第5話 開き直って責任転嫁する私には大義名分がある

 「おいマリー、おいっ!」


 「………はっ。あ、叔父さん」


 「涙なんか流してどうしたんだ」


 「回想したらカブトムシを食べてる私を思い出しちゃってつい」


 「ああ、あの頃の真理の話か。あれも酷かったが、この町に来た時も酷かったな」


 「え!?私って町に来てから酷い時なんてあったかな。記憶に無いけど…」


 「何を言う。町に来て早々「酒場の看板娘に私はなるっ!」とか言って飛び出して、心配になり様子を見に行ったら酒場の用心棒になっていたではないか。ワシはてっきりウエイトレスでもするのかと思っていた」


 「ちょ!ゴロツキ共を始末してちゃんと看板娘になったじゃない!」


 そう、あれは確か片っ端から店に来るゴロツキ共を始末していたらゴロツキが一人も来なくなったのよね。それで今度は店に来るまともな客が増えちゃって大忙し。暇になった私は店の従業員として働くようになって結果的に看板娘になったのよ。


 「結果的にはそうかもしれないが…それで今日はどうしたんだ。何か用事でもあったのか?」


 「あ、そうだ思い出した。海に行って魚釣って来たから叔父さんにお裾分けしようと思ってたんだ。貝も沢山獲ってきたから置いていくね」


 「何を釣った?」


 「ん?ブラッディ―サーモンだよ」


 「どれ、見せてみろ」


 ふふふ、見て驚け!私は私の実力で釣り上げたブラッディ―サーモンを異空間収納から取り出す。どうだ、この丸々とした黒光りブラッディ―サーモン!

 もしこれをお店で買うとしたら金貨数枚は飛ぶわよ。焼いて食べて良し、お刺身にして食べても良し、もちろん煮付けもいける何をしても美味しい天然ものよ!


 「なあ、マリーよ」


 「どうしたの叔父さん、驚いた?ねえねえ、驚いたんでしょ?」


 「また神の力を流したな」


 「え?どういうこと?」


 「この魚が最後に何を思ったのか教えてやろうか。どうせ死ぬのなら神の手によって死にたい。この魚はそう思い死んでいった」


 「ちょっと待ってよ!私神の力なんて流してないし、それよりもこの魚もしかして死ぬ直前の恨み辛みの思念が残っちゃってるの?」


 「恨んではいない。ただ、神の力に引き寄せられ、その力による死を選んだ」


 何でよ!ただ釣りしただけじゃない!それなのに何で私が悪者みたいになってるのよ!良いわよ、あまり生物の死んだ後を見たくは無いけど、どうなってるのか見てやるわよ!


 「≪看破!――更に看破!!≫」



 鑑定結果 ≪看破結果≫▼

 ブラッディ―サーモン ▼

 ・創造神(代理)が気合(神力)を入れ過ぎたキャストによって引き寄せられた者。「どうせ死ぬのなら神の手によって死にたい」が最後の願い。

 ≪神の手によって滅した者≫

 状態:死亡

 


 「気合(神力)ってどういう事よ!そりゃあ私だって気合くらい入れる時だってあるわよ!」


 「問題は入れ過ぎにある。何も気の無い腑抜けた生活を送れとは言っていない」


 「何よ…難しくないこれって」


 「いくら強制的に肉体のレベルダウンをしたとしても神は神だからな。しっかりと精進して神の力を制御してみせるんだな。しかしだ、別にそう悪い事ではない…ただ、これを知るとあまり良い気分はしないだろう?」


 「そうね。神の力を今よりも抑えられるように精進するわ。だから五匹釣って来た内の三匹叔父さんにあげる」


 「多くないか?」


 「嫌よ。私に殺された宣言したような魚を沢山食べたくないわ」


 「食べはするんだな」



▽▼▽



 ブラッディ―サーモン三匹と大量の貝を叔父さんに渡して家に帰って来た私は下処理をしてから庭に出る。


 ふん!あの魚は全部焼いて食べてやる!


