第25話

「自分からもいいかい?」


『もちろんです。遠慮なく聞いてください!』


「このまま日にちが経過すると体育館組の水と食料が心配なんだけど、特に食べ物は災害時用に備蓄してあるのでたくさんあるの乾パンとかでしょ? ただ避難生活を送るのと違って彼らは戦闘をこなさないといけないからねぇ」


「昔の人は飢えてても勇敢に戦ったが、飽食の時代しか知らない彼らでは厳しいだろうな」


『まず水に関してですが、体育館屋上の貯水タンクとプールの水で膨大な量がありますので気に掛ける必要はありません。

 食料に関しましては、本来こちらが襲撃に使用しているゴブリンも山狼も味は微妙ながら食べられるのですが、彼らが一向に手を付けませんのでどうしたものかと……』


「狼はともかくゴブリンのほうはよほど飢えでもしない限り食べようとは思わないわよ」


『こちらと致しましても食べ物関連で出場者のパフォーマンスが落ちる事態は避けたいので、もうしばらく様子を見まして改善されないようでしたら彼らの意識に強制介入することを検討しております』


「それって無理矢理食べさせる感じなのかな? 今度は精神面が心配なんだけど……」


『強制介入と言いましても軽く誘導する程度ですのでご懸念は無用かと』


「しばらくは平気なんだし様子見ようよ!」


「そうだな」


『それでは次の第4ラウンドは1日ないし2日後を予定しております。

 皆様ブースのほうにお入りください』











 俺達は今ムロガの街の北東にあるギュートリアの街にいる。


 あの後ムロガの街の指揮所に行ったのだが、よそ者が新規に兵団を立ち上げてこの街で活動するのは難しいと断られた。というより諭された感じかな。

 ムロガの街では2つの大きな兵団が依頼を独占していて、もう何度も領主と共に戦に参戦している関係から優遇されてるのだそうだ。

 屋台のおっちゃんも言っていたが、魔物の脅威がないので依頼数も少なく他の兵団が食い込む余地がないとのこと。

 そこで新規が活動しやすいと勧められたギュートリアに向かうことにした。


 翌朝宿を出る時に高山さんと遭遇して凄く睨まれた。

 まぁ仕方ない。



 ギュートリアの街はムロガの街から乗合馬車で半日ちょっとだった。

 西側を森、東側に農地が続いており、北側に大山脈とそこから流れて来る川が南東に走っているムロガの街を二回りほど小さくした街だ。


 まずは街の人に聞いて不動産を扱っている商人のところに行く。


「お風呂! お風呂があるのが絶対条件だからね!」


 4人で住むと決めて以降、佐伯はずっと風呂風呂と連呼している。


「この世界の一般宅に風呂付いてるかなぁ」



 ムロガの街の宿屋には風呂はなかった。

 体の汚れはどうしたのかというと、宿屋から有料でタライに入ったお湯の提供を受けるのだ。そしてタオルで拭く。

 どうやってシャンプーするか悩んで相談したところ、


「シャンプー! シャンプーあるの!?」


 とエライ喰い付かれた。

 佐伯ほどではないものの他の2人も興味アリアリだ。

 俺はいつも部活には旅行用の小さい容器のシャンプーを持っていくのだが、前回で切らしたまま補充するのを忘れていたのだ。それで体育館に行く途中にあるドラッグストアで『どうせ家で使えばいいのだから』と補充用のお得な2本パックのシャンプーを買って部活に来た訳だ。

 しかしコイツらは部活後のシャワーでは頭をシャンプーで洗わないらしい。


「だってぇ、お家でお風呂に入りたいしぃ」


「俺も風呂派だから部活後のシャワーは汗を流す程度だな」


「俺は佐伯や近藤と違ってシャワー派なんだけどシャンプーは持ってこないな」


「リンスは? リンスはあるの?」


「俺はあんまり使わないから旅行用のセットの小さいのが確かバックの奥のほうに……」


 すると佐伯が何やら腰に手を当てて不思議な踊りをし始めた。


「なんだ? MPでも吸収するのか?」


「しなをつくっているのよ! いいからよ・こ・し・な・さ・い!」


 リンスは没収されてしまった。使わないから別にいいけど。

 その後洗面所に行きお湯を水で薄めながら頭を洗ったという騒動があったのだが、宿屋クラスの施設に風呂がない以上個人宅には期待できそうもない。



 案の定訪れた商館で要望を聞いた商人も渋い顔をした。


「風呂はお城か幹部クラスの大邸宅か高級宿ぐらいにしかありませんよ」


 まぁそうだろうな。


「大邸宅は物件にありませんか?」


 と佐伯が無茶なことを聞いている。

 あったとしてもそこに住むのかと……


「そんな大邸宅が貸家であるはずがないでしょう。売りに出されてすらないですよ」


 対応している商人も若干あきれ顔だ。


「あー、コイツの言うことはほっといていいんで、個室が4つある家はありませんか?」


「なんでよ! 一番重要で神聖なとこじゃない! 神聖不可侵なのよ!!」


「落ち着けって。現実としてないものは仕方ない。

 だが、俺はそこに一つの可能性があると考えている」


「ぐすっ、それは?」


 泣く程の事なのかよ……


「ないというのであれば作ればいい」


「!?」


「作ればそこに風呂は存在する。それがこの世の真理というものだ」


「そ、そうね! そうよ! 絡繰君もたまにはまともなこと言うわね!」


 いつもまともなこと言ってるつもりだったけど!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る