第27話
各階段を障害物で封鎖する作業は思った以上に大変だった。
倉庫から跳び箱、平均台、鉄棒(の残骸)、バレーネットを支える支柱、バーベル、予備のバスケットゴールなどなどあらゆる物を持ち出したが全然足りず、事務所から机や本棚、書類入れ、2階の客席からボルトで固定された椅子を工具で取り外して対応した。
構築した各バリケードの前にガラスの破片を撒き、1階正面のロビーにも自分達が通るスペースをテープで確保してそれ以外にガラスの破片を撒いた。
作業に想定以上の時間が掛かってしまった為にミーティングは夕食後となった。
「……なので各自1階の正面ロビーを通る際は十分気を付けてくれ。特に敵襲で警報鳴らして見張りが後退する際は慌てているだろうから特別注意だ。見張りを交代する際は面倒でも気を付けろよと互いに確認し合って欲しい。俺からは以上だ」
次はいよいよ伊藤の東に移動する提案だ。
本来そういった重大な提案は部長である俺からするべきなんだろう。
しかし結局俺は決断できなかった。
「次は俺だな。
あー、実は皆に提案があるんだ」
ここ(体育館)に残っていれば日本に帰れるかもしれない。このことに未練があるのも事実だ。
だけどそのこと以上に自分がリーダーに向いてないのが原因だと思う。
他人の命を背負うことに耐えられないのだ。
自分の指示によって他人を殺す覚悟がないのだ。
だから自分に都合の良い皆が支持してくれそうな理由を見つけて現状維持に甘んじてしまう。
あの時……
行方不明者の捜索を打ち切る責任を自ら負うとまで言った1年生に自分は何をした?
あの段階での移動に賛成はしなくても、絡繰1人を悪者にしない方法はあったんじゃないか?
そうしておけばその後の防衛も絡繰の提案を受け入れることができたかもしれない。
早川先輩も死なずに済んだかもしれないのだ。
今更こんなことを考えても無意味ではあるが。
後悔先に立たずとは昔の人はよく言ったものだ。
「絡繰達が戻って来なかった以上人里に向かったのは間違いないと思う。
そこで、皆での東への移動を提案したい」
ザワザワ、ザワザワ。
「恵美子はどうするのよ!!」
「もう4日も探したんだ。皆の疲労のこともある。木下の捜索は一旦打ち切るべきだ」
「無責任よ!!」
「人里があるのなら現地の人に救出された可能性もあるんだぞ?」
そんな可能性なんかまずないだろうに。
「うっ」
「ここにいれば日本に帰れるという話はどうなったんでしょう?」
別の女子からの質問だ。今度は1年か。
「俺も日本に帰れるのならここが1番可能性高いと思うよ。
でも敵の襲撃人数が段々増えてきてるからこれ以上犠牲者が出る前に移動すべきだ」
「あの、移動するとなると個室に安置してある御遺体はどうしますか?」
職員さんからの質問だ。
「そうですね、形見の品を確保して埋葬するしかないでしょう。
そうだ! 移動後に体育館が転移した場合に備えて報告書や手紙・毛髪を残したほうがいいかもしれませんね」
「それなら御遺体も体育館に残したままのほうが転移した時に日本に帰れるのでは?」
「そうですね。その辺はもう一度明朝話しましょう」
「1年の子達が人里に向かったという根拠はないのでは?」
「ないよ。ないけど俺は人里に向かったと判断して皆に移動の提案をしている。
これをどう受け止めて決断するかは各自の判断じゃないかな?」
伊藤め。全員を説得するのを諦めたな。
絡繰と同じように明日の朝に賛同者を募るつもりか。
皆はどのような決断をするのだろうか。
俺は既に伊藤に付いて行くことに決めている。
卑怯なようだが、残る選択をするとこのままリーダーを続けなくてはならなくなりそうで嫌なのだ。
移動グループが確定したら正式に伊藤にリーダーを譲りたいと思っている。
「明日の朝に改めて参加者がいないか聞くが、最悪誰も参加しなくても自分だけで移動するつもりではいる。
もし希望する者がいたら今夜中に手紙書いて毛髪を入れて置けよ。明日は移動の準備で忙しくなるからな。
以上だ」
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===4round===
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『第4ラウンドの時間がやってまいりました!!』
「パチパチパチパチ~」
『今回のラウンドは~っとgnさんどうかされましたか?』
「進行を邪魔して申し訳ないのだが質問してもいいだろうか?」
『気になることがありましたら遠慮なく聞いてください!』
「前回のラウンド時にこちらの想定より早く出場者が東に移動したから襲撃する為の魔物の配置の中止と避難させていた動物・魔物の呼び戻し作業を行ったと言っていたね?」
『はい、確かに言いましたし実行も致しました』
「今回も東へ移動する出場者がいるようだが、明日の朝になるまで何人になるかはわからないがね。ちゃんと対応できるのかな?」
『今回は想定外ではなく読み違いでして……
まさかケンカ別れすることになったグループの後をすぐに追うとは露にも思わず……』
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