第4話 真理のお悩み相談コーナー、そして訓練を終えて森を出る
「え?なんで?ちょっと…そういうの怖いんだけど」
「神といってもワシの代わり。つまり代理だ」
「代理って、おじさんいなくなるの?」
「いや、ワシは何所にも行かない」
「じゃあ何で?」
頭の中が混乱する。このままただ黙っていると私は都合の良いように使われるだけになってしまう。あれ?そういえば私ってこんなに話をする性格だったかな。
もしかして私の何かが変わったのかもしれない。それか神様を目の前にするとそうなるとか。
とりあえず、髭で顔面毛むくじゃらプリズムおじさん改め、神おじさんの返答を待っているけど、なかなか答えは返ってこない。
「何かあったの?」
どういうことだろうか。神おじさんがもの凄く哀愁を漂わせてきた。先程まであんなに光り輝いていたのにその光は収まり、辺りを照らすのは焚火からの灯りだけになってしまった。
私は何故かこの神おじさんをとても慰めたくなる気持ちに駆られていた。あんなに淡々と話をしていたのに、今は目に涙まで浮かべている。
今の神おじさんを見ていると、噂に聞くところの会社で行き場を失った窓際おじさんを想像してしまう。
「何かあったのなら遠慮なく言って?私でよければ話を聞くよ」
「………ワシ、もう疲れた」
神おじさん改め、窓際神おじさんは神生において疲労困憊だった。
「疲れたってどうしたの?この世界の創造神なんでしょ?創造神って言ったらこの世界で一番偉くて凄い神様なんじゃないの?信者の数も断トツに多くて云わば世界№1のフォロワー保持者でしょ?」
「ワシには愛する妻がおった…」
「うんうん」
「その妻が長い年月が経つにつれて傲慢になり」
「う、うん」
「神友の中で派閥を作り」
「………」
「調子に乗って胡坐をかいたその結果、最初にお前を見つけて気に掛けた最高神の友の神に喧嘩を吹っかけて殺された」
簡単に首を突っ込んで良い話じゃなかった。ほんの数分前の慰めたくなる気持ちに駆られた私を全力で止めたい。
「実際は殺されたと言っても神の力を断ち切られ、その後に最高神によって罰を受け、今はその身を封印されている。愚行の罪から罰を受けて100年が過ぎ、そろそろその罰も終わる」
「罰が終わるの?だったらまた一から始められないの?」
「いや、もう離縁している。流石に最高神と肩を並べるほどの神に喧嘩を吹っかける妻の夫を続ける気力も情熱も胆力も勇気も慈悲もない」
離縁って離婚したってことかな?それとこれは愚痴かな?愚痴を吐きたかったのかな?
「それに…」
「それに?」
「妻を殺った神とは最初にお前の存在を気に掛けた神だ。そしてワシは元々は鍛冶神で一人こつこつと作業をするのが好きだったのだが」
何だか色んな縁が巡り巡っている感じがする。こんな偶然ってなかなか無いよね。って…あれ?あれれ?
「おじさんもしかしてさ、おじさんの奥さんがその最高神様のお友達の神様に喧嘩を吹っかけた事の罪滅ぼしで、おじさんが私や家族に色々してくれてる訳じゃないよね?」
「それはない。元々ワシらは話をするくらいの関係は持っていた。ただ…今回お前の事があって、最高神の友である神と交友が深まった。というよりその神の家族との交友が深まった。その者達はワシの作る物を気に入ってくれている」
「で?」
「たまには他者と触れ合うのも良いものだと感じた。だから休暇として神であるワシの力を少しばかり落し、しばらくはこの地で生きてみたいと思った」
なるほど。引きこもりが他者とのふれあいの良さを知ってしまったと。それで私に神様をやってみないかという事なのね。でもそれって簡単に受けていい話じゃない気もするんだけど。あれ、元奥さんの話は?
