第8話 シンパシーを感じつつも私に似ていて腹が立つ
とりあえず王女ちゃんであろうがなかろうが、乙女を地面で縛られたままの状況にさせておくのも可哀そうだし、そう思って手足を縛っている縄を解こうとする私だったのだけど、何故かその縄が親切丁寧に蝶々結びだったことに驚愕。
口は皮膚の上で直に強力粘着布テープで塞いでいたのに手足は直ぐ解けるように蝶々結び…馬鹿なの?え?私がおかしい?
まあ良いわ。スルッと解けて楽ちんだし。
「あ、あの…本当にありがとうございます。それで…あの…」
王女ちゃんは手足を縛りつけていた拘束が解けると体を起こす。そして男達が用意したであろう照明魔道具の灯りが王女ちゃんの頬を照らした。
赤く染まったその片頬はきっと男達の誰かに殴られたのだろうと推測できる。
私はこの子をどうしたら良いのかと考える。
別に姿を見られても記憶改竄なんて簡単にできるし、それにパパっと眠らせてチャチャっと城に置いてくれば良い話だ。
しかし、この王女ちゃん。見ていると何か引っかかる。それに何故か腹立たしさを感じる。生理的に受け付けない顔をしている訳ではない。声や仕草に嫌悪感を感じる訳でもない。
でも、何故かこいつぅーって罵りながら脳天に拳骨喰らわせてヒーヒー泣かせてゴメンナサイと言わせたい。
「セシル・ヴァン・ダリオラ。貴女は自分が何をされてどうなったのか理解している?」
「は、はい」
「ダディル・フォン・ロピュエムが貴女を何故憎んだのか分かっているの?」
「それは…その……」
「良いから答えないさいっ!」
洞窟内に私の声が響き渡る。そして王女ちゃんの悲鳴もそれを追うかのように。
「し、城でたまたま会って…それで目が合って…何となく笑って…それが8歳の時で…うぅぅぅ…」
辛い過去を思い出したかのように泣き出す王女ちゃん。そうか、8歳の時に…まあ生まれ変わる前の私の経験則だと―
「たまたま城内で出会った彼と目が合って微笑んだら好意を抱かれたと?それで自分は相手に興味の欠片も無いけど向けられる好意を否定もせず、拒絶もしなかった。波風立てるのは貴女の本意ではない。それで気付いた時にはおかしな噂話が周囲で持ちきりになっていた。セシル・ヴァン・ダリオラはダディル・フォン・ロピュエムを愛している…とかね」
「……おっしゃる通りです」
あれれ~~本当に?本当に当たっちゃったの~~~???
でもそれなら尚更―
「お前がハッキリ言わないからいけないんじゃいっ!!!!!!!!」
「ひぃぃぃぃっ」
当たった…当たっちまったよー。そして分かったわ。何故この子に腹が立つのかが!それは生まれ変わる前の私にそっくりなのよ!!!
言わなければいけない事を言わずにズルズルズルズルと放置して様子を伺ってばかりで、そして状況は望まない方向に進むばかり。
そんな事をしてると私みたいに多方面から恨みを買うことになる。貴女は殺される寸前だったけどね!そして私の過去は恐らくそれが原因で死んだんだけどねっ!
なんだろう。普通ならシンパシーを感じて仲良くなっても良いはずなのに、ただただ腹が立つわ。この想いは勿論王女ちゃんにもだけど、わたし自身にも腹が立っているのね。
「ていうかアンタもアンタの家族も何してんのよ!アンタが王女なら親は国王と王妃でしょ!」
「す、すみません。でもやっぱり貴女は…」
「何っ!」
「なんでもありません!わ、私は…結婚相手はある程度の自由を認められてまして…その…家族全員がダディル・フォン・ロピュエムの噂を聞いて勘違いしてしまって…その…私…なかなか言い出せずに…」
どいつもこいつも重症ね!それにしてもこの王女ちゃんって随分と人見知りというか、おどおどしているというか、もしかして私が怖いのかしら。まさかね?
仮にも創造神(代理)の私がねえ?私と言えば癒し!癒しと言えば創造神(代理)なのだからっ!
「あの…」
「何?言いたいことがあるならハッキリ良いなさい」
「は、はい…あの…もしかして貴女は女神様ですか?」
「ファッ?な、ななな、何でそう思うのかしら?」
「その…体の周りがキラキラして輝いてますし…」
「え!うそ!?あれホントだ!いったい何時からよっ!」
「私の前に姿を御見せになった時から輝いてました」
何ですとぉぉぉぉぉっ!じゃあ主婦を名乗った時には既に輝いていたと。私はキラキラ輝くプリズム主婦だったと…そんな頭のおかしい人みたいなの私イヤだっ!
でも何でだろう…創造神(代理)を意識したつもりは無いんだけどな。
「複数人を一瞬にして屠るあのお力、そして聞かずとも得てしまうその頭脳。それに…私が祈ったら助けてくれましたから…」
もしかして『神様助けてっ!!!』の祈りに応えたからか!そうなのかっ!
でももう仕方がないわね。王女ちゃんの両親にも言いたいことがあるし、そろそろ連れ帰ってあげないとね。
「そろそろ帰るわよ。まあ大騒ぎになっている可能性特大だろうけどね」
「あの…ここが何処だか」
「任せないさい。この私こと女神が貴女を特別に連れ帰ってあげるわ」
たまたまの出逢いなのか、それともこれは運命なのか。そんなもの私の知ったことではないけれど、私に抱えられた彼女は生まれ育った国の遥か空からの夜空を目を輝かせて眺めていた。
私、正直そろそろお家に帰りたい。
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