第9話 王女ちゃんの家族とご対面

 「空からの景色がこんなに綺麗だなんて…」


 「今日だけの特別よ?」


 「はい!ありがとうございます女神様っ!」


 ハキハキと喋れるじゃないこの子ったら。

 現在、ダリオラ王国の上空を王女ちゃんを姫抱きしながら天翔ける私なのだけど、この子ったらおかしなところで根性が座っているというか全然臆さないのよね。

 何の能力も無い頃の私がこんな上空で抱えられてぴょんぴょん飛ばれたら鼻水垂らして失神する自信があるわ。

 世間知らずと言うか、危機管理能力が無いというか、生粋の天然箱入り娘なのかもしれない。


 「今はもう夜だから街も眠りについて暗いでしょ?」


 「そうですね。流石に皆さんお休みになっている時間ですものね」


 「国をもっと発展させると夜中でも街灯りが多く点いて綺麗なのよ」


 「そうなのですか?」


 ダリオラ王国は2000年の歴史があると言ってもまだまだ発展が遅れてる。この国だけに限っての事じゃないけど、どうしてこの星の文明は低いのか疑問に思うところね。

 今は国を相手にした戦争は無いようだけど魔物が闊歩している世界だから戦いが無い訳ではない。だからそれ相当の技術が進歩しても良いと思うのだけど、魔法は良いとして未だに剣を持って戦うのよね。


 「もう少しこの世界が進歩してくれたら人々が多くの機会に恵まれるのよね」


 「進歩ですか?」


 「そうよ。私の目には今この世界の多くの人間は明日を生きる為だけに今日を生きているように映っているわ。自分の事を強者と勘違いした力を持った人間は私腹を肥やす為に人を人として見ていないのは王女ちゃんなら分かるわよね?」


 「はい…」


 「言いたいことも言えないままじゃダメなの。だって貴女は王族なのだから。当たり障りのない都合の良い性格のままだと今日みたいに痛い目に合うわよ。時に救われる立場にあっても良いけれど、本来の貴女の立場は救う側なのよ」


 「救う側…」


 「何も無茶をしろと言っている訳では無いわ…そろそろ城に着くわね。どのあたりに降りよっか―≪万里神眼≫」


 私は城内を探索する為に城の上空でぷかぷか浮きながら留まる。


 うん、万里神眼を使った事で城内が見える見える。予想通り城の中がてんやわんやしてる。一国の王女が攫われたのだから、そりゃあそうよね。

 

 「王女ちゃんの親はどこにいるのかしら…」


 それらしい人物が豪華な応接室らしき所に女性と男の子二人といるけど、ちょっと見てみるか―≪看破!≫



 鑑定結果 ≪看破結果≫▼

 ビル・ヴァン・ダリオラ ≪40≫▼

 ≪異種族を束ねる者、花に愛される者≫

 レベル:26

 状態:憔悴

 スキル:金剛焔舞、鑑定



 「ねえ、王女ちゃん。貴女の父親の名前ってビルかしら」


 「そうです!」


 ふむふむ、、、娘の花好きは父親似かいっ!

 それはまあ良いとして、異種族を束ねる者か…珍しい称号を持っているのね。

 それと今更思ったのだけど、この国の王族の名前をこうして改めて見ると全部人の名前なのが小腹に突く感じに笑えてくる。


 ビル・ヴァン・ダリオラ。まるでトリオね。


 「そこまで広くはない立派な部屋に長い黒髪の女性と男の子二人と居るんだけど家族だったりする?」


 「恐らくお母様とお兄様方です」


 「じゃあこの姿だと威厳もへったくれも無いから正装に変えて目の前に転移するわね。その後ちょっとだけ空間弄るけど驚かないでね」


 「は、はい!よろしくお願いしますっ!」


 「では…ふんっ!(真っ白で清楚な感じの神ドレスにチェンジ)」


 「す、すごいです」


 「からの~≪テレポート!≫」

 


 (王女ちゃんの家族の目の前の床から金色の眩い光と共にヌルっと登場する過剰演出シーンをご想像ください)