 それにしてもあの時、神の力なんて出したかな。そんな記憶も感触も感じなかったけど。

 気合を入れるのはダメなんて事は無いし、入れ過ぎと言われても「ふんっ」って気合を入れるのと「ふんんんっ!」って入れるのと大して変わらないとも思うんだけどな。

 私は一心不乱に庭の草むしりをしながら釣りをした時の事を思い出す。


 確か…『こ~んちくしょうがいーっ!』と、気合を入れてキャストした私。


 アレがいけなかったのかもしれない。私は前の自分よりも今の自分は随分と開放的になった自覚がある。そして私は今の自分が気に入っている。

 その開放的な感じが良くないのだろうか。そうだとしても今更内に籠るなんてしたくは無いし、そんな事をしたらウィルを困らせてしまう。


 うん、開き直ろう。


 叔父さんだってうっかりミスリルの熊手なんて作っちゃうんだから私の事をとやかく言えないよね。そうよそうよ!やらかしてる度合いで言ったら叔父さんが断トツなんだから。大体初めて会った時に全裸で「よく言った」なんて訳分からない事を言う変態だったんだから。

 それに比べたら私なんて可愛いもんよ!おまけに叔父さんは私の師匠を兼任してる訳だし、私の責任は師匠である叔父さんの責任よ!


 よし、この開き直りには大儀名分がある…よし!


 「あらマリーちゃん」


 私が心の中でぷんすかと叔父さんに責任転嫁をしながら草むしりをしていると、聞きなれた声で私の名前を呼ぶ人物が現れた。


 「マイソラさんこんにちは~」


 マイソラさんは二軒となりの恰幅の良いパワータイプ系の奥さんだ。ちなみに二つ名は熊捌きのマイソラ。


 ≪看破!≫



 鑑定結果 ≪看破結果≫▼

 マイソラ・ディグロス ≪31≫

 ≪裁く者、熊捌きのマイソラ≫

 レベル:14

 状態:良好

 スキル:集中


 

 私がふざけて二つ名を付けてしまったが為に、鑑定結果に熊捌きのマイソラが加わってしまったのは私だけの秘密だ。一般の人にはこれを見ることが出来ない訳だし。

 それにしても裁く者とはおかしな話だったりする。捌く者ならまだ分かるけど、何故裁く者なのか。

 マイソラさんはよく家の庭で熊を捌いている。この時点で普通じゃないんだけど、本当に庭の木に熊を吊るして捌いている。

 通りに血が垂れ流れているのを見ると、「あ~マイソラさん熊の解体してんだなぁ」ってな感じで近所では有名だ。


 「ぼぉーっとして大丈夫かい?」


 「んっ、大丈夫です。それよりマイソラさん、ブラッディ―サーモン一匹貰ってくれます?」


 いかんいかん。看破していたら不審に思われてしまった。ここは二匹ある忌々しいブラッディ―サーモンをお裾分けしようじゃないか。


 「ブラッディ―サーモン一匹って丸ごとかい?」


 「そうそう、海に行って釣って来たんですよ」


 「良いのかい?ブラッディ―サーモンなんて高級魚、売ったら金貨になるじゃない」


 「今日二匹釣れたし、いつもマイソラさんにはお肉貰ってるからね」


 マイソラさんのお陰でウィルの大好きな唐揚げが頻繁に食卓に上がるし、貰ってばかりだと悪いからたまにはお返ししないとね。


 「さぁ、持ってった持ってった!あ、貝もあるからそれも持って行ってね!」


 少し強引にブラッディ―サーモンと大量の貝を渡されたマイソラさんは私にホクホク顔を見せながら「今度また熊の解体手伝ってね」なんて言っていたけど、私は曖昧な返事をして了承はしなかった。

 だって、内臓ばさばさ出るの気持ち悪いんだもん。そこまで私はタフじゃないし、仙人モードは五年前にとっくに卒業してる。


 「さてと、ウィルの帰ってくる前に夕食の準備をしないとね」


 何だか長く感じた一日だったけど、出番の少ないウィルの為に今日も美味しいご飯を作る良い奥さんな私だったりする。

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