第19話
「この
近藤が自信を持って言う。
「実際は馬車は近代以降も使われていたけど、道を見るとタイヤの跡が何もないから近藤の言う通りだろう」
「しかし馬車も人もまったくいないな」
「ここに目印を作ろう。俺は森で拾っといた木の棒を立てるから、そっちは石を積み上げておいてくれ」
「わかった!」
「絡繰は再びここに来て体育館を目指す日が来ると思ってるのか?」
「こちらに余裕が出来れば残った人達を迎えに行ってもいいと思う。
物資も回収できるしな。特に蓄電池は大きい」
「それもそうか」
「では南に向けて移動するけど異論ある奴いるか?」
「異議ナーシ!」
南に歩いて行くと道が東(左)に向けてカーブしていく。
右手には体育館のある森が広がっていて、左手は草原だ。
道なりに進んで行く。
今は南東に向かって歩いている。
前方には右から広がっている森が視界と行く手を塞いでいて、その手前でもう一度東(左)にカーブするようだ。
カーブしながら進んで行くと段々と視界が開けていき、
「うぉ!」
「おおおおぉぉぉぉ!!」
「うわっ!」
「すげえぇぇ」
「ほぉ」
「……」
見渡す限りの麦畑が広がっており、ポツンポツンと家が建っている。
見た限りでは木造家屋の平屋で恐らく周辺の農地を管理してる農家なのだろう。
道の先には建物が密集しており街を形成してると思われる。
中には2階建ての建物もちらほら見受けられた。
建物は木造が大半で石造りの建物も通り沿いに建てられていた。
そして建物が密集している地域の向こうには城があった。
石造りの大きな城で、ヨーロッパ風の優雅な造りでも日本風の独特な繊細さでもなく、どちらかと言えば中近東系の武骨な感じの城である。
細心の注意を払いながら、尚且つ相手に警戒していると思われないように歩いて行く。
するとボールみたいな物が転がって来た。
農家の隣のスペースで子供達が遊んでいたようだ。
佐伯が転がって来たボールを子供たちに投げて返すと、
「ありがとう!」
という返事が返って来た。
佐伯が子供達に手を振りながら、
「聞いた? 今の聞いた? 日本語だったよ!」
と興奮気味に騒いでいる。
「近藤の解説ズバリだな」
「私、ちょっと行ってくる!!」
「お、おい……」
佐伯が子供達の方に走って行った。
子供から何か聞き出してくるつもりだろうか?
やがて一通り話し終えたらしく戻ってくると、
「ここはねぇ、ムロガの街であれはムロガ城なんだって」
「へぇ」
「お手柄だなぁ、佐伯」
「えっへん!」
それから農業地帯を抜け街に入っていく。
道幅も広くなり、今までの農道と違って整備された歩き易い道になっている。
中心に行くにつれ道の両側に店や屋台が並び始めた。
「佐伯、ちょっと…」
「なにー?」
「人が好さそうな屋台のおっさんがいたらさ、後で必ず買いに来るからと言ってこういう靴とか服を高く買い取ってくれる店を聞いてくれないか?」
「別にいいけどぉ、なんで私なのさ……」
ちょっと御不満な様子か。
「おっさん側からしたら可愛い女の子に聞かれた方が嬉しくてスラスラ答えると思うからさ」
「えへへへへ。そうかな?」
「男なんてそんなものだぞ。ああ後、屋台のひとついくらかも聞いてくれ」
「わかった! 行ってくるよー」
佐伯はコミュ力高いからこういう時助かるな。
しばらく周囲を観察する。
店頭に並んでいる商品の名札から文字も読めることがわかる。
ただ、どう見ても書いてある文字は日本語ではないし英語他の言語でもない。
まったく知らない文字なのに読めてしまう感覚はちょっと気持ち悪い。
通りには広告や看板なんてものは一切なく、店頭に商品の置いてない店は何の店だかぱっと見ではわからない。
「聞いてきたよー」
「ありがとうな。それでどうだった?」
「なんかお肉の串焼きみたいなのを売ってる屋台でね、1本100コルトだって」
コルトというのが通貨単位か。
見てみないとなんとも言えないが、貨幣価値は同じぐらいだろうか?
「服とか買い取りしてくれる店の場所は聞いたから、こっちだよ」
佐伯に案内されてしばらく歩き、2階建ての割と大きな店に入る。
「いらっしゃいませ」
礼儀正しく中年の男性店員が迎える。
こういう感じは異世界でも変わらないらしい。
「こちらで色々珍しい品を買い取ってくれると聞いて来たのですけど!」
「はい。色々と買い取らせて頂いております。お1人ずつ個別での御用で?」
「はいそうです!」
「それでしたら個室のほうにご案内致します」
店員も商売の匂いを嗅ぎ取ったのか丁寧に対応している。
まぁ俺達は見るからに普通の恰好してないからな。
店員は6畳ほどの部屋に俺達を案内して、外から椅子を3脚運び込んだ。
部屋の中は小さいテーブルがあり壁際に椅子が5脚並べられている。
壁際の椅子に座ろうとしたら腕を引っ張られた。
「最初は絡繰君からだよ!」
「まずはリーダーからだろ」
加川もしきりに頷いている。
くそぅ、様子見したかったのに。
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