「それとおじさんの元奥さんの話とどう繋がるの?」
「元妻はこの世界には入って来れない。しかし、ワシがこの世界を離れると嫌でも顔を合わす機会があるだろう…頼む!代理で良いんだ!ワシの代理としてこの世界の神になってくれ!世界を破壊すること以外なら神の力を使って好きに生きて良いから!不自由と皆無な生活をワシが約束するから頼むっ!」
「ちょ、ちょっと、おじさん近い!近いって!」
余程切羽詰まっているのか突然捲し立てる様に迫って来た。まあでも約束された生活があるなら引き受けてみても良いかもしれない。
「何かあったらちゃんと守ってよ?」
「勿論だ!」
「じゃあ、その代理ってやつ、引き受けても良いよ」
「ありがとう……うぅぅ…ほんと~に、ありがとう」
窓際神おじさん改め、休暇願神おじさんは涙を流して私に感謝をした。
▽▼▽
とてもいい匂いにつられて目を覚ます。
昨日は話が一旦終わったところで私がうとうとしていた為に続きはまた明日という事で眠りについた。
「起きたか」
私は休暇願神おじさんに案内された近くの泉で顔を洗う。そして随分とトイレに行ってなかった事を思い出し、どこでしようかと悩んでいた。
見渡す限りトイレは無い。
まあ10歳の体としたら見た目は間違いなく子供だ。そしてここは自然に囲まれている。人の目は無い。いるのは休暇願神おじさんだけだ。
野ションしたって許されるはず。
「ねえおじさん、トイレ無いんでしょ?その辺でしてきてもいい?」
「お前は何を言っている」
「何ってトイレ。そんなにしたい訳じゃないけど、何となくトイレしたいかなって」
「神が排泄をする訳がない」
「は?」
「お前はもう、神である」
え、ちょっと待って。私ってもう神様なの!?それに神様ってトイレしないの!私はアイドルがウンチしないのと同じなの!?
「ほら、食事にするぞ」
「う、うん」
話せば話すほど納得できない事案が増えていくけど、そんな私を無視して私の前に朝ごはんが出される。
白いご飯とスープ。そして野菜炒め。それを大きな切り株をテーブルの様な使い方をしてその上で食事をする。
何の変哲もない食事内容だけど、とても美味しかった。
「おじさんってさ、何だかお父さんみたいだよね」
何となく思った事を口にする。すると休暇願神おじさんは照れたような仕草をした。まだ出会って間もないけど、私は休暇願神おじさんに心を開いていた。
他に頼れる人が居ないのもある。色々と私の事をしてくれたのもある。
そして、優しくて少し頼りない雰囲気をみせる所が、大好きな父親に似ていた。
「ワシはだな、お前の父にはなれない」
「まあ…、そうだけどさ」
「ワシがお前の父になったらお前の両親に悪いからな」
ほら、大事な事を言ってくれるのも父親似だ。父親はいつだって優しかった。いつだって人を思いやる人だった。
「しかしだな…ワシは…お前の叔父くらいにはなってもいいぞ」
「叔父さん?」
「ああ。お前は、、、真理はワシの姪っ子だ」
休暇願神おじさんが、私の叔父さんになった。今日は記念すべき叔父さんが生まれた日だ。
食事中は賑わった。この日は二人だけのパーティーだ。
話の内容は叔父さん誕生祭には相応しいかはさておき、トイレはしないけど食事は摂る。そんなご都合主義があってたまるかと。
「食事を摂らなくても死にはしないが、力を蓄える必要はある」
「食べた物は何処に行くの?」
「力として体に吸収される」
「ウンチ吸収するの!」
「何故そうなる」
叔父さんはお腹を抱えて笑っていた。そんなに面白かったのか、大笑いしている叔父さんの体がキラキラと光り出し、プリズム叔父さんになりかけていたくらいだ。
「そうだ。今の真理の強さを見せてあげようか」
「ん?私の強さ?」
その言葉を聞いて疑問に思った次の瞬間、私の目の前にぶわっと何かが現れた。
マリー・ダクソン≪10≫
≪創造神(代理)≫
レベル2
状態:良好 、≪不老不死≫
スキル:ワンハンドマスター、≪熱烈オールラウンダー≫
パラメーター値
HP:17
MP:6
STR:5
DEX:13
INT:4
MND:2
AGI:11
LUK:∞
会心率:∞
回避率:∞
「えぇぇぇっ!!!何これっ!」
「それがお前の強さを表している」
「そうじゃなくって!HPって何よ!ここってそんな世界だったの!?まるでゲームみたいじゃない…」
「ゲームではない。そのパラメーター値というのは少し前までは無かった。ただ、最高神の友の家族が身体能力を数値で表せたら良いと勧めて来てな。ちなみにHPは体力みたいなものだ。どれだけ体を動かせるのか、そんな目安のようなものだ」
「会心率とか回避率って…」
「それは…パラメーター値の件で協議の結果…何となくノリでそうした」
「協議の結果がノリって!!!意味の無いものは消してよ!会心率:∞って何よ!ズババババンって会心の一撃が出ちゃうわけ!?回避率∞って何よ!私自動回避出来る訳!?危険をフッ…って自動で避けれる訳!?」