 「シュタッ」


 と、プリズム転移魔法陣から私と若干の余波を受けて弱プリズムな王女ちゃん登場。さて、どんな反応するのやら。

 予想だと「セ、セセセ、セシルっ!!!」だね。


 「「「「セ、セセセ、セシルっ!!!」」」」


 うん、一言一句違わず。まるでコピペしたかのようだ。


 「ただいま戻りました。し、心配をかけて…申し訳ありません」


 「いったいどうやって…それとその方は…」


 まあ警戒はするでしょう。それが普通だ。ただ、もっと警戒するべきことがあったのは事実だ。それを怠ったから王女ちゃんが攫われるような事になったんだし。


 「はいはい。騒ぎたくなる気持ちも分かるけど、誰かに気付かれたら嫌だから場所を変えるわよ―≪開門せよ!時々の間!≫」


 目まぐるしく変わる景色に若干眩暈を覚えるかもしれないけど、そこは我慢して欲しい。


 「な、なんだ此処は!」


 「あれはいったい…」


 驚くのは無理もない。自分達がいた場所が突然変わったのだから。男の子二人は眩暈にやられて声が出せなくなっているけど、王女ちゃんの両親は子供達の手間、なんとか立っていられてるわね。

 私に姫抱きされたままの王女ちゃんは「うっぷ」してる。頼むからそこで吐かないで。


 「此処は時々の間と言って全世界の時を管理する時の番人が審判を下す場所よ。あそこに見える大きな神殿に番人が住んでいるの」


 時々の間と呼ばれる白い空間から少し歩くと広くて長い階段がある、その頂上には大きな神殿があり、そこに時の番人と呼ばれるトキトクという人物が住んでいる。


 『我の許可も無く何をしに来た』


 でたでた。辺りに響く威圧が込められた低い男性の声。でもその正体は神殿の柱からこっそりと様子を伺っている「のじゃロリ」だったりする。

 人見知りの恥ずかしがり屋さんが精一杯の虚勢を張った結果がこれだ。


 「ごめんね~。ちょっと場所を借りたいんだけど良いかな~」


 『………よかろう』

 

 めっちゃ気軽に場所を貸してくれる頼れる存在だったりする。

 さて、王女ちゃんを降ろして開いた口が塞がらなくなった皆に話でもするか。と、その前にあいつらを異空間収納からポイポイ取り出すか。


 私は王女ちゃんを攫った男達を異空間収納から無造作に出す。私に刈り取られた意識は私の許可なく戻る事は無い。だから今も目を開けることなく最低限の呼吸だけをする状態となっている。


 「はい、そこで口を開けて身動きを忘れた王さん」


 「お、王さん!!!」


 「はい、騒がない。で、これ誰だか分かる?」


 私が指を差したその人物は王女ちゃんを攫わせた張本人のダディル・フォン・ロピュエムだ。


 「これはロピュエム家の長男、ダディルではないか」


 「はい、正解。王女ちゃん、この男に何をされたのか説明を一息でお願い」


 「え、っと…一息、、、私は端からしてもいない婚約を否定した事で逆恨みされて…お金で雇われた盗賊達に攫われました。運よくこちらの尊き御方に助けられなければ、洞窟内で犯された後に奴隷にされる所でした」


 「な、なんだって!!!」


 驚愕する王さん。リアクションの名人かってくらいの驚愕っぷり。


 「セ、セシル。その…無事に戻って来てくれて母親としてとても嬉しいのだけど、その方はいったいどなたなの?セシルが行方知れずになり途方に暮れていたら目の前の床から現れて、今度は私達家族が知らない場所に連れて来られて…少し考えが追い付かないわ」


 至極真当な御意見に感服。本来ならもっと盛大に取り乱しても良い場面。


 「王女ちゃん、その人は母親だよね?」


 「そうです。私のお母様です」


 「よし、そこの奥ちゃん」


 「お、奥ちゃん!?」


 面白いなこの夫婦。リアクション夫婦ここに爆誕って感じ。


 「此処に連れて来たのは現世の時の流れから逃れる為よ。あの城の中だとゆっくり話も出来ないでしょ。それに私の姿を見て大方の予想はついているんじゃないの?」


 今私が纏っている神ドレスからは人体に影響がない程度の神威が微溢れしているから、それに当てられた人間は私の事を次第に神と認識するのよね。

 でも、まだそこに至るまでの時間が足りてないから私の存在を疑う奥ちゃん&その他といったところだろう。


 「では貴女は…神であると?でも、この世界の神は創造神様と鍛冶神であるヘファイストス様の二柱と認識しているのですが」


 あーそれかぁ~その話きたか~。


 「何を勘違いしているか知らないけど、創造神とヘファイストスは同一人物よ?」


 とか、人によっては信じがたい爆弾発言だったかもしれない。

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