第21話

「兵団は王都のような大きい街のほうが稼げるのか?」


「その辺はよく知らんが……、この街は魔物の脅威がないからそういった意味では稼げんかもな」


「魔物の脅威がない?」


「ああ。ムロガの西にはトフの大森林があって魔物がたんまりいるんだが、何故か大森林の中での勢力争いに奴らは必死で外には出てこないんだ」


 その大森林というのは間違いなく体育館のある森のことだ。

 魔物がたんまりというのは……、魔物はおろか動物の1頭すらいなかったのだが……

 ひょっとしたら強力な個体同士の縄張り争いの余波で魔物と動物がどこかに移動してたとか。

 だとしたら俺達は絶妙なタイミングで森を抜けることができたということになる。


 今からすぐに体育館に戻れば皆を説得できるか?

 …………未練だな。

 残った人達は外の状況がどうというより体育館に居続けて日本に帰れるかもしれない可能性を捨てきれないんだ。

 本当に帰れるかなんて誰にもわからないのだし、彼らのほうが正しいのかもしれない。

 もう彼らのことは一旦忘れるべきなんだ。


「兵団をまとめてる事務所みたいなのはあるか?」


「指揮所のことかなぁ。それだったらあそこだよ」


 指差されたほうを見ると木造2階建てのそこそこ大きい建物で、頻繁に人が出入りしている。


「色々ありがとう」


 おっちゃんに1500コルトを渡した。


「まずは古着屋に行って服装を整えよう」



 古着屋ではとりあえず即着るモノだけ買ってその場で着替え、靴屋に行き靴も買って履き替える。

 古着は大体2000~3000コルト、靴はピンキリだったものの店員がオススメした動くのに適した5000コルトのものを購入した。どちらの店もやたら着てる服と靴を売って欲しいと言われたが。


 その後おっちゃんオススメの宿屋に行き、4人部屋と2人部屋に1泊することにした。

 値段は4人部屋が12000コルト、2人部屋が8000コルトだった。

 4人部屋に全員集まってもらう。


「今後の方針を決める前に確認というか念押ししたいことがある」


「なになにー?」「なんだ?」


「まず俺達が地球から転移してきた異世界人であるということは絶対に隠すことだ、職員のお2人もよろしいですか?」


「わかった」「わかりました」


「こっちの人と仲良くなったら教えても……いいんじゃないかなぁ(小声)」


「俺達だけなら自己責任でいいかもしれんが、森の体育館には他の部員と職員さんがいるんだぞ。いくら意見を違えていても彼らを巻き込むようなことはできない」


「わかったよぅ」


「同様の理由でスマホや携帯端末も秘匿してください。相手は法律や倫理観などで縛られてませんから、知られれば襲われて拷問される、という認識でいてください」


「自己責任ではダメなのかね?

 この世界は私達にとって珍しいことだらけだ。写真や動画に納めたい誘惑にずっとは抗えないだろう」


 高山さんがそう主張してきたがどうも前川さんの指示っぽいのか?


「自己責任ということは我々や体育館組のことは一切漏らさないと誓ってくれますか?

 もちろん例え前川さんが人質に取られても、例え身体を斬り刻まれてもです」


「そのようなことを誓うことはできないな」


「何故ですか? あなた自身が自己責任であると言ったのですよ?」


「それは自分が携帯を使うことで襲われたり狙われるのは仕方ないと思ったのだよ。

 しかし自分の命や他人の命を守る行いは認められていいはずだ」


 説得は絶対無理だろうな。

 いや、一応は試してみるべきか。


「それでしたら携帯を使用しない方向で同意できませんか?

 子供じゃないのですから携帯使うのを我慢するぐらいはできますよね?」


「私の物をどう扱おうが私の勝手だ! 君の指図は受けない!!」


 俺を睨む高山さんを見て説得は諦めた。


「高山さん達は当然今後我々とは行動を別にするのですよね?」


「そうなるな」


「でしたら共有物資の分配をしましょう」


「……わかった」


 共有物資をひとまとめにして高山さん達の2人部屋に向かう。

 

「俺が合図したら2人を押さえてくれ」


 小声で近藤と加川に伝えた。

 2人部屋に入り物資を分配する。


「ポリタンクとランタンはこちらで構いませんか?」


「ああ、いいだろう」


 手を上げて合図した。

 近藤と加川が2人の前に立ちはだかる。


「な、なにを」「え?」


 俺は2人の荷物から携帯を取り出した。


「申し訳ありませんが、携帯は私が預からせて頂きます」


「ふざけるな! 返せ!!」


 大銀貨を2枚机に置く。


「せめてものお詫びです」


「これは犯罪だぞ!!」


「私達や体育館組に危険が及ぶ要因は絶対に見過ごすわけにはいきません」


「日本に帰れたら訴えてやるからな!!」


「どうぞご自由になさってください。

 こうして電源を落として中は見ませんのでご安心ください。

 行こう」



「良かったのか?」


「あれは説得は無理だよ」


「警察みたいなとこに訴えたりしないかな?」


「こちらの人は現物がなければ話だけではとても理解できないだろうし、まして街の人でもない者の訴えなんてまともに取り合わないだろう。

 俺が出した金も受け取っているから、ちゃんと対価を払って借りたと強弁することもできる」

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