第26話

 4つの個室という条件がなかなか厳しかった(大概の家はリビング除くと3部屋まで)ようで紹介された物件は3つだった。


 1つ目…街の中心地に近い石造りの家で、庭無し家賃30万コルト。


 2つ目…街の中心地まで歩いて5分の木の家で小さい庭付、家賃20万コルト。


 3つ目…街の外れにある木の家で大きい庭付、家賃12万コルト。


 それぞれ案内されて見て回り、


「3件目だな」


「えー! 商店街に近い方がいい!」


「1件目と2件目だと風呂を作るのは無理だぞ」


「ぶぅー! 仕方ないなぁ」


 商館に戻り契約を済ます。


「布団とか買わないとダメだな」


「食器とかもいるだろ」


「今日は買い物に専念して指揮所行くのは明日でいいか?」


「いいぜ」


「あ、あの、それなんだけどさ!」


「佐伯なんだ?」


「私も兵団に入って一緒に活動してもいいかな?」


「それは……」


 佐伯には高いコミュ力がある。

 間違いなく4人の中ではムードメーカーだ。

 女の子ということももちろんあるが、ムードメーカーな佐伯は普段通りでいて欲しい。その手を血で染めて欲しくないという想いが他の2人にもあると思う。


「みんなが私のこと考えてくれて家のことして欲しいって言ってくれてるのはわかるのよ。

 でも考えてもみてよ!

 テレビもネットもない家にずっと1人だけとか無理よ!」


「それは……確かにな」


「1日2日ならともかくずっととなると厳しいな」


 近藤と加川も同調するか。

 佐伯ならすぐに友達とかできそうだけど。

 相手が主婦とかだと色々面倒な部分があるのかもしれない。


 佐伯を兵団に入れるのか……

 戦は功績を積み上げるか領主からの信頼がないと参加できないとのことだから、当分は考えないでいいけど盗賊や犯罪者との戦闘は普通にあるらしいからなぁ。


 乗合馬車でギュートリアの街まで一緒だったムロガの街で兵団に所属している人に色々聞いたのだけど、一番儲かるのが盗賊狩りらしい。倒せば武器防具が手に入るし懸賞金が懸かってるケースもある。生かして捕えれば犯罪奴隷として安価ではあるものの売ることができる。さらにアジトを殲滅できればお宝もゲットできる可能性がある。囚われた人がいればその人達も謝礼金を受け取って解放したり、領地によるものの奴隷商に売ることも可能だ。

 1回の盗賊討伐の報酬で小さな街を丸々買って小領主になったなんて眉唾な話もあるらしい。


 それはともかく、


「最低限自分の身は自分で守らないといけないが大丈夫か?」


「大丈夫だよ! シュッ! シュッ!」


 可愛らしくシャドウボクシングする姿がなんとも頼りないが。


「わかったよ。佐伯の装備も色々考えないとな」


「ありがとう!! やったね!」


「それじゃあ買い物に行くか。夕食もついでに外で食べよう」


「おう」


「帰ってから作るのも大変だしな」


「レッツゴー!!」









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===体育館===

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「外山ちょっといいか?」


「どうした?」


 行方不明者の捜索がまたも空振りに終わって休んでいると伊藤が話しかけてきた。


「捜索はそろそろ打ち切るべきじゃないか? もう4日で成果なしだし」


「そうだな……」


 ここ2日ほどは内心もう無理だろうと思いながらの捜索で体力的にもキツかった。


「明日にでも皆で決めるか。

 本題は防衛のことなんだ。今は正面の扉を開けて敵を誘い込む戦い方をしているだろ?」


「ああ。刃物を投げるのはかなり有効だよな」


「この戦い方を機能させる為にも敵が2階に上がって客席から体育コートに侵入されるのは阻止したい」


「2階の防御にも人を割くということか?」


 この人数ではさすがに厳しいと思うが……


「いや、人手は1階の防御で手一杯だ。

 そうではなく2階に上がれる4ヵ所の階段を封鎖できないかと思ってな」


「ふむ。障害物を置いて通れなくすることはできるだろう。

 ただ、封鎖までは無理じゃないか? 邪魔なものをどかせばいいのだし」


「一時的にも敵を足止めできるならかなり違ってくる。大きい奴はともかく小さいゴブリンならどかすのも苦労するだろうし」


「そうだな。

 あっ! 障害物を置いた前に初日で割れた正面玄関のガラスの破片を撒くのはどうだろう?」


「それいいな! 1階の入り口にも撒かないか? テープで俺らが通れる部分を区切ってそれ以外に撒けばいい」


「さっそく皆に言って作業しようか」


「あ、ちょっと待ってくれ。もう一つあるんだ」


「ん?」


「俺達も東に移動することを検討しないか?

 絡繰達が今日戻らなかったということは人里に向かったと解釈してもいいだろうし」


「この体育館を離れるのか?」


「ああ。

 敵の襲撃も回数を重ねる毎に規模が大きくなっている。

 次も犠牲者無く撃退できるとは言えない状況だ」


「しかし行方不明者の捜索を打ち切ったとしてもだ、ここにいるのが1番日本に帰れる可能性は高いのではないか?」


「その点に関しては俺も否定しないが、命の危険を回避する方がより大事なんじゃないか?」


「仮に移動すると決めたとして伊藤はいつ出発したほうがいいと思う?」


「そりゃあ明朝だろう。夜間に森を移動するのは無理だ」


「それじゃあ階段の封鎖作業をした後で皆に話して決を取ろう。それでいいか?」


「ああ。そうしてくれ」

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