第15話

 今までのゴブリンとの戦いでは体格が上なこちらに圧倒的な有利さがあった。

 パワーとリーチで上回り、押し合いでも力負けせず蹴りが入れば吹っ飛ばせた。

 今度の奴は違う。

 見るからにパワーはあちらが上だ。


 徐々に互いの距離が詰まる。


 剣を振り下ろしてくる大ゴブリンにショートソードに鉄棒を添えて両手で持ってガードする。


「ぐっ」


 重い一撃を受け止めて押されてしまう。

 この隙に近藤が攻撃してくれれば……


「ぐはっ」


 腹に衝撃を受けて吹っ飛んだ。

 奴の蹴りを喰らったらしい。


 この間の近藤の攻撃は鎧に阻まれたようだ。


 手で蹴られたところを触る。

 どうやらアバラは折れてないようだ。


 今度は近藤と対峙している大ゴブリンの後頭部を左手に持つ鉄棒で殴る。


「グギャッ」


 殴った勢いそのまま回転して右手のショートソードで足を斬り付けた。

 アキレス腱を斬りたかったが上に逸れてしまい斬ったのはふくらはぎだ。

 そこそこ深く斬った感触があったのだが、その感触は裏切らず大ゴブリンは体勢を大きく崩す。


 そこへすかさず近藤が追撃する。

 大ゴブリンの顔面に鉄棒を叩き込んだ。

 その攻撃に呼応して俺は大ゴブリンの首筋を一閃する。

 俺が武器にしているショートソードは刃こぼれをしているので首を落とすことはなかったが、大ゴブリンは大量に出血して崩れ落ちた。

 


「絡繰、大丈夫か?」


「あ、ああ。今のところ痛みはないが後でアザになってるかもな」


 蹴られたとこをさすりながら答えた。

 痛くないのは過剰にアドレナリンが分泌しているからなのだろうか。


「防具とか着てないしな」


 薙刀職員と加川達は既に1体倒してもう1体を囲んでいる。

 俺は大ゴブリンが持っていた剣を拾い上げた。

 少し振ってみるが俺にはちょっと重い感じだ。


「近藤、この剣使ってみるか?」


「いいのか?」


「俺にはこっち(ショートソード)のほうが扱いやすい」


 倒れた早川先輩はそのまま息絶えていた。


「使わさせてもらいますね」


 早川先輩の目を閉じさせて黙祷する。

 そして早川先輩の使っていたショートソードを譲り受けた。



 ゴブリン1体を囲んでいるほうが妙に騒がしいので見てみると、

 佐伯が囲みに参加してパイプ椅子を振り上げてワーキャー騒いでいた。


 何をやってるんだ、アイツは……


「佐伯! 邪魔になってるぞ、おとなしく下がっとけ!」


「ぜぇぜぇ、え、えぇぇぇ、私だって戦える、よ!!」


「いいから下がれ、おまえだって自分のせいで誰かが傷でも負ったら嫌だろう?」


「ううぅぅ…、わかったよぅ…」


「こういう時は周囲を警戒して新たな敵が出現したら知らせるのも立派な役目だぞ」


「そ、そうだね! うん、頑張るよ!!」



 2年の様子を見に行こうと出入口に向かうと、外で様子を伺っていた待機組の女子(1年3人・2年2人)が中に入って来た。


「早川先輩は見殺しか?」


「はぁ?」


「何言ってんの?」


「男子が女子を守るのなんて当たり前だし!」


「お、おい絡繰」


「あの遺体を見て同じことが言えるのか?

 別に戦わなかったことを責めてるんじゃない。

 だけど少しでも敵の注意を引き付けようとか早川先輩を援護する気持ちはなかったのか?

 自分達だけ逃げて見殺しか?」


 早川先輩の遺体を指差して言う。


「おまえだって佳奈を守らなかったじゃないか!!」


 菅原洋子が俺を睨んで来る。

 前回の襲撃時に亡くなった三嶋佳奈か。

 あの状況で守るなんて不可能だが、敵襲を予測できなかったことを言ってるのかな。


「そうだな、三嶋さん『は』生きていて欲しかったな」


 少なくともこんな奴らを守る為に剣を握りたくない。

 明日というかこの後か。

 志願者が3人いなかったとしても東を目指そう。

 最悪志願者が誰もいなくて俺1人だったとしてもだ。




 2年の担当の右側の階段を上がっていく。


 あの大ゴブリンに押されて退いていったのか?

 階段の上に陣取ったほうが有利なのだ。

 その有利な状況で戦えなかったとすると……


 2階に着くと状況がはっきりしてきた。

 この階のあちこちに2年が倒れている。

 おそらく大ゴブリンに突破されてそのまま各個人で戦ったのだろう。

 あの部長の指揮では立て直せなかったのだろうな。



 ん?

 物陰からゴブリンが飛び出してきた!


「まだいるのかよ」


 右手にショートソードと一緒に持ってる鉄棒でゴブリンの体を突き、左手に持ってる早川先輩の

ショートソードで斬り付けて、先程突いたと同時に鉄棒を手放した右手のショートソードで止めを刺した。

 この三段攻撃はなかなかだな!



 よく見てみると2年はまだ生きているようだ。

 観客席から体育コートを見下ろしてみる。


 薙刀職員と加川達が1体のゴブリンを囲んでいた。

 何を手間取っているんだと疑問に思ったが、彼らの近くにゴブリンの死体が2体あることから新しく現れたゴブリンに対応しているみたいだ。


「近藤、もうすぐ見張りの時間だから行ってくる。今誰も見張りしてないようだしな」


「この後どうすればいいんだ?」


「2階のケガ人は1階に、ゴブリンの死体を確実に死んでいるかチェックして外へ運ぶ、かな?」


「わかった!」

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