たりだよ」


大当たり?でも青い星は倒れなかったけど……。

目を凝らしてその当たったところを見てみるとそこには小さく隕石と書かれた紙があった。


「隕石?」


「そうだよ。隕石に当たれば100点だよ」


「やったーー!!めっちゃ楽しい」


パチパチパチパチ


周りから拍手が起こった。私は顔を赤くしながら、豪華商品の彦星のキーホルダーと織姫のキーホルダーと七夕のノートをもらった。


「ありがとうございました」


そう言ってスターシューティングを後にした。

彦星のキーホルダーと織姫のキーホルダーか。

誰かにあげたいなあ。あれ?これどこかで見たことがあるような……。


『これは彦星のキーホルダーだよ。誰からもらったかは覚えてないけど……』


私と和樹の最期の会話が蘇ってきた。

これをこの後、和樹に渡したのかな。

じゃあ織姫のキーホルダーは……どこに?

自分の家にあるのかな?

そんな事を考えながら私はかき氷を買って食べ歩いた。いちご味のかき氷。甘くて美味しいなあ。

空はもう暗くなり、時計は19時を指そうとしていた。

いよいよ始まる。


「これから花火を始めます。

カウントダウンをよろしくお願いします」


そのアナウンスと同時にカウントダウンが始まった。


「5.4.3.2.1.0」


1輪の花火が夜空に咲き誇った。

それからどんどん花火が咲き乱れていく。

今頃、お父さん達頑張ってるのかな。


「あ、流れ星だ」


誰かの子供の声で私は真上を見上げた。

花火と流れ星が空に描かれていた。

うわー綺麗だな。

これが私が死ぬ前に見たかった景色。


「宙、ここにいたのか」


お父さんの声が聞こえてきた。


「花火を打ち上げに行ってないの?」


「ここで宙をずっと待ってたんだ。それより短冊に願い事を早く書いておいで。僕は健吾達の元に向かうから」


「うん」


私は短冊を書くところに向かった。

短冊か……。何を書こうか。

私がペンを取って書こうとした瞬間、空が曇り始めた。


「やばい!!雨だ。みんな中に入れ!!」


「え……雨?」


一瞬で星と花が降る夜を終わってしまった。

もっと見たかったよ。何で……。


プルルル プルルル


電話が鳴った。相手はお父さんからだった。


「もしもし、宙。雨は大丈夫か?」


「ううん。大丈夫じゃない。七夕祭りはどうなるの?」


「降水確率0%だったはずなのになあ。もう中止かもな」


「嫌だよ。嫌だ。まだ見たいよ」


「天音、お前の占いで何か見えないか?」


「見えた……。誰かが彦星と出会った時、再び星と花が降る夜になる」


「それって誰のことだよ!!」


「私には子供の様子が見えるよ」


「子供って宙の事か?」


「それは分からない。ただ子供が2人いる」


「どこにいるの?」


「山奥」


私はその会話を聞いて咄嗟に山奥へ走り出した。

豪雨の中、多くの大人が私を止めた。

それでも私は走り出した。彦星と出会うために。

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