第17話

 昨日昼休憩した丘のふもとまで2時間半掛かって辿り着いた。

 余分に時間が掛かったのは各自の荷物が重かったのと、予定されている長時間の移動の為にややゆっくりしたペースを維持したこと、そして何よりポリタンク(飲料水用)の持ち運びが厄介だった。


 20L用のポリタンクに水を15L近く入れて取っ手に鉄棒を通して飛脚みたいにして2人1組で運んでいる。

 俺と加川、力のある近藤が職員の高山さんと組んで20分交代で担いでいた。。


「このペースだと森の出口まで今日中に辿り着くのは厳しくないか?」


 水分補給しながら加川が聞いてきた。


「まぁな。だけど無理をして体調に負担は掛けたくない。

 ポリタンクの水もこの後各自補充すれば少し軽くなるだろうし、初日さえ乗り越えれば更に消費するはずだから楽になるはずだ」


 少し離れたところにいる職員の2人に視線を送りながら答えた。


「そうだな。それにしてもあの2人はどうして志願してきたんだ?」


 職員の高山さんは40代後半、女性の前川さんは40代中盤な感じか。

 加川も俺が2人の年齢に配慮してることを察したようだ。


「戦闘に関わりたくない以上、リスクを負ってでも人里を目指すべきだと判断したのだろう」


 そしてその判断は恐らく正しい。


「襲撃が繰り返されるのなら体育館に残っても死を待つだけか」


「なぁ、出発する際部長に言っていたが、草原を探索して何もないようなら体育館に戻るのか?」


 今度は近藤が聞いてきた。


「もちろんだ。写真のアレが道なら人里を目指す。川だった場合は……水は確保できるのだから本腰を入れて調査する感じか。

 何もないなら体育館に帰るしかない」


「しかしそれだと気まずくないか?」


「それは仕方ないよ。命には代えられないだろ?」


「そりゃあ……そうだけど……」


「それより、2人共よく志願してくれた。改めて礼を言うよ」


「ま、おまえがリーダーだからな」


「まだ言うか」


「俺は体育館にずっといるというのがどうもな……、それに部活でもないのに2年に命令され続けるのも嫌だし」


「そうか。佐伯もありがとな」


「ふぇ!? ほ、ほら、私冒険とか好きだし!」


「そうだったのか。それは初耳だな。

 それにしても女子グループから1人志願するのは相当な勇気がいることだったろう」


「それはあれよ! 愛と勇気の魔法少女☆ミカちゃんだし! ビシッ!」


「そ、そうか」


 まさか普段から魔法少女ネタを推しまくって女子グループの中で孤立していたのでは……


「な、なんか絡繰君から可哀そうな子を見るような目で見られているよぅ」


「そろそろ出発しよう」


「なんかフォローしてよ!!」




 その後佐伯がギャーギャーうるさかった以外は特に問題なく、昼休憩後は1時間毎に小休憩しながら東へ歩いた。

 ポリタンクの水も消費されて軽くなったおかげで移動スピードも上がったが、それまでのスローペースが響いて日が沈むまでには森の出口に辿り着けなかった。

 強行しようとの意見もあったが、暗い中での移動で転倒でもしてケガする危険を考えれば、早めに休んで明日の日の出から移動したほうが良いとの方針に落ち着いた。


「高山さん、前川さん」


「何でしょうか?」


 俺は夕食のおにぎりを食べた後に職員の2人に話し掛けた。


「お2人にも夜間の見張りをして頂きたいのですがよろしいですか?」


 いくら戦いたくないと言ってもそれぐらいしてくれないとこちらの負担が増すだけだ。


「構いませんよ。ただ、見張りの順番はできれば明け方のほうにしてもらえますか?」


「どうしてです?」


「我々は年齢的に夜中より朝早く起きる方が普段の生活リズムに近くて体調への負担も少ないのです」


「そういうことでしたら了解しました。そのように順番を組みましょう」


「配慮して頂いて感謝します」


「いえいえ、こちらこそ」




 明朝は日の出と共に出発した。

 移動すること1時間と少し、遂に森を抜けた。


 森を抜けると一面に草原が広がっていた。

 草の高さは膝から腰ぐらいで歩くのに支障になるようなことはない。

 少し先に見える高くなってるところで休憩と朝食にしようと提案して移動した。


 目標とした地点に着くと、周囲の草を軽く剣で斬り払いブルーシートを敷いて各自座った。

 朝食は最後のおにぎりである。


「こんな涼しいならもう1日分ぐらいおにぎり作って持ってきても良かったな」


 昨日・今朝とそれまでより気温は低く感じていた。


「そうだな。仕方ないけど」


「おまえらなんでそんなに落ち着いて関係ないこと話しているんだよ! あ、あれは……」


「そうだよ! あ、あれ、どこからどう見ても道じゃない!!」


 そう。休憩してる高台から東に3キロメートルほどのところに南北に走る道が見えた。


「いや。なんというか感無量過ぎてな。

 道はあるんだ。人里へ辿り着けるんだと心に念じ続けても確証はなかった訳で。

 それが目の前に形となって存在している。文字通り道が拓けた訳だ」


「ともあれおめでとう!」


「ふふふ。やったね!」


「決断して良かったな」


「みんな……ありがとう」

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