「流石は代理と言っても創造神。よくぞ見抜いた…」
「よくぞ見抜いた…じゃないわよ!」
「まあまあ落ち着け。その項目の削除は考えておく。しかし、今すぐは無理だ。それをするにも力が必要だ。それに…」
「それに?」
「それを創る時のあの者達の目の輝きが半端なかった。今すぐ消したとなればあの者達を失望させてしまう」
「あの者達って最高神様のお友達の神様の家族のこと?ねえ、もしかしてその人達って地球人なの?これってまるでゲームじゃない」
「地球人も何も真理の元同郷であり日本人だ」
「そ、そうなんだ。勢いで聞いちゃったけど、日本人だと知って驚きしかないわ。その人達って叔父さんと仲が良いんだ」
「勿論だ!あの者達はワシが創った物を手に取り、それを迷いなく心から評価してくれる。凄い!と褒めてくれる」
「あ、うん。良かったね叔父さん。認めてくれる人が居てさ」
私は叔父さんが抱えている闇を見たような気がする。愛し合って結ばれたはずの奥さんとは時間が経つにつれ次第とすれ違い、認め合うべき夫婦の形が変わってしまった。
「叔父さんは寂しかったんだ。でももう大丈夫!私は寂しくてちょっぴり拗れた叔父さんの味方になるよ!」
「真理よ、そう言うことは心の中で言ってくれないか…」
「ご、ごめん。ちょっと興奮しちゃったかも」
「さて、ワシの話はもういい。次は真理のこれからの事についてだ。現在の真理は正真正銘創造神(代理)だ。しかし、その力をきちんと引き出し、そして使いこなす必要がある。その為にはある程度の訓練が必要となるだろう。その訓練をこれから行う」
「はい」
「その前に真理に言っておくべき事がある…己の為に生きろ!我がままになれ!欲しろ!自由を選べば必ず何かを失う。しかし、真理はその両方を勝ち取れ!今の真理は以前の真理とは違う!愛する両親が生んだ本当の自分自身を掴み取れ!」
己の為に、我がままに。私はその言葉を聞いて涙を流した。
叔父さんの言葉を胸に、私は創造神(代理)としての力を付ける為の訓練を開始した。
「右っ!」
「せいやっ!」
「左っ!」
「せいやっはっ!」
「中っ!」
「はぁああああああっっはっ!」
どういう訳か、私は何も無い所に向かってパンチの連打を繰り広げている。右と言われたら右フック。左と言われたら左フック。中と言われたら正面突き。
これを1セットとして100回。
これが毎日の日課となった。次第にその数は増えていき、最初は1セット100回だったのが、気付くと1セット1000回となっていた。
そんな叔父さんはたまに興が乗ってしまうことがあり、その日の訓練は地獄のようなモノだった。
「右っ!」
「せいっ!」
「左っ!」
「せいせいっ!」
「溜めて溜めて溜めて~~~~~今だぁああああ!」
「せ~~~~~~~~ぃやっはっ!」
肩で息をする私は休憩を斯う。しかしそんな私のささやかな願いが砕かれる日もある。そう、それが叔父さんの悪い癖であり、興が乗ってしまう時だ。
「1000回上乗せだあああああああっ!」
毎日、毎日、それはもう毎日だ。
気が付いた頃には私はとんでもない力を身に付けていた。指の先から炎を出すなんて当たり前。一歩駈ければ私の体は森の端から端まで飛んでいく。
その強大な力の扱いも完璧だった。しかし、そんな毎日はある出来事によって終わりを告げる。
「叔父さんただいま~」
「また森の泉の羽妖精の所に遊びに行っていたのか」
「うん!」
「そうか。帰って来た事だし、そろそろ食事とするか」
「う~ん。森の中で丸々としたカブトムシを見つけてこんがり焼いて食べたからいらないかな~」
この時の私は森の中で叔父さんという神様からの訓練を受けていた事によって仙人モードになっていた。
流石に霞を食べたことなんて無い。ただ、こんな原始的な私を知った叔父さんが焦る。
「訓練は終わりにしよう」
「ホントっ!」
「ああ、浮世離れしすぎる真理が心配だ。そろそろ人の世に出て、人らしい暮らしをしようと思う」
「やったー!」
「そうだ。真理の名をどうするかだ。そのままマリと名乗っても良いが、何か希望はあるか?」
「名前か~。そうだなぁ、、、マリーってのはどう?お父さんとお母さんに付けてもらった名前だし…でも折角新しい人生だからちょっと変えてマリー!」
「マリーか…そうか。素敵な名だ」
「じゃあ、叔父さんはヘフ叔父さんね」
「ヘフ?」
「だってヘファイストスなんて名乗れないでしょ?私でもその名前が誰なのか知ってるし。だからヘフ叔父さん!」
こうして私達は森の生活を終えて人々が暮らす町へと姿を現した。
それは私が訓練を始めてから5年の月日が過ぎた頃だった。
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