第7話 自分達が一番素敵だと疑わないマリー。あと王女ちゃん

 俺の名前はウィル・ダクソン。故郷の町キャティアポーリーで門兵をしている。

 そんな俺は今、夢を見ている。その夢とは何も無いただの草原で愛する妻マリーに膝枕をされているのだ。

 


 なんて素晴らしい夢だっ!



 心安らぐ夢の中の俺とマリーだが、マリーは俺の頭を優しく撫でながら奇妙な事を呟いている。


 「ウィルはギャグ枠。でも貴方の事は心から愛しているわ。だからこれからもそのままのウィルでいてね」


 と、ちょっと何を言ってるのか分からないのだが、女神の様なマリーの呟きに俺は「うん」と即答した。

 そして夢の中で更なる夢へと俺は身を投じていく。


 俺の名前はウィル・ダクソン。マリーの自慢の夫になりたいと願う男だ。




 いけないいけない。目の前で女の子が男達に乱暴にさせそうだっていうのに、ウィルの事が気になって夢の中に誘い出したついでにイチャイチャしちゃったわ。

 本来なら今頃ウィルの大胸筋の匂いを嗅ぎながら眠っているはずだったのだから、これくらいは大目に見て欲しいところね。


 さて、私に縋り、命乞いをした乙女よ。今しばらくそこで大人しくしていると良いわ。


 私はちょっと決め顔を作ってから右手を手刀に変え、自分の左頬の横でそれを斜め45度にしてに構える。そしてそれを目の前の男達に向けて振り払う。

 

 「≪無刃一閃!≫」


 ズボンを脱ごうとした男達が声を出す事も無く意識を失い、顔面を地面に打ち付けるようにして倒れる。ざまーみろ。



 「シュッ!シュシュシュ!」


 対人戦なんて滅多にしないからちょっとだけ興奮している私。それにしても無刃一閃は本当に便利だ。相手に傷は負わせないけど必ず意識を刈り取る。

 熱烈オールラウンダーというおかしな名前の創造神(代理)のみが使えるスキルの派生技。


 「んーーーんーーーっ」


 あらやだ。女の子の事をすっかり忘れていたわ。しかも戦闘系の強いスキルを使ったから認識阻害が弾かれちゃったのね。ばっちり姿を見られちゃったわ。でもまあいい。とりあえず倒れている男達を異空間収納にポイポイしましょう。それから女の子の塞がれている口ね。


 「ってこれって強力粘着布テームじゃない!女の子の柔肌に、しかも口を塞ぐために貼り付けるなんてあいつら地獄逝きねっ!」


 こんなの女の子の柔肌に貼ったら剝がす時に皮膚までびろんびろんに剝がれちゃうじゃない。仕方ない、ゴッツマイパワーで0.0001秒で剥がしてから、傷んだ皮膚を0.0001秒で治癒ね。


 「ホッ!(剥がし)、ハッ!(癒し)」


 なかなかやるじゃない私。叔父さんには何故か脳筋って言われるけど、見えなければ良い、知られなければ良いのよ。これが私のやり方よ!


 「あ、あの………」


 突然現れた私に怯えているわね。とりあえず今更だけど貴女を…≪看破!――更に看破!≫



 鑑定結果 ≪看破結果≫▼

 セシル・ヴァン・ダリオラ ≪14≫▼

 ・ダリオラ王国の王女。

 ・ダディル・フォン・ロピュエムに挨拶をしただけで迫られた悲しき女。

 ・パン屋の息子にガチ恋している。

 ≪民に愛されし王女、花に愛される者≫

 レベル:7

 状態:恐怖

 スキル:絵描きの心得


 

 う~ん…挨拶をしただけって。それにパン屋の息子に恋しているのね。しかもガチなのね。

 それにしてもダリオラ王国か、、、検索検索…≪ゴッツ検索≫



 検索結果▼

 ダリオラ王国 ▼

 英雄ヴァンが恋人のダリオラと開拓した地に息子が王となり建国。その歴史は2000年と、ほどよく長い。王族は元より、国の歴史は国民に広く知れ渡り、特にヴァンとダリオラの恋の物語は2000年経った今も老若男女に空前絶後な人気を誇っている。 



 『ほどよく長い』とか『空前絶後』とか、これって絶対叔父さんの悪ふざけよね。

 ダリオラ王国に関しては建国の切っ掛けを作ったヴァンとダリオラの功績を王族の名に残すほどなのね。ダリオラなんて国名だし。そして2000年経ってもその二人の物語は国中で語り継がれていると。

 何よこのロマンチックな感じ。私だってウィルに「俺を君の夫にして欲しい」って言われたんだからね!ちょっと変わったプロポーズがトレンドなのよ!

 それにそれに付き合う前のウィルなんか一年間ずっと私が働いてる酒場に隣町から二週間に一度は健気に会いに来ていたんだから!


 私達だってロマンチックでピュアでプラトニックな愛を育んでいたもんねーだ。全然負けていませーん。「どうせだったら結婚しちゃわない?」と言ってウィルにプロポーズさせた愛は本物なんです~ぅ。


 「あ…あの…」


 「えっ、何よっ!」


 「あの…貴女は一体…」


 「主婦よっ!見たら分かるでしょ!」


 ウィルのちょっぴり匂いが染みついたくたびれたTシャツ、誰もが履いてるそこら辺で売ってるチノパン。今の私の姿がそれだ。


 「どう見たって主婦でしょうが!!!」


 「ひぃぃぃぃぃっ」


 あ、いかんいかん。どっちが素敵な恋愛をしたかなんて脳内で競い合っていたら王女ちゃんに当たってしまった。

 うん。恋や愛なんて人それぞれ。夫婦の形なんて星の数ほどある。それを何方かに優劣と付けようかなんて私がどうにかしていた。どっちが素敵だなんて関係ないんだ。皆素敵!そう、皆素敵なんだ!だから私とウィルも素敵ってこと!



 即ち、私とウィルが一番素敵ってこと!…で、おふざけはこれくらいにして、まずは王女ちゃんね。


 「助けてもらったんだから、言うことがあるでしょ?」


 「え…あの…ありがとうございます」



 うん、言えて偉い。そしてそろそろノープランで姿を晒してしまった事に対しての時間稼ぎも限界…今夜は長い夜になりそうだ。